21話「嘲笑」ざまぁ回
「つまらないことに時間を取られてしまいましたね、さぁパーティーを始めましょう」
女王陛下の言葉を合図に楽師たちが雅な音楽を奏で、客たちがダンスを始める。
会場の隅に一列に並べられたザックス男爵家、トーマ男爵家、コッホ男爵家、ヴァイル準男爵家の人間は、客たちから好奇な視線を向けられ、嘲笑され、悪口を囁かれた。中には聞こえるように大声で罵倒する者もいた。
「ロビサ様は昔から男遊びが激しくて、誰彼構わず媚を売っていたのよ」
「それを言うならコッホ男爵夫人も同じよ、貴族平民問わず見目の良い殿方には声をかけていたもの」
「まぁ、なんて節操がないのでしょう」
「類は友を呼ぶと言いましてよ」
「レイモンド様の父親は本当にイエーガー公爵だったのかしら?」
「ロビサ様にも誰の子か分からないのではなくて?」
「トーマ男爵家の人間はセンスがないわよね、今日お召しになっているドレスはお祖母様のお古かしら? 時代遅れもいいところだわ」
「そんなに大声で言っては気の毒よ、本人に聞こえましてよ」
「聞こえても構いませんわ」
「それもそうね、これは公開処刑……皆様への餞別ですもの」
「コッホ男爵は十三歳までねしょんべんを垂れていたらしいぞ」
「それは恥ずかしいな、未だにおねしょをしてるんじゃないよな?」
「ヴァイル家は終わりだな準男爵が仕官出来ないのでは……生きている価値すらない」
「ザックス男爵は試験の時は教師を買収し、テストの問題を事前に手に入れていたらしいぞ」
「クズだな! 死ねばいいのに!」
「王家に見捨てられた恥晒しどもめ! 貴様らの家とは二度と取り引きをしない!」
「わしならこんな辱めを受けるぐらいなら死を選ぶね!」
「平民になったら家に来るといい、娼婦の代わりに抱いてやるよ!」
「人妻でも元貴族なら高値で買ってくれる娼館があるらしい、なんなら教えてやろうか?」
「男も買ってくれる娼館もあるんですよ、教えてさしあげましょうか?」
「ふふふふふっ!」「ハハハハハハッッ!!」「ククククククッッ!」「ホーホッホッホッホッホッ!!」
陰口は社交界での行動から領地の運営方法、お茶会での失態やセンスのない服装についてなどごく最近のものから、学園時代の素行や成績や恋愛事情、五歳のときに泊まりに来ておねしょをしたなど、遥か昔の黒歴史まで含まれていた。
ザックス男爵家、トーマ男爵家、コッホ男爵家、ヴァイル準男爵家の人間は黙って人々の嘲笑に耐えていた。
疲れ切った顔で立ち尽くしている者、死んだ目をしている者、涙を堪え俯いている者、気丈にも噂をする人々を睨んでいる者に分かれていた。
婦人の殆どは顔に手を当てて泣いている。だが泣いたところで許されはしない。
「こんな罰には耐えられん!」と言ってコッホ男爵家の次男が逃げ出そうとした。
他の三家の人間がコッホ男爵家の次男を取り押さえ「お前が逃げたら俺たちも除籍処分にされるんだ!」と言ってボコボコにしていた。
女王陛下に指一本と動かすなと言われたはずなのですが……。
貴族でいられるかどうかがかかっているので、皆さん必死ですね。
彼らを支えているのはもはや貴族としてのプライドだけのようです。
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