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キューズヴァンプ  作者: もちみみ
2/5

吸血鬼

夜もすっかり更けた頃、仕事を切り上げたリンはメイドと共に自室へ向かう。



(明日、大丈夫かな…。気が重い)




「はぁ…」



「リン様、ちゃんとお休みになられていらっしゃいますか?

ここ最近ずっとお疲れのように思います」



「あぁ…大丈夫よ

とりあえず春の祭典が終われば落ち着くわ」



「…あまり無理をなさらないでくださいね。体調を崩されないか、とても心配しております」



「ありがとうラナ。

私も今日は早く休むわ。

ラナももう休んで」





───(前陛下方が亡くなられてからもう一年…

弱音も吐かず立派に"陛下"をされているけど、

本当はお辛いでしょうに…)






──バタン



だだっ広く静かな自室にドアの音が落ちる


「…」




(疲れた。とりあえずシャワー…)



リン──リン・エレノア・ラステルは、大きなリビングテーブルの周りに整列しているソファーへ上着を投げ、寝室のドアを開ける。



窮屈なドレスを脱ぎ、浴室へ



──シャー






─────




「――っ。はぁっ」


(やばい…目が霞んできた…)



─!


スンッ


「え…この匂い…」





─────





ガチャ


浴室から出たリンはバスローブに身を包む。



(水…)



かなり睡魔に侵食されつつある体をリビングへ向かわせる



──ガタッ



(─!

ベランダ…風?

でも今日は風なんか…)



念のためにベッドのサイドテーブルの引き出しからハンドガンを取り出し、カーテンの隙間からベランダを覗く


よく見えず、キィと窓を開けベランダに出る。




───!!


(人だ…!衛兵を…!)



部屋に戻ろうとした時、そのうずくまっている人物が傷だらけな事に気づいた。



(え…すごいケガ

それよりここ最上階なのにどうやって…)



「……ぅ゛…」



「…何者だ。なにしてる」



男に銃を向けながら問う



「…」



男が苦し気に顔を上げた


虚ろな目



「ノア…?」




(…のあ?)



──ぐいっ


ガシャン



そのケガからは想像できないような早い動きで距離を詰められた



気づいた時には自分の両手が男の手の中にあった



(──ぇ、

あ、しまった銃が!)



振り払い距離を取ろうと手に力を入れるが、微動だにしない。


幼い頃の母の教えにより、武道も習っていたのでだいたいの感覚は分かる。

細身の、しかもこれだけ傷ついた男の手くらいは払えて当然のはず。なのに、



(うそ…?

なんで、払えない…)



「離し…!」



「一人にしないで…、ノア…!

今助ける…」



男の悲痛な、消え入りそうな声に一瞬気をとられる。



(あ、)


男が自分の左手中指を口に含むのが見えた

それと同時に歯を立てたのが分かった



──ひっ


小さな痛みと、拘束された身体、理解不能な行動が一気に不安を煽り立てる。


冷や汗が背中を伝った。



と、その瞬間、



──ジュワ…



男の身体から小さな湯気のようなものが立ったかと思うと、

腕や顔の傷が消えたように見えた。



(き、えた…?)



─バタッ



「すー…すー…」




(え…寝た…?)


「なにこれ…」





漠然と想像していた日常を飛び抜けた出来事に、思考が付いていかない。

あの日ほどではないが。


でも…、





(…一人にしないで、か…)





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