10話「王室主催のパーティー、元イエーガー公爵夫人と取り巻きたちからの苛め」
イエーガー公爵家との婚約破棄から一カ月が経ちました。
色々ありましたがレイモンド様ともイエーガー公爵家とも縁が切れてスッキリしています。
今日私は王室主催のパーティーに出席しています。
母は急用で来られなかったので父にエスコートしてもらいました。
ドレスは女王様から贈られた流行のドレスを身に着けています。
色は明るい黄色。
胸元にリボンの沢山ついた華やかなドレスです。
とても優美なドレスです。
豪華だけど派手過ぎず洗練されたデザインのドレスで、女王陛下の趣味の良さを伺えます。
パーティの参加者がちらちらとこちらを見ている。
ネックレスは、中心に大きなダイヤモンドがあり、その周りに小さなサファイアがあしらわれています。
イヤリングにも、ダイヤモンドが使われています。
少し前まで、エメラルドが流行っていましたが、今の流行りはダイヤモンドです。
アクセサリーとドレスと同じ色の扇子も、女王陛下からの贈り物。
こんな高価なもの一度にいくつも頂けないとお断りしたのですが、「今日会わせたい人がいるの、私を助けると思ってこれを身に着けてきて」と押し切られてしまいました。
女王陛下が私に会わせたい人ってどなたかしら?
父がお仕事でお付き合いのある方々に挨拶に行くと言って私の側を離れました。
飲み物をいただこうと給仕の方を探していると、突然誰かに後ろから突き飛ばされ膝を突きました。
「キャッ」
顔を上げると、四人のご婦人に取り囲まれていました。
「ごきげんよう、アリシア」
私を鬼のような目で見下ろしている人物は、元イエーガー公爵夫人、現ザックス伯爵家の出戻り令嬢、レイモンドの母親のロビサ・ザックス様でした。
「イエーガー夫人……いえ今はザックス伯爵令嬢……と呼ぶべきでしょうか」
ロビサ様はイエーガー公爵と離縁されご実家のザックス伯爵家に戻られました。なのでもうイエーガー公爵夫人とは呼べません。
出戻りでも伯爵令嬢とお呼びしていいんですよね? 他に呼び方もありませんし。
ロビサ様のお隣にいるのはトーマ子爵夫人、コッホ子爵夫人、ヴァイル男爵夫人でした。
この四人にはレイモンド様との婚約中、散々煮え湯を飲まされました。
私とレイモンド様の婚約は、イエーガー公爵がフィルタ侯爵家の当主である父に頼み込んで成立したもの。
イエーガー公爵の目的は事業への融資。
レイモンド様がフィルタ家に婿に入ることが、父が提示した婚約の条件でした。
そのことをイエーガー公爵夫人であったロビサ様にも説明したのですが、ロビサ様は正しく理解されませんでした。
ロビサ様の頭の中ではレイモンド様に一目惚れした私が、父に頼み込み無理やりレイモンド様の婚約者になったことになっています。
レイモンド様は一人っ子なので婿に行くはずもなく、当然格下の侯爵家の私が嫁に来るものだと思い込んでいたようです。
思い込みが激しく事実を正しく理解しないところは、ロビサ様もレイモンド様も同じですね。さすが似た者親子。
「レイモンドの容姿なら侯爵家の娘と婚約しなくても引く手あまたでしたわ。イエーガー公爵家と同じ公爵家、いえ王族こそがレイモンドの相手にふさわしかったのに、人の好い主人に泣きついて無理矢理レイモンドとの婚約を成立させ、レイモンドの将来を台無しにして!」と顔を合わせるたびに嫌味を言われました。
レイモンド様はお顔は整っていますが、頭が悪く怠け癖があり、素行もよろしくない。そんな人間が王族と婚約出来る訳がありません。
そもそも私の方こそ借金塗れのイエーガー公爵家の顔しか取り柄のない出来損ないのバカ息子と婚約するメリットなんて一ミリもありませんでした。イエーガー公爵が父に土下座して頼みこんで、情に脆い父がほだされて結ばれた婚約です。
そのことを正しく理解しないロビサ様とレイモンド様、妻と息子が私を蔑ろにしていることを知りながら放置していたイエーガー公爵。三人まとめてろくでなしです。
レイモンド様と婚約していたという事実は人生の汚点。レイモンド様と婚約していた二年間はドブ川に捨てたも同然。レイモンド様が不貞を働いたとはいえ婚約を破棄した私は傷物令嬢扱い。将来を台無しにされたというセリフは私が言いたいです。