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≪2032年4月19日 8時≫
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「 昨日午後一時ころ、紫薔薇市斗幕町の青月通りにて、複数の通行人が注射器を持った男女に謎の薬を投与されそうになる事件が発生致しました。この件で投与されそうになった通行人は『けっこう必死な口調だった』『時間がないとか、あなたの為なんですとか、よくわからないことを涙目で喋っていた』『見ていて応援したくなる』と逆に相手の事を心配するようなコメントが多く戸惑っている様子でした。その後、警察が通報を受け青月通りに駆けつけると、何人もの不審者が逃走する姿が目撃されていました。実際に注射器で投与された者はおらず、警察は見回りなどの強化をし再発の防止を…」
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「よし、今日は占い1位だし天気も晴天! これは今日の昼飯かけたトランプ勝てるな!!」
「…今回こそ……。あぁ…でも……いや…」
「うん? なんだあの人…?」
「…? 何見てるんですか? おはようございます」
「あ、すみません。おはようございます」
「……」
「……」
「…あ、ではこれで」
「あっ。はい。はいすみません。さよなら」
「………何か……いい素材………」
「…行っちゃったけど、なんだったんだあの女の人?」
「…まぁでも美人だったなぁ。…まてよ、今日は晴天だし占い1位だし、美人と話せたし俺今日最強なんじゃねぇか?」
「おいおい、今日は絶対勝てる日だぜおい! これはメガネ達に何おごってもらおうか今から楽しみ…? ……?」
「あの車、異様に早いな。速度オーバーしてないか?」
「というか、え? こっちくる? いやこっち歩道!? 俺轢かれ」
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「よぉデブ」
「メガネおはようー」
「お前、茶髪みなかったか?」
「茶髪? 見てないよ? というか、皆集まってどうしたの?」
「マジかよ。今日朝早く来て昼飯をかけてトランプしようぜって言ってたくせに発案者が遅刻かよ」
「え、昼飯かけた勝負? なんで誘ってくれなかったの?」
「お前だけ俺らと本気度合いが違うから怖ぇんだよ。今も話し聞いただけで目ギラギラしてるしよ」
「なにそれぇ」
「はぁ…にしても、電話してもでねぇし何やってんだあいつ」
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「お兄ちゃん準備できたー?」
「ちょっと待て! もうすぐで終わる!!」
「早くしないと、先に小学校行っちゃうよー?」
「駄目だぞ! 今近所では不審者が出るんだぞ!! お兄ちゃんが無事に小学校に行けるよう送って行ってあげるから!」
「じゃぁ早くー」
「わかったから! …よし! じゃぁ行くか!!」
「うん! 行ってきまーす!」
「あぁ待てお前靴紐結んでないじゃないか!? 転ぶぞ!?」
「転びそうになってもお兄ちゃんが転ぶ前に受けとめてくれるでしょ?」
「勿論!」
「えへへ。お兄ちゃんありがとう!!」
「あ、お兄さんおはようー」
「お。確か妹と同じクラスの娘だな? 最近よく会うな。おはよう」
「はい! よく会いますよねー」
「…何でいるの?」
「えー?」
「どうした?」
「私知ってるんだよ? 待ち伏せしてるの」
「してないよー? どうしたのー? 変だよー?」
「嘘つき!! 私のお兄ちゃん取る気なんでしょ!!」
「取るきないよー。貰ってもらうんだよー」
「この泥棒猫!!」
「ちょ、なんだ!? 朝からなんだこのノリ!?」
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「ヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
「え? ノノたんから連絡がない?」
「あぁ。というか、他にも連絡がつかない奴が何人かいるな」
「…なんか、最近多いね。風邪とかはやってて皆寝こんでるのかな?」
「いや、単に学校行ってるだけなんじゃねぇのか?」
「ヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
「まぁゲーセンでメダルゲーしてる俺らの方がおかしいしなぁ」
「ヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
「最近は集まりも悪くなってきたし、今後の身の振り方を考えないとなのかな」
「身の振り方って、今更俺らが?」
「ヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
「おめーうるせぇんだよここ店内だぞ常識ねぇのか!」
「あっ、ごめん」
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「…よし。成功だ」
「いいか? お前は私の遺児だ」
「私の計算では昼に全てが始まる。アラームが鳴り次第お前は全ての鍵を、扉を開けろ」
「私の子供たちが世界に広がり、更なる進化をする」
「楽しみだ。楽しみ過ぎる」
「それを私が全て記録できないのは少し悔しいが、子の為に犠牲になるのが親と言うものだ」
「なぁに心配するな。お前には拡散剤・発情フェルモン、その他諸々のものは投与していない。なんて言ったって私の遺児になるのだからな」
「…ん?」
「ほう! 出来たての死体を…」
「…時間が、いや、だが惜しいな…」
「私は今急用が出来た。お前はアラームが鳴るまで寝ていなさい」
「なに、ちゃんと協力者はいる。心配するな」
「じゃぁ、おやすみ。私の愛おしい娘よ」
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「あー、今日も死ねなかった…」
「もう毎日朝に屋上来て町の風景眺めてる人みたいになってる…」
「なんだよクソ爽やかかよ…」
「起きるとよし死んでやるぞってなるのに、いざ高いとこ来て下をみるとビビっちゃうんだよなー…」
「大体なんで私が死ななきゃならないのよ…」
「いじめたりするクラスメイトや、身体目当てに優しくして来る先生とかが私の代わりに死ねよ…」
「あぁなんか腹立ってきた…」
「親も親で私の事全く気にかけないし…」
「あぁくそなんで私がこんな思いを…」
「…はぁ…。学校いこ…」
「いやでもやっぱ行きたくねぇなぁ…」
「あぁぁぁぁぁ…」
「こんなクソみたいな世界死んでしまえ…」
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「お母さーん。荷物納品したよぉ」
「あぁ有難うね。裏の方に中身仕分けして置いといて」
「えー、これも裏いきなのぉ? もう倉庫どころか家中売り物の保存食だらけだよぉ?」
「保存食は大事だって何回も言ってるでしょ?」
「うーん。お母さんが自然災害、えぇと、地震とかで困ったのは何度も聞いてるけど、こうも保存食だけ置いてたらお客さん来ないよぉ…」
「しっかり売り上げあるんだから需要ある証拠でしょ」
「もう、私はお菓子とかスイーツとかを取り扱った方がいいと思うんだけどなぁ。ここに来る人なんて肉まんを買う1人を除いて全員おじいちゃんおばあちゃんだもん。もっと若者を呼び込もうよぉ」
「しっかり先の事を見据えるのは若者に必要なことよ」
「むー…」
「あんたも先を見据え沢山勉強しなさい」
「それ今関係ないじゃんかぁ」
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「 3月7日、紫薔薇市で謎の生物が撮影された。この映像は、緑形山へキャンプに訪れていた家族によって撮影されたものである。
しかし、どこか緊張感に欠ける映像で、インターネットユーザーからはCG、イタズラではないかとの指摘が相次いでいる。
映像では分かりづらいが、撮影者は狼のような顔だが、足はまるでカエルのようであり、木々にくっつきながら移動をしていたとコメントしている。
また、3月2日にも同じような謎の生物の目撃情報がありこれに便乗したのではないかとの声も…」
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「大変だアニキ!」
「アニキって言うんじゃないわよ!! 姉御って言いな!!」
「すみませんアネキ!!」
「それでいい。で、いったいどうしたの? いい男でもいたの?」
「そんなんで血相変えてアネキんとこまで来る訳ないじゃないですか! ふざけてんの!?」
「んだとゴラァ!?」
「ヒィ!? って、こんなことしてる場合じゃないんだって! とうとう謎の生物、UMAが沢山発見される地域を特定したんだよ!!」
「あらそれ本当?」
「本当も本当! これで一攫千金間違いなし!」
「これでまたホストクラブに行けるのね!!」
「アネキ! その男男した顔でそんなこと言ったらR18行きっすよ! グロい方面で!!」
「てめぇ調子乗んなよぉ! ひんむいてやろうかぁ!!」
「ちょ、ごめ、おいこっちくんな! やめろぉ!!」
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「昨日借りたのB級映画良かったなぁ…」
「でもやっぱ主人公が死んじゃうのはアタシ的にマイナスよねぇ」
「ハッピーエンドはやっぱりヒーローとヒロインが結ばれて幸せな余生を仲間たちと過ごすのが一番!」
「はぁ…私にもヒーロー現れないかなぁ…」
「…家で一人B級映画の感想作文書いてる場合じゃないわよね」
「あぁもう! アタシにも、いやこの現実にも映画みたいな事起きないかなぁ!!」
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「…あーくそ。こりゃ死ぬなぁ…」
「あー…油断した。油断したなー…」
「…まぁだが、昼には始まるし、仲間たちも全員成功したみたいだし…」
「こんな俺らでも…終わらせることが出来て良かったぜ…」
「お前も俺を殺せて良かったなー…」
「…いつお前が外に放たれるかは知らんが、それまではまぁ、俺達の死体でも食ってろよ…」
「じゃ…、俺は生き返るのはごめんだし…ここで。な」
「…あーでも…悔しいなー…。見たかったなー…」
「全部終わるの…見たかったなー…」
「……………悔しいなー…」
「………………………………………」
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「おはよう!」
「おはよう!」
「今日休みで良かったね」
「うん! これであの10時開店のお店の数量限定スイーツ食べれる!!」
「でもやっぱり、こんな朝早く集合しなくても良かったんじゃない?」
「いやいや、数量限定スイーツをしっかり2人で食べるのにはこれくらいの時間から動きださないとだめなんだよ?」
「そ、そうなんだ…」
「よし、じゃあバス停に行って、移動中にスイーツ食べた後の今日の計画練ろう」
「え? 計画は私に任せてって昨日…」
「忘れてた」
「……」
「ちょ、黙るのは無しだって…」
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「あぁクソダリィ…。なんで学校に行かなきゃなんねぇんだ?」
「学校に一切の楽しさが見出すことができねぇ…」
「部活とか入れば何か変わるのか?」
「だがなぁ、とろい奴みてると腹立ってくるしなぁ…」
「それか友人か? やっぱ学校楽しむためには友人が必要なのか?」
「いやでもなぁ、クラスメイトうっぜーしなぁ…」
「うわべだけの空気読むだけの友達ごっこ腹立つし鳥肌たつし」
「…サボるか?」
「ゲーセンとか、よるかな…」
「あー…でも制服着てるからだめか、通報行くなこりゃ」
「学校爆発とかしてくんねぇかなぁ…」
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「お疲れさまでしたー」
「おつー」
「あー疲れた」
「はいお疲れ様ー」
「この後どうよ? 何か食ってく?」
「いや、徹夜明けで何でそんな元気あるんだよ」
「もう逆に? みたいな?」
「なにそれ?」
「俺限界。家直帰して倒れる」
「おうお疲れ」
「気をつけて帰れよー」
「おう。そっちもなー」
「…はぁ、朝日が眩しい…」
「私も電車乗ってまっすぐ帰りますね」
「マジで? 俺だけ? 元気なの俺だけ?」
「お前マジ凄いな。この前死にそうな顔してたのに今はもう全然平気みたいだし」
「わかるー。なんかもうずっとハキハキしてるよね」
「うざいよね」
「酷くね!?」
「はいはい解散解散。皆ゆっくり寝て次の仕事遅れんなよ?」
「すぐ仕事の話しするからもてないんだよ」
「えっ?」
「はいさよならー」
「おつかれさんですー」
「じゃねー」
「…俺がモテないのってそう言うことなのいか?」
「さぁ知らないですよそんなん」
「かー…。…お前これからどうすんの?」
「マジでなんか最近眠くないんで、通学する女子高生でも眺めながらカフェでスイーツでも食おうとおもってますね」
「すげー。これが20代前半の体力か」
「先輩もまだまだ若いっすよ」
「うっせバカ。俺は帰って寝る」
「はい。お疲れ様でしたー」
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「先生。そろそろっすかね?」
「あぁ。そうだな。なぁに、やることはやったさ」
「あとは俺らが、なんとか生き残るだけっすね」
「私だけでも生きてやるさ」
「いや自分も生きていたいんで頑張るっすよ?」
「そうか。頑張れ」
「はいっす。頑張るっす」
「…何人、受け入れてくれるか」
「まぁ、今は受け入れる人いなくても、昼になれば受け入れる人も増えるんじゃないっすかね?」
「その時に、私の仲間は何人生きている?」
「それはもう信じるしかないっすよ。もうここから自分と先生は出るわけにいかないんすから」
「…」
「…先生の頑張りが報われるのが、終わってからってのが皮肉っすよね」
「うるさいぞ」
「先生が静かだから自分がうるさくしてるんすよ」
「うるさいぞ」
「はいはいっすねー」
「…私の最高傑作は、どのようなものになるのだろうな」
「さぁ? 案外サイコパスが先生の最高傑作に選ばれるんじゃないっすか?」
「…ほざけ」
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「あぁ、私の心がワクワクドキドキしてる!!」
「なんだろうこの気持ち!」
「なんで朝からこんなに胸がトキメクの!?」
「あぁだめジッとしていられない!!」
「きっと今日は忘れらない日になる!」
「予感がする!」
「素敵な女性に出会うのかもしれない!!」
「こうしちゃいられない!」
「おめかしOK!! 服装OK!! 金OK!! 武器OK!!」
「いざ、素晴らしき世界へ!!」
「Here we go!!」
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「『おい?』」
「『…おいって?』」
「『…電話かけてるのそっちなのになんで喋んねぇんだよ?』」
「あ、ごめんごめんおはよう。寝てたでしょ?」
「『起きてるにきまってんだろ? こちとら就職活動中だ?』」
「またまた。嘘が好きなんだから」
「『んだよ喧嘩売ってんのか?』」
「【就職活動をしてるふり】でしょ?」
「『おぅおぅ随分安く喧嘩売ってるな買わせろよその喧嘩!?』」
「だから今暇でしょ」
「『なにがだからだてめぇ面かせや?』」
「なんのお面がいい?」
「『そう言う意味で言ったんじゃねぇよ!?』」
「昨日、人が突然発火したんだって」
「『…? …はぁ? え、なんだいきなり?』」
「面白そうじゃない?」
「『いや何が? 詳細がつかめねぇぞ? まったくわかんねぇぞ?』」
「これは現場に行くしかないって事でね。ついてきて」
「『話しを進めるなよ?』」
「今メールで地図送ったからそこに来てね」
「『待ってくれ? この話しどころかそもそもお前の生きる早さに俺がついていけてない?』」
「因みに、その発火した人は近くの川に潜って消えたみたいなんだけど、どうやら自分から火をつけたらしいんだよ」
「『…あん? またどうして?』」
「さぁ?」
「『さぁってお前…? …あー、あいつには電話したのか?』」
「それが出なかったんだよねぇ。また携帯持つの忘れてるのかも…」
「『バカだからなぁあのエセ英会話女?』」
「まぁでも、大丈夫でしょ!」
「『…なんか俺さ? 今日起きてからずっと嫌な予感してるんだよな? 胸騒ぎっていうか?』」
「あ、君も今日、何か予感感じてるの?」
「『君もって事はもしかして、お前も嫌な予感が…?』」
「なんか、今日楽しくなりそうな予感するよね!」
「『わかったぞ? お前俺の声聞こえてないな?』」