表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/31

5話「どの口が言うのかしら?」


一人残されたレイモンド様がフラフラと立ち上がる。


音もなく歩き出すレイモンド様に手向けの言葉を送る。


「昨日婚約破棄の話し合いの場にお二人が立ち合い、誠心誠意私に謝罪されたのなら、慰謝料は減額してもよかったのですよ」


レイモンド様が振り返りすがるような目で私を見る。


「……そのような話し合いの場が持たれるなど俺は知らなかった」


「そうですか? イエーガー公爵はあなたに『学園が終わったら真っ直ぐ家に帰るように申し付けた』と話していましたが」


イエーガー公爵には婚約破棄についてレイモンド様を交えて話し合いがしたいと、事前にお伝えしましたからね。


「それは……」


レイモンド様が言い淀み、視線を逸らした。


イエーガー公爵の言いつけを無視して家に帰らなかったのですね。


イエーガー公爵も学園にレイモンド様を迎えに行き、無理矢理にでも家に連れて帰るべきでした。


イエーガー公爵は私がレイモンド様の不貞についてあれこれと申し立てをしても証拠なんてない、何とでも言い逃れ出来ると高を括っていたのでしょう。


女王陛下の立ち合いのもと数々の証拠を突きつけられ、イエーガー公爵は初めて顔を青くされました。


「イエーガー公爵は『息子を呼んでくれ! これからはレイモンドを厳しくしつける! アリシア嬢に謝罪させる! アリシア嬢を大切にするように諭す! 二度と浮気などさせない!』とみっともなく叫んでいました」


本当にこの期に及んでどの口が言うのかしら?


散々私からの報告を無視し、私とフィルタ侯爵家を軽んじておいて、証拠を出され追い詰められたら、土下座して口先だけの謝罪をする。土下座をすれば許されると思っているから質が悪い。


母も私も女王陛下もイエーガー公爵の土下座になど一ミリも心を動かされませんでしたけど。


父は婚約破棄の話し合いの場に参加させませんでした。泣き落としに弱い父は婚約破棄の場に不向きだと母が判断しました。


「あまりにイエーガー公爵が騒ぐので女王様が近衛兵に命じレイモンド様を呼びに行きましたの。レイモンド様はミランダ様と宿屋でお楽しみの最中でしたわ。その知らせを聞いた母と女王様は激怒、イエーガー公爵はお顔を真っ青になさってましたわ」


私はレイモンド様の浮気には慣れっこなのでまたかと思いましたが、母と女王陛下は違ったようで、二人の怒りは凄まじかったです。


「母が婚約破棄の他に、イエーガー公爵家との取引を今後一切行わないと決めたのはこの時なんですよ」


イエーガー公爵の言いつけを守り家に帰って軽く頭を下げれば、小額の慰謝料を払う程度で済みましたのに。


浮気相手と宿屋でお楽しみだったとは、身から出た錆、自業自得ですね。


レイモンド様は反論する力もないのか、キッと私をにらみつけただけで踵を返しました。


食堂にいた生徒が冷ややかな視線をレイモンド様に送る。クスクスと笑い、ひそひそと悪口をささやき、中には大声でレイモンド様を罵倒する者もいた。


レイモンド様はまだ食堂にいらっしゃるのに、皆様容赦ないですね。


レイモンド様は自分より身分の低い方、特に殿方に辛く当たっていましたからね、恨まれていたのでしょう。


レイモンド様の姿が完全に見えなくなるのを待って、私は食堂にいる方々に頭を下げた。


「お食事中の皆様、大変お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありませんでした。お詫びに今日のランチは私がごちそうします、どうぞお好きなものを召し上がってください」


食堂にいた生徒から歓声が湧いた。歓声を上げた人の中に先生が交じっていたような……気のせいでしょうか?


おかわりや追加注文をする生徒がカウンターに列をなした。


食堂のメニューはピンからキリまである、下位貴族の生徒や平民では高価なメニューは注文できない。この機会に食べておきたいのだろう。


おかげで食堂のシェフは大忙し、後で彼らのこともねぎらってあげなくては。




少しでも面白いと思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を押して評価してもらえると嬉しいです! 執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ