20話「女王陛下の裁き」ざまぁ回
「あなた方は二つの罪を犯しました。一つ目は妹や妻が女王である私に暴言を吐いてるのを知りながら窘めなかったこと」
王室主催のパーティーで女王陛下を貶める発言をしている家族を止めないで傍観しているなんて、ザックス伯爵、トーマ子爵、コッホ子爵、ヴァイル男爵はどうかしている。
「二つ目は私に嘘をついたことです。ザックス伯爵は飲み物を取りに、トーマ子爵はバルコニーに、コッホ子爵は廊下に、ヴァイル男爵は知人と話していると言いましたね。でも実際はアリシアの近くにいた」
すぐバレるような嘘をなぜついたのでしょう?
「あなた方の行動は影が見ていました。パーティーの会場です、他にもあなた方の行動を見ていた人はいるでしょう。それを我が身可愛さにすぐバレるような嘘をつくなんて……あなた方は考えが浅くとても愚かですね」
女王陛下が四人の男性に冷ややかな目を向ける。
ザックス伯爵とトーマ子爵とコッホ子爵とヴァイル男爵は俯いている。その顔色は青を通り越して紫だ。
「あなた方への裁きを申し渡します。主犯であるザックス伯爵令嬢の実家ザックス伯爵家は二階級降格」
ザックス伯爵とロビサ様が呆然唖然としている。ザックス伯爵家は二階級降格で男爵家となった。
「共犯であるトーマ子爵家、コッホ子爵家、ヴァイル男爵家は一階級降格」
各家の当主と夫人が真っ青な顔でうなだれた。
トーマ子爵家とコッホ子爵家は一階級降格で男爵家に、ヴァイル男爵家は準男爵となった。準男爵は一代限りだ、子孫は武術や学問や医学で功績を立て新たに爵位を賜るしかない。
「ザックス男爵家、トーマ男爵家、コッホ男爵家、ヴァイル準男爵家の人間は私のひ孫の代まで、王宮に足を踏み入れることを禁止します」
女王陛下の言葉を聞いた四家の人間が愕然としている。ヴァイル準男爵に至っては膝から崩れ落ちた。
王宮に出入りを禁止されるということは出世の道が閉ざされたということだ。
フィルタ侯爵家、シュティーア公爵家、クレープス公爵家から取引を断られたので、商売は成り立たない。
その上王宮への出入りを禁止されたので、功績を残し出世する道も閉ざされた。
四家が没落する未来しか見えない。
「ザックス男爵令嬢、トーマ男爵夫人、コッホ男爵夫人、ヴァイル準男爵夫人は貴族名鑑から除籍します」
女王陛下の護衛に取り押さえられ、床に膝を突いていた四人の夫人は全身の血が抜け真っ白になっていた。貴族名鑑から除籍された四人は平民となった。
四人の女性は僅かな時間に、十以上年老け込んだように見えた。
「女王陛下! 妻とは離縁します! だから降格処分と王宮への立ち入りを禁止する処分はお取り下げ下さい!」
ヴァイル準男爵が泣きながら女王陛下にすがりつく。
「私も妹を勘当します! ですから降格処分の撤回を……!」
「私も妻と離縁します! ですからお慈悲を……!」
「妻と縁を切ります! 女王陛下寛大なご処置を……!」
ザックス男爵、トーマ男爵、コッホ男爵が床に手を突き、床に頭をこすりつけた。
「あなた方に発言を許可した覚えはありません。本当に礼儀がなっていませんね」
女王陛下が不愉快そうに眉を釣り上げた。
「あなた方は何か勘違いしているようですね。今回のことは妹や夫人と縁を切れば良いという話ではありませんよ。
妹や夫人が王族への暴言を吐いているのを知りながら静観していた。妹や夫人が私への暴言を吐いていたときその場にいなかったと女王である私に嘘をついた。
あなた方の爵位が降格したのはそれが理由です。妹や奥方と縁を切ったところで、処分は変わりません」
涙を流していた四人の男性の顔が絶望に染まる。
「あなた方がパーティーに出席するのはこれが最後になるでしょう。せめてもの温情ですパーティーを楽しんで行きなさい。除籍処分はあなた方がこの王宮を出てからとします」
女王陛下の温情でしょうか?
「ザックス男爵家、トーマ男爵家、コッホ男爵家、ヴァイル準男爵家の人間は、パーティーが終わるまで壁際に一列に並んで立っていなさい。途中で退席することも、飲み物を口に含むことも、口を開くことも、身動きすることも許しません。衛兵は彼らを見張りなさい」
このお仕置きには覚えがある。ロビサ様が公爵夫人だったとき、イエーガー公爵家のお茶会に遅れて来た私に命じたのだ。
「お茶会に遅れて来るなんて非常識ね、罰として口を開かず身動きせずにソファーの横に立っていなさい」と。
嘘の時間を教えられ、イエーガー公爵家に着いたときには一時間も遅刻していた。
お茶会の行われる部屋に入るとロビサ様と取り巻きのトーマ子爵夫人、コッホ子爵夫人、ヴァイル男爵夫人の四人から睨まれた。
ソファーの横に立たされている間、数時間にわたって私の欠点やフィルタ侯爵家への悪口を聞かされた。
女王陛下は私がされたことを彼らにやろうとしている?
「一人でも退室した場合、連帯責任として全員の名前を貴族名鑑から削除します」
「「「「…………っっ!!」」」」
四家の人間から声にならない悲鳴が漏れた。
女王陛下はお人が悪い。ザックス男爵家、トーマ男爵家、コッホ男爵家、ヴァイル準男爵家の人間は王室主催のパーティーで騒ぎを起こした。
会場にいるお客たちは彼らの噂話をしたくてうずうずしている。
自分に関する悪い噂を延々と聞かされるのは、想像している以上にダメージが大きい。
私の時は悪口を言う人間が四人だからまだましだったが、それでも心臓を抉られるような痛みを感じた。
会場内には数百人の人間がいる。
数百人から数時間にわたり嘲笑され、見下され、罵られ、好奇な視線を向けられる……。その精神的な苦痛は想像を絶するだろう。
会場を出るとき彼らは通常の精神でいられるかしら?