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キューズヴァンプ  作者: もちみみ
4/5

国王付



(はぁ…行きたくない…)


ウィルス家が着いたとの知らせを受け、リンは宰相や秘書官らと共に貴賓室へ向かう。



「陛下、先程からため息が出過ぎですよ」



「ハンソン…お前も嫌でしょ?あんなのが護衛なんて、見張られてるようで落ち着かない」



「まぁそうですね。

…いろんな意味で嫌ですね」



「あぁ…色々企んでるんだろうなぁ」



国王秘書官のハンソンがジトっとした目で見てくる



「?なに」



「いえ別に」



リンがムッとした顔で見ると、ハンソンはフッと笑った。



二人は幼なじみで、リンが砕けて喋る数少ない内の一人だ。



そうこうしているうちに、貴賓室へと着いてしまった。





──コンコン



「リン国王陛下のご到着です。」



リンは上座の席へ腰を下ろす。




「ウィルス侯爵、お久しぶりですね。」



「陛下、本日はお時間頂き感謝します。

本当に久方ぶりですなぁ。

お忙しいようで。まぁ積もる話の前に、

エドガー、お前もご挨拶を」



「陛下、麗しいお姿久しくお目に掛かれず、とても寂しく思っておりました。

本日はいいお話が出来る事、とても楽しみにして参りました」



熱を帯びたような視線を避けるように、テーブルの上の花に目をやる。



(はぁ…やっぱり苦手だな…)


沼地にでも沈んでしまいそうな声をなんとか引き上げ、



「…エドガーも久しぶりですね。

先日の大会の件は聞いています。

二人とも掛けて」



手短に挨拶をすませ、二人が着席したのを確認して、



「それでウィルス卿、その護衛の件で、うちの騎士団の者が今日何人か手合わせ願いたいのだけど、構わないかしら」



「おぉ!そうですか。もちろん構いませんよ。エドガー、お相手をさせてもらいなさい」






───────




練習場に来た一同は、今試合中のエドガーと団員に注目している。


今回選ばれた団員は三人。

3番隊から一人、近衛兵から一人、1 番隊から一人だ。

3番隊員はすでに負けてしまい、今は

近衛兵の男が戦っている。



────ガキンッ



「勝者、エドガー様!」



(あぁぁ負けた…)



残るは1番隊隊員、先の試合でエドガーに負け、2位だった男だ。



(あとは若手No.1か。

もう後がない…)



平静を装おうリンだが、時間が経過する度、焦りが募って嫌な汗が出る。



先ほどまでより、エドガーも苦戦しているように見える。






────ひゅんっ


ドサッ





「…勝者、エドガー様!」



一瞬の隙だったが、見事に突かれてしまった。




「……」



「いやぁー、勝ってしまいましたな!エドガーよくやった!

やはり陛下の護衛にはうちのエド…」



「待って、…もう一人います」



「え?」



「…ハル!」




───ざわざわ



聞いたことのない名前に、全員がキョロキョロと回りを見渡す。



観覧に来ていた団員達の中から、一人の男が前に出てきた。




「陛下、本日は三人と伺っておりましたが…」



「この者で最後です。エドガー、構わない?」



「もちろん構いませんよ、陛下」



団員たちは『誰だ?』とお互い目で確認し合っている。




「よろしく」



小さく言って微笑んだハルに、エドガーはゾワリとしたものを感じた。




「で…では、初めっ!」





審判の掛け声と共に、ガンッと刃のぶつかる音が響く



何度も鳴る、派手な焦燥音の中、観覧者達がざわざわと騒ぎ出す。



「なぁおい、おかしくないか…?」


団員の中からそんな声が上がった。



一見エドガーが押しているが、ハルの動きに比べるとエドガーの動きは鈍く感じる。

大人に弄ばれている子供のようだ。



そしてハルが後ずさるのを止めた時、



「やぁぁあ!!」


エドガーが大きく振りかぶった。


瞬間、




キンッ


──ヒュッ。




場内全体の空気がピタリと止まった。



ガシャンと、大きく飛ばされたエドガーの剣が落ちた音で、皆ハッと我に返る。

状況を確認するため、慌てて頭を回転させる。



目の前には、尻餅をついたエドガーに、冷たく剣を向けるハルの姿が。

剣先はエドガーの喉元1センチ。





「…勝者…ハル、様…」



────おぉぉぉお─




審判の呆けた声と共に歓声があがった。



「まっ、待ってください!陛下!

この者は先の大会には出ていなかったはず!本当に騎士団の者ですか?」



「この者は私が個人的に雇っている者です。

それから、護衛は騎士団の中から選ばずとも問題ありません。


では、ウィルス卿が"私の身を案じて"提案してくれた、"強い者が護衛を"という申し立てに則ります。異論はないですね?」



「陛下、しかし…」



「あぁ、他に何か譲れない理由でも?」



「ぐ…、いえ…」



「ならば今日から、このハルを私付きの護衛とします。


…よろしく、ハル」




ハルは剣をしまい、リンの前に片膝を付いた



「命に代えても。国王陛下」








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