16話「不敬罪」
「おだまりなさい、あなたに発言を許可した覚えはありませんよ」
女王陛下に叱責されロビサ様は口をつぐんだ。
「今の発言はいくつか問題がありますね。まず一つ目あなたは今アリシアのことを【侯爵令嬢ごとき】と言ったけど、あなたはもうイエーガー公爵夫人ではありません。アリシアより身分が下の伯爵家の令嬢です、口を慎みなさい。
二つ目、アリシアの身に着けているドレスと宝石は私がプレゼントしたものです」
私が身に着けているドレスが女王陛下からの贈り物と分かり、ロビサ様を含む四人の顔色はますます悪くなった。
彼女たちは女王陛下からプレゼントされたドレスを破り、宝石を奪い取ろうとしていたのだから。
「三つ目、女王である私を嘘つき呼ばわりした。これは不敬罪に当たりますよ」
女王陛下が冷たい目で四人を見据える。
四人の歯は震えから噛み合わないのか、ガチガチと音を立てている。
「恐れながら女王陛下を嘘つき呼ばわりしたのはロビサ様です! 私達は何も発言しておりません……」
「そうです、無関係です」
「あなた達! 私を裏切る気!」
ロビサ様たちが仲間割れを始めた。
「お黙りなさい、あなた方に発言を許可した覚えはありません」
女王陛下の凛とした声が響き、四人は静かになった。
「不敬罪に問うのはあなた方四人です。『女王陛下もろくでなしの無能、アリシアの言葉だけを信じるなんて女王陛下は酷い、こんな女を信じるなんて女王陛下は見る目がない、あなたの味方をした女王陛下が許せない!』この言葉に聞き覚えはあるでしょう?」
先ほど影が女王陛下に報告した言葉だ。
ロビサ様と取り巻きの顔が白い。王族への発言は気をつけなくてはいけないのに。パーティでそのような発言をすれば不敬罪に問われるのは決まっている。
「先程も話しましたが私は影を使い証拠を集めました。レイモンドが不貞を働いたのは間違いありません。
婚約を破棄するために私がイエーガー公爵家を訪れたとき、レイモンドはどこにいたかザックス伯爵令嬢は知っているでしょう? レイモンドは浮気相手の男爵令嬢と宿屋でお楽しみの最中だったのよ」
トーマ子爵夫人、コッホ子爵夫人、ヴァイル男爵夫人がロビサ様の顔を見た。どうやら取り巻きの三人はこの事を知らなかったらしい。
「それなのにザックス伯爵令嬢はアリシアが不貞の証拠を捏造し、愚かな私はアリシアの言葉を信じ、イエーガー公爵家を陥れたと言いたいのね?」
女王陛下は表情こそ柔らかく口調も穏やかだが、その言葉には威圧感があり、見る者を凍りつかせた。
ロビサ様は恐怖で体を震わせるしか出来なかった。
もっと早くに現実を受け入れていれば、こんなことにならずに済んだのに。
「トーマ子爵夫人、コッホ子爵夫人、ヴァイル男爵夫人はザックス伯爵令嬢の言葉が正しいと思ったからアリシアを攻撃し、私を貶める言葉を発した、そういうことですね?」
トーマ子爵夫人、コッホ子爵夫人、ヴァイル男爵夫人は陸に打ち上げられた魚のように、身体を震わせ、口をパクパクさていた。
「ザックス伯爵令嬢、トーマ子爵夫人、コッホ子爵夫人、ヴァイル男爵夫人この四人の処罰をどうしたものかしらね?」