22話「第二王子ルシャード」
「母上もお人が悪い、ザックス男爵家、トーマ男爵家、コッホ男爵家、ヴァイル準男爵家などお取り潰しにして、貴族名鑑から抹消し牢獄にでも入れてしまえばいいものを。真綿で首を締めるようなことをなさり……大衆の見世物にするとは」
「あらルシャード遅かったですね」
「母上が是が非でも参加しろとおっしゃるので参加いたしました、会いたい方もおりましたし」
現れたのはこの国の第二王子ルシャード・マイスター殿下でした。
ルシャード殿下は金色の髪に青い瞳の見目麗しい貴公子です。
「ザックス男爵家、トーマ男爵家、コッホ男爵家、ヴァイル準男爵家の人間は、女王である母上の不興を買い爵位を落とされ、王宮には母上のひ孫の代まで足を踏み入れることを禁止された。
さらにフィルタ侯爵家、シュティーア公爵家、クレープス公爵家と縁を切られた。
誰もそんな家に関わろうとしないでしょう。放っておいても没落し、自ら爵位を返上し、平民落ちして野垂れ死にするのは目に見えています」
ルシャード殿下のおっしゃるとおりの事が起こると私も思っています。
「だからあえてそうなるように仕向けているのですよ。孤立無援の中頼れるものは貴族としての己のプライドのみ。そのプライドを自らの手で返上するのは、どれほどの苦痛が伴うのかしらね? 牢屋でぬくぬくと暮らしタダ飯を食らうなんて許さないわ。私がそんな税金の無駄遣いをすると思って?」
女王陛下は扇子で顔を覆いくすりと笑った。女王陛下の見る人を凍りつかせる妖艶な笑みに背筋がゾクリとした。
彼らを牢獄に入れるのは容易い、それをしなかったのは落ちぶれていく彼らを見て楽しむため……。
女王陛下だけは怒らせてはいけないと肝に銘じた。
「それはそうと久しぶりだねアリシア、会いたかったよ」
ルシャード殿下がにこやかに挨拶をする。
「お久しぶりです、王子殿下」
私は貴族の礼儀に従いカーテシーをする。
「王子殿下なんて他人行儀な呼び方はやめてくれ、幼なじみなんだから昔のようにルシャードと呼び捨てにしてほしいな」
ルシャード殿下と私は、一時期王宮で同じ先生の下で机を並べ勉強をした仲です。
ルシャード殿下に二人きりのときは名前で呼んで欲しいと言われ、呼び捨てにしていたことを思い出します。
幼かったとはいえ婚約者でもないのに、第二王子を呼び捨てにしていたなんて……黒歴史です。
「そう言うわけには……」
私もルシャード様ももう大人、婚約者でもないのに馴れ馴れしく呼び捨てにするわけにはいきません。
「気にすることありませんよアリシア、女王である私がルシャードを名前で呼ぶことを許可します」
「ほら母上もこう言ってるし」
女王陛下からの援護射撃を受け、ルシャード殿下がにこにこしながら迫ってきます。
これは断りづらいですね。
「承知いたしました。ではお言葉に甘えてルシャード様と呼ばせていただきます」
この呼び方が精一杯の譲歩です。
「昔のように、呼び捨てにはしてくれないの?」
ルシャード様が悲しげな顔で小首をかしげる。子犬みたいで可愛いと思ってしまったのは内緒です。
「流石にそれは……」
相手は幼なじみとはいえ王族、何も知らなかった幼い頃のように呼び捨てにはできない。
「そっか、残念」
ルシャード様が捨てられた子犬のように瞳をうるうるさせる、そんな顔で見つめるのは反則です!