国王付
(はぁ…行きたくない…)
ウィルス家が着いたとの知らせを受け、リンは宰相や秘書官らと共に貴賓室へ向かう。
「陛下、先程からため息が出過ぎですよ」
「ハンソン…お前も嫌でしょ?あんなのが護衛なんて、見張られてるようで落ち着かない」
「まぁそうですね。
…いろんな意味で嫌ですね」
「あぁ…色々企んでるんだろうなぁ」
国王秘書官のハンソンがジトっとした目で見てくる
「?なに」
「いえ別に」
リンがムッとした顔で見ると、ハンソンはフッと笑った。
二人は幼なじみで、リンが砕けて喋る数少ない内の一人だ。
そうこうしているうちに、貴賓室へと着いてしまった。
──コンコン
「リン国王陛下のご到着です。」
リンは上座の席へ腰を下ろす。
「ウィルス侯爵、お久しぶりですね。」
「陛下、本日はお時間頂き感謝します。
本当に久方ぶりですなぁ。
お忙しいようで。まぁ積もる話の前に、
エドガー、お前もご挨拶を」
「陛下、麗しいお姿久しくお目に掛かれず、とても寂しく思っておりました。
本日はいいお話が出来る事、とても楽しみにして参りました」
熱を帯びたような視線を避けるように、テーブルの上の花に目をやる。
(はぁ…やっぱり苦手だな…)
沼地にでも沈んでしまいそうな声をなんとか引き上げ、
「…エドガーも久しぶりですね。
先日の大会の件は聞いています。
二人とも掛けて」
手短に挨拶をすませ、二人が着席したのを確認して、
「それでウィルス卿、その護衛の件で、うちの騎士団の者が今日何人か手合わせ願いたいのだけど、構わないかしら」
「おぉ!そうですか。もちろん構いませんよ。エドガー、お相手をさせてもらいなさい」
───────
練習場に来た一同は、今試合中のエドガーと団員に注目している。
今回選ばれた団員は三人。
3番隊から一人、近衛兵から一人、1 番隊から一人だ。
3番隊員はすでに負けてしまい、今は
近衛兵の男が戦っている。
────ガキンッ
「勝者、エドガー様!」
(あぁぁ負けた…)
残るは1番隊隊員、先の試合でエドガーに負け、2位だった男だ。
(あとは若手No.1か。
もう後がない…)
平静を装おうリンだが、時間が経過する度、焦りが募って嫌な汗が出る。
先ほどまでより、エドガーも苦戦しているように見える。
────ひゅんっ
ドサッ
「…勝者、エドガー様!」
一瞬の隙だったが、見事に突かれてしまった。
「……」
「いやぁー、勝ってしまいましたな!エドガーよくやった!
やはり陛下の護衛にはうちのエド…」
「待って、…もう一人います」
「え?」
「…ハル!」
───ざわざわ
聞いたことのない名前に、全員がキョロキョロと回りを見渡す。
観覧に来ていた団員達の中から、一人の男が前に出てきた。
「陛下、本日は三人と伺っておりましたが…」
「この者で最後です。エドガー、構わない?」
「もちろん構いませんよ、陛下」
団員たちは『誰だ?』とお互い目で確認し合っている。
「よろしく」
小さく言って微笑んだハルに、エドガーはゾワリとしたものを感じた。
「で…では、初めっ!」
審判の掛け声と共に、ガンッと刃のぶつかる音が響く
何度も鳴る、派手な焦燥音の中、観覧者達がざわざわと騒ぎ出す。
「なぁおい、おかしくないか…?」
団員の中からそんな声が上がった。
一見エドガーが押しているが、ハルの動きに比べるとエドガーの動きは鈍く感じる。
大人に弄ばれている子供のようだ。
そしてハルが後ずさるのを止めた時、
「やぁぁあ!!」
エドガーが大きく振りかぶった。
瞬間、
キンッ
──ヒュッ。
場内全体の空気がピタリと止まった。
ガシャンと、大きく飛ばされたエドガーの剣が落ちた音で、皆ハッと我に返る。
状況を確認するため、慌てて頭を回転させる。
目の前には、尻餅をついたエドガーに、冷たく剣を向けるハルの姿が。
剣先はエドガーの喉元1センチ。
「…勝者…ハル、様…」
────おぉぉぉお─
審判の呆けた声と共に歓声があがった。
「まっ、待ってください!陛下!
この者は先の大会には出ていなかったはず!本当に騎士団の者ですか?」
「この者は私が個人的に雇っている者です。
それから、護衛は騎士団の中から選ばずとも問題ありません。
では、ウィルス卿が"私の身を案じて"提案してくれた、"強い者が護衛を"という申し立てに則ります。異論はないですね?」
「陛下、しかし…」
「あぁ、他に何か譲れない理由でも?」
「ぐ…、いえ…」
「ならば今日から、このハルを私付きの護衛とします。
…よろしく、ハル」
ハルは剣をしまい、リンの前に片膝を付いた
「命に代えても。国王陛下」




