ハル
(あ…寝てた。起きないと…)
ソファーで本を読んでいたら、少し眠ってしまっていたらしい
「おはよう」
「──!!」
昨日悩んだ末に、放っておこうと思ったが、結局引きずってリビングに転がしておいた
その男が寝室の、目の前の床に座っている
(え、鍵かけてたはず…)
「昨日助けてくれたんだよね?あんまり覚えてないんだけど。ありがとう」
リンはハッとして左手の中指を見る
「(あーだよなぁ。誤魔化せないか…)
痛かったよね。ごめん」
「傷が…」
「あぁ、小さい傷は治ったよ。お腹の傷はちょっと深かったから、もう少しかかるかな」
「…ありえない…」
「あはは。だよねぇ。
でもまあ、俺人間じゃないから」
目の前の男がにこりと笑う
整った顔が、恐怖を煽る
「吸血鬼ってやつ」
ドキリと心臓が音をたてる。
(人間じゃない──)
考え付いたいくつかの答えのなかで、有り得ないと無理矢理蓋をした単語が男の口から出た。
心の中を覗かれたような動揺と、納得が頭の中で混じり合う。
小さい頃、隣国の森の奥には、吸血鬼が居たという話を聞いたことがある。
と言っても、おとぎ話や都市伝説的に語られている程度だが。
それでも、昨日のアレを見た後では、納得する方が自然だった。
リンは短く息を吐き、悟られないように冷静に言葉を出す
「…吸血鬼って?
あの傷は?」
「吸血鬼は、昔からいるんだよ。
元々はここよりずっと南部の地域に居たらしいんだけど。
だけどそこには吸血鬼を捕まえる組織があってね。
そいつらは、血や一部を使って研究したり、何かに利用してるみたいなんだ。
そのせいで数が減って、吸血鬼達は人間に紛れて、隠れて生活するようになった。
で、俺も目を付けられて襲われた。それがあの傷。
なんとか逃げて、追いかけてこれそうにないこの辺で、安全な場所を探してたんだ」
「…なんでバレたの?」
「…あぁ、それはね―――」
―――ぐいっ
また早い動きで手を引かれ、左手が腰に回された
がぷ。
今度は首筋に。
氷水をかけられたように体が硬直する
が、すっと体が離れて、
「なんてねー?血でも飲んでたからだと思った?」
冷えた体が今度は一瞬で沸騰した
バシィッ
「~~~さわるなっ!」
「あはは。痛いー
まぁ冗談は置いといて、吸血鬼(俺ら)は血がなくても普通の食事でも生きれるんだよ。
バレたのは、その組織を"潰す"為に、裏で色々動いてたからね」
「あっそ。
で、なんでここに?」
「あぁそれは…」
(ノアの匂いに似てたから…)
「そういやここってどこ?
どう見ても普通の家じゃないけど」
「王城よ」
「…マジ?
俺すげーとこに来ちゃったな。
オーサマとかにバレたら殺されるね」
ケラケラ笑う男に、本当に吸血鬼なのかと不思議に思う
「…血を飲まないなら、人間とどこが違うの?」
「そうだねー、色々あるけど一番は運動能力かな。あと人間より丈夫だね。
ちなみに、血を飲むと運動能力も治癒能力も格段に上がる。だから昨日、傷が治ったんだ。
それから太陽はそんなに得意じゃないから、夜のほうが調子はいい。ってところかな」
俺、結構強いよーと言いながらファイティングポーズをとる男を見ながら
(あ、そういやノアって…)
「ねぇ、昨日ノ――」
──コンコンッ
「リン様、ご朝食をお持ちいたしましたぁ!お目覚めでしょうか?」
リンは慌てて寝室を出て入り口に向かう
「お、おはようラナ
昨日あれから仕事したままで散らかってるから、ここでいいよ。
あと、今日は掃除もいいから」
「おはようございます、リン様。
まあ、あれからお仕事をされてたんですか?
…せめてご朝食くらいは、ゆっくりとってくださいね?
あ、それから、宰相レイブン様よりご伝言です。
ウィルス侯爵方のご到着は午後1時頃の予定です、との事です」
───バタン
(そうだ、今日は護衛の…)
──あ。
「ねぇ、あんた名前は?」
「俺?…ハル」
「ハル。行くところはあるの?」
「いや、特定の場所は元々ないけど」
「強いのよね」
「え、うん、まぁ」
「剣は使える?」
「使えるけど…」
「そう。じゃあ採用」
「えっ。採用?じゃぁって何…」




