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蛙の子

作者: だいのすてぃー
掲載日:2018/01/08

東京に時雨が降っていた。


「よくさ蛙の子は蛙って聞くけど、実際はオタマジャクシだよな。蛙になった時点ですでに大人の仲間入りだしよ。」

我が物顔で僕のベットの上でに寝そべりながら、昨日提出するはずだった偉人についてのレポートの作業中の和樹が、パーラメントをふかしながら僕に言った。

「まあそうだよな、でもオタマジャクシって自分が蛙になるなんて何一つ思ってもないんだろうな。」

適当にそう言って僕は宗教学の久喜教授がくださった参考図書をベッドにもたれかけながら読み続けた。

最初の一年が過ぎ、僕達は在校している大学に楽しさを感じられなくなっていた。そもそも、滑り止めで入った大学と思い楽しむより将来が不安だった二人だった。しかし今では単位に追われる日々を和樹は過ごしていた。

二年次になると友達たちと飲み会を開くよりこうやって二人で六畳半のワンルームの部屋でレポートや学習をして勉強している方が有意義な時間の過ごし方になっていた。

和樹と僕は親友の様な関係だ。初めて出会ったのは入学式後のガイダンス時であった、最初はこのトーカティブな感じがあまり好きではなかった、今考えれば彼のコミュニケーション能力に嫉妬していたのかもしれない。次に出会ったのはバスケサークルの新歓だった、それから一緒に居ることが増え、いつの間にか仲が良くなっていた。

嘘のように雨は止み、あたりはいつの間にか暗くなっていた。部屋の中心にあるスイッチ式の部屋の電気を付けると和樹はよだれをキーボードに垂らしながら寝ていた。

一発叩いて起こしてやろうと思ったが、ベットの上に不安定に置かれている灰皿をとってタバコを吸う事にした。

十分ぐらいすると自分が寝ていることに気が付いた馬鹿野郎は急いでMacBookを折りたたみJan Sportのリュックに詰め込み帰る支度をした。この様子だと自分の家でもレポートをする事になったのだろう。

「そしたら、行くわ!じゃあな。」

僕はソファーに寝そべり彼のじゃあなの一言を聞き背中で聞き流し手だけを挙げた。

和樹が居なくなると静かになった。一人になると僕はじっとしていることが億劫になる。背中とベッドの間に押しつぶされてた読みかけの参考書を床へと投げ捨て、リモコンをとり、名前も聞いたこともないドッキリ企画中心のバラエティー番組を見ることしにした。


その時携帯から着信。母からの電話だ。

僕が電話に出るなり母は、僕に将来について半分説教気味に説明してきた。

「あんたは、ロクでもない大学に行ったんだから一生懸命勉強してお父さんやおじいちゃんのようになりなさい。いい就職先ないばい。」

いつも通りの口調だった、それに対して私は、分かりましたと言うしか方法は無かった。

自分では、自身の大学はFランではないと今でも思っている。十分に歴史もあり自分の好きなことを学ぶことができるからである。しかし、大きな期待を抱える母としては、父や祖父のように立派になるには十分なブランド校とは思っていないみたいだ。

説教まがいの話を聞いた後は、今家族が住んでいるニューヨークについて色々話してくれた。弟は、アメリカンスクールの幼稚園に通っていたり、ニューヨークと言ってもマンハッタンから遠いなど等の愚痴を一通り説明してきた。 母の愚痴が言い終わったのを見計らった僕はテレビの続きが見たいと母に伝えて電話を切ろうとした時、母が急に話を変えてきた。いつもの癖だ。

「私心配なのよね、おじいちゃんが今ね肝臓が悪くて半分寝たきりらしいよ、あんた土日暇やったら行ってあげてやっとって。」

「まだ大丈夫でしょ、前電話した時じーちゃん元気だったし、今週はいけないけど来週4連休だから行ってみるかも。」と言って電話を切りテレビを消して肌寒い中シャワーを浴びることにした。


帰省前


母に言われた通りおじいちゃんに会うために大学へ行き生徒課で新幹線の学割をもらいに行くことにした。

めんどくさがりな僕でも流石におじいちゃんには頭が上がらないため急いで準備をしている。僕がこうやって裕福な生活ができているのも彼のおかげだからだ。

彼は、薬品関係の貿易会社の現会長であり創設者だ。また、父が現在の社長兼ニューヨーク本部勤務である。そういった恵まれた環境に育った僕でありながら、何一つうまいこといかない事に対して親戚や母から図々しく言われるせいでプレッシャーを感じるしコンプレックスになっている。

でもおじいちゃんは好きだ、決して時自分がお金持ちだったり横暴な態度をとったりしない。小さい頃の思い出だが、お店の従業員や自分の運転手にもいつも優しい笑顔を見せて和やかにしていて、誰に対しても平等に接する人物だからだ。

小さい頃はよくおじいちゃんに会っていたが、今じゃほとんど会わなくなっていたため明後日の帰省が楽しみになっていた。

生徒課で帰省の手続きを終えひと段落した僕はそのまま和樹たちがいつもいる食堂へ向かった。

いつも通りの大きな声を出して笑っているグループの中心に和樹はいた。

「よお、福岡に行くんだって、お土産買って来てくれよ。」と和樹が僕に言うと周りの女たちが私にもと言ってせびってきた。

「みんなのために美味しいやつ買ってくるから安心しろよ。」と僕は笑顔を見せ、いつもの様に皆とどうでもいい話題で盛り上がった。僕たちが騒げば騒ぐほど食堂の周りの目が冷たくなっていることなども気にせず騒いでた。

側から見れば僕たちは、将来も考えず本来なら学問の場である大学をお遊びの場として生活している集団にしか見えないのだろう。そう思いながら僕たちは今日の飲み会の場所を決めようとしていた。


都会の梟


乾杯の声と共に飲み会は始まった。今日は食堂で集まるいつものメンバーである和樹、布谷、筧、未央と哲学の講義にいた人たちだ。

別に哲学に思入れのある人たちの集まりではない、ただ哲学の講義がつまらなく講義内のメンバーで仲良くなっただけだ。

僕は、サークル以外でみんなで集まる方が好きだ、こうやっていろんな価値観を持った友達と話し合う機会があるからだ。

とにかく今日は人が多くて騒がしかった。和樹は相変わらずしょうもない冗談を言って女の子たちを困らせていた。僕自身も女性と話すのに抵抗はないが、彼ほど能天気に喋れるわけではない。しかし、奇妙なことに彼のことが嫌いな女性は誰一人としていないのだ。だがこの中に和樹が唯一まともに喋らない女性がいた。僕と和樹の逆のテーブルで筧たちと喋ってる柊だ。大学生では稀な美しい黒い髪と白い肌、目は少し細めでアジアンテイストの強い女性である。

僕は、彼女に興味を持っていたが喋る機会がなかった。和樹曰く、前期の講義の時に隣の席に座った時に話しかけたら、冷たくあしらわれたからそれ以降喋れなくなったらしい。とにかく僕は彼女と喋りたかったが、一足先に泥酔した未央が僕の腕を掴んで離してくれなかった。


池袋の夜も十一時を過ぎ、皆は二次会の場所を決めていた。僕は明日の昼に新幹線に乗らなければならなかったため、皆に早めに帰る趣旨を説明して一足先に居酒屋から外に出た。駅に向かって帰ろうとすると柊も店から出てきた。

サンシャイン通りから駅までの間、僕たち二人は少し離れて駅へと向かって行った。僕は、人見知りではないが話す内容が無く困っていた。確かにものすごく話しかけにくい子だ。和樹が話しかけれない理由がすぐにわかった。

池袋駅が向こう側にあるのが見えかけた時に柊が、

「池袋ってダサい街だよね、別に綺麗な街じゃないし繁華街って言っても歌舞伎町や渋谷よりなんか地味だよね。」と言った。

僕は彼女から話しかけてくることを想定してない上に急な質問に僕は少しびっくりした。

「立教とかも近いし大学生ぐらいの人が比較的多いからなんじゃない。」と僕は言った。

「まあそうよね、なんかつまんないわ。」そう言って彼女は僕と少し歩く距離を縮めてくれた。

彼女の隣に立ったらわかる、背が高く柔らかく甘い匂いがすることに。その後も自然に話が進み二人で飲み直すことにした。


二人で池袋のHUBで飲んでると彼女のことが少しわかった。彼女は生まれも育ちも神奈川の田舎の方に住んでいたらしく高校まではおとなしい子だったらしい。確かに話を聞いてみると、田舎っぽさを感じる。なんと説明すればいいだろう、話す内容が聞き手を考えてない。特に和樹のことについて酷く言うところがぼくには気に入らなかった。一度は惚れかけた自分が本当に恥ずかしいと思ったぐらいだ。

終電を気にするように私がiPhoneの画面をチェックいると、

「ねーねー、あなたってお金持ちなんでしょ。家行ってみたいなあ。」と半分酔っ払いの柊が言った。

「あー、おじいちゃんはお金持ちだけどこっちは全然だよ、親が僕には人並みの部屋と生活費しか送ってこないんだ。」

それを聞くとさっきまで僕をおだてていたのが嘘の様に止み、口数が少なくなった。

嬉しいことに終電を過ぎたので、酔いつぶれた彼女をおぶってラブホテルへと向かった。


東京駅にて乗車。


十一時半、僕は東京駅で最終コーナーを駆け抜ける馬の様に駆け上っていた。あの後いろいろあり、とりあえず寝坊したからだ。荷物は一週間前から準備していたが、ホテルを出て家にある荷物を取りに行かず直ちに東京駅に行った事が幸いして間に合った。ズボンのポケットから振動を感知した。ラインの着信でも来ているのだろうか。多分、和樹からだろう、睡魔に襲われた僕にはどうでもよく自分の座席に着くなりすぐに寝ることにした。深い深淵の世界に入る前にもうみんなとは会えないような気がした。



気象予報


実は、新幹線には今回が初めて乗った。国内を長距離移動するときは大体父の貯めた全日空のマイレージを使っていたからだ。幼い頃から飛行機だった僕には味気ない新幹線がどうも性に合わない、ただただ座って目的地に着くのを待ってるだけだからだ。一応、叔父に連絡を取って博多駅で迎えに来るように頼んだ。正直なところ福岡に僕は全く馴染みがない。父方の家族がいるだけで、率直な話、三年に一回行くか行かないか程度だ。東京に住んでる母方の祖母の方が馴染みが深い。もう随分あってないおじいちゃんにどう話せばいいか困っていた。大学の事もまだ伝えてないし、東京に住んでる事もちゃんと説明してないからだ。小さな心配を抱きながらいるうちに博多駅に到着した。

博多駅の前では、運転手が僕を待っていた。

「お待ちしていましたお坊っちゃま、どうぞ車にお乗りください。」

と言って艶消しされてる黒のメルセデスのドアを開けて立っていた。なんとまあ堅苦しい喋り方で話して来るのだろう、どう見ても運転手は僕と歳が変わらないぐらいで、ポマードで固めた艶のある黒髪が似合った上品で中性的な背の高い美青年だ。

僕は、後ろの席でふんぞり返るのが苦手なタチなので、開けてもらったドアではなく助手席に座ることにした。


屋台の街


車から見える中洲の街を見ながら黙って座っていた。車に乗ってから最初の3分はお互い何も喋らずに時間は過ぎて行った。歩行に沿って屋台が軒を連ねているのに好奇心を擽られた。前回行った時は屋台など全然興味がなかったのに、社内恋愛でもしてるサラリーマンのカップルが楽しそうに飲んでいるのを見て羨ましく思えた。

沈黙が苦手な僕は、助手席から見える街の景観を横目で見ながら、

「祖父の家まで何分で着きますか。」と聞いた。

「大体30分です、どうされましたかお坊っちゃま。」とニヤニヤしながら聞き返して来た。

お坊っちゃまと同じぐらいの年の人に言われるのがどうも気に食わない。かと言って、言い方を変えてくれと言うのもおこがましいと思った。

「まだ、6時ですよね一緒に屋台にも行きませんか。祖父にはまだ何時に着くか説明してないので。」

「私とですかハハ。」今度は確実に笑いながら聞き返して来た。

「私はよろしいですが、会長はお坊っちゃまが来ることを大変楽しみにしておられますよ。素敵なディナーを準備しておられますので楽しみにしていてください。」

「そうですか。」と言ってまた僕はつまらそうに窓をずっと眺める続けた。

それから十五分もしないうちに目的地に着いた。奇妙なイルカのオブジェが見えた時どこか懐かしさを覚えた。

「どうぞお坊っちゃま目的地に到着しました。」

始終車内でニヤニヤしていた運転手が車を出てお坊っちゃまの為にわざわざ助手席のドアを開けてくださった。感謝の言葉を言った後に僕は、外に出た。そこにはヨーロッパ式のレンガ造りの大きな家があった。自分の祖父ながらこんな大きな家に住んでることに驚いた。東京の麹町にある建物に似ている。

そんなしょうもないことを考えながらゲートを開けて中へと入っていった。


小雨


巨人専用のドアに綺麗なライオンのオブジェが真ん中についてる扉の前には頭の先が銀色コンドルのついた杖に綺麗な服装をしたおじいちゃん立っていた。

久しぶりのおじいちゃんにぎこちなくなるのを予想したが、おじいちゃんは小走り僕のところへやって来て抱擁してくれた。

「おーよく来てくれたなあ、待っとたぞ、デカくなったのお、小雨も降ってることやし早く入らんと。」と言ってドアを開け、玄関に入れてもらった。

玄関はまるでリビングルーム並みに広かった。オペラ座の怪人がマスカレードの時に登場するような階段が部屋の中央にはあった。また、三人の家政婦が荷物はありませんかと聞きながら笑顔で僕を迎え入れた。

四、五年前と同じ風景だが、ある程度大人になって見るとおじいちゃんのすごさがわかる。

そのまま僕は階段を登ってダイニングルームに誘われた。そこには、洋風な部屋にはに使わない素朴な和食が置いてあった。

おじいちゃんは僕のために椅子を下げて座らせてくれた、ありがとうございますと言って夕食を食べることにした。

おじいちゃんは首を傾げながら僕の方を見てなぜ荷物がないのかと聞いてきた。僕はいい言い訳を見つけることができないことを悟って友達と飲んでて寝てしまったため遅れた事を説明した。

「遺伝してるの、わしの若い頃も酒飲みでよく駅の改札の前で寝過ごしたものよ。」と懐かしそうに僕を見た。

今の上品なおじいちゃんからは想像出来なかった。

「おじいちゃんって大学の頃はどんな感じだったの。」

「なんと言うんだろうねえ、とにかくダメな生徒だったよ、何をやってもうまくいかず将来が不安じゃったの。」

テーブルに置いてあったウィスキーのロックを揺らしながら彼の若い頃について話してくれた。


梅雨前線


神保町ではいつものように汚い本が置いてある。大学生だからと言って当時でも買う人は奇妙な学生の他ない。ここには古びた本屋やだれも聞く予定のない埃の被ったレコードたちが雨宿りをしていた。私は喫茶店でいつも通りコーヒーを頼んで自然哲学についての書籍を読みながら、彼女待っていた。

いつも不思議に思うのだかどうやってこの喫茶店は運営されているのだろう。客も少なければホットコーヒーを頼んで2時間入り浸る学生ばかりが来るだけで誰もお金を使うつもりはない。そのせいか、腐りかけの椅子は大きな私が腰掛けるといつも悲鳴を上げている。

私は、いつもと同じように2時間待ち続けた。しかし、彼女は来ることがなかった。疲れた私は椅子の背もたれに寄りかかるとさらに悲鳴をあげていた。多分彼女はもう私にもう会わないだろう。なぜなら前回築地にて彼女と大喧嘩をしたからだ。最初は些細なことで喧嘩をしていたが、そのうち彼女が呆れて無視を続けるようになった。それの私は腹が立ち大声で怒鳴ったことが原因だ。今になって考えて見たら、多分一方的に言ってたのかもしれない。基本女は理論的に話すのではなく自分の気持ちだけを率直に伝える生き物と言われているが、私の方が感情的な生き物だったかもしれない。

後悔しながらも来ないことに吹っ切れ淡路亭へと向かった。神保町のギター街の坂を通り聖橋と秋葉原の間に淡路亭はある。ここら辺にはたくさんのビリヤード場があるが、安いことから大学生の溜まり場としてよく使われている。店に入るといつものように青木と加藤がナインボールで賭けをしていた。

「お前今日はデートじゃなかったのかよ。もしかして振られたんか。」賭けに勝ったであろう青木が喜びながら私に向かって手を振った。

「お前は女を大切にしきれないからな、よく持った方だぜ。」加藤はタバコを加えながら悔しそうにキューを構えて次の試合に向け調整していた。それ以上は優しさなのか私の事情に首を突っ込まなかった。今日は鉄矢が居なかった。

「鉄ちゃんはどこにいるんだ。」と私は聞いた。

「ああ、あいつなら確か井上教授のところに行ってゴマでもすってるべ。」

「鉄矢もよく頑張るよな、青木と俺なんて講義にも出てないから名前なんて知られてないよ。」

「ところでお二人さんは就職決まったのか。」

「今決めるのは無理だな考えたくもないこうやって下宿でゆっくりしてる方が楽だよな青木。」

「そうだな加藤さんよ。」

「だろうな俺も一緒よ、早く俺にも賭けさせろよ、女に使う金が余ってんだよ。」そう言って私はキューを青木から奪い取り風車と戦うドンキホーテの様にぶん回して見せた。

とにかく貧乏だったわたし達は、親友同士の賭け事でも本気だった。事あるごとに邪魔をしてみたり陰湿な言葉責めをしてミスを誘ったり、今考えると酷いことをしたと思う。



今夜は惨敗だった。たまたま今日は青木が運が良かったのでしょう。まあ、誰が勝とうが今夜の呑みの奢りは勝者が払うことになってた。この三人においての勝者とはあくまでも淡路亭の中だけなのだ。

店を出て青木を中心に秋葉原のいつもの居酒屋へと向かう。教授のゴマすりが終わった鉄矢も入れて四人での飲みだ。

「鉄ちゃん教授とはどうなんだ。」食いかかる様に私は聞いた。

「久松教授のことかい?面白いよ、僕は教育学部だから先生の母校の高校紹介してくれてさ、これからもお世話になるのかな。」

「お前教師になんのか、夢がねえな夢がよお。」焼き鳥の串を爪楊枝がわりにしてる品のない青木が呟いた。

「じゃあ青木君は一体何するんだよ、君達二人もさ。」呆れた様に鉄矢が聞き返してきた。

「まあ、加藤と俺は卒業したら親父の後継だよ、俺たち一緒の会社だしよ。」深妙な顔で青木は言った。

「まあそうなるよな、親からは高校卒業してすぐに継がされる予定だったからもう逃げれないぜ。」最後のおちょこを勝手に注いだ加藤が適当に発した。

私は、初めて聞いた。加藤も青木も確かに幼馴染で同じ高校大学まで一緒のことは知っていたが親の会社まで一緒とは。そう聞くと自分が心配になった、今まで呑気な友達が一気に大人になった様な気がした。私は強がって「親の仕事を継ぐのか可哀想だな。と言って追加の酒を頼んだ。それを最後に私は記憶をなくしてしまった。


玉杓子の変える場所


起きると私は、路上で寝ていた。ああしまった、悪酔いがすぎて一人で外に出たのだろう。背中に電線にもたれかかってなんとか立つことが出来た。とにかくこの一角の路上は暗かった大通りでも出れば場所もわかるのだろう。

一度は立ったものの動く理由がない、自分はなんでもない人間なのだろう、よく彼女が言っていたが人間一人一人に得意と不得意があっていつか私にも得意なことが出てくるだろうと。最初この言葉を聞いた時はものすごく腹が立ったが、今になるとそうなのかもしれない。実際に何もない自分が怖かった。夢もなければ得意なこともない、なのに東京に出て体たらくな生活をしている。変わりたいが自分が何に変わるかも分からない、何が自分がしたいのかもわからない。何処にもない自分に対する妙な期待と野望がある。嗚呼、今すぐにでも雨でも降ってくれ。

普段は私の願いなど一つも聞こうとしない神様も今回ばかりは聞いてくれてたのだろう。豪雨が降ってきた、重たく冷たい雨粒が小さなシケモクのヤニを洗い流す様に。


熱帯雨林

再び起きた時には、昼になっていた。私は急いで立って黒の細身のスラックスについた砂を払い少し湿った紺の開襟シャツのシワを伸ばした。思いのほか服が乾いて髪の毛も崩れていなかった。少し匂いが変なのかもしれないので帰宅することにした。二日酔いなのか道路の空気が少し歪んで蜃気楼の様になっていた。

酔いが覚めて少しわかったことがある。昨日私は湯島に向かってちゃんと歩いてたことに、家からも案外近く酔っ払っても家に帰ろうとしてたんだろうと。

湯島神宮の隣にあるボロアパートに戻ると私はすぐに服を脱いだ。棚に置いていたヘインズの白いtシャツの上にボウリングシャツをにジーパンにインして父からもらったダレスバッグを持って大学へと向かった。

大学はそこまで好きではなかった、授業にも身が入った覚えもなければ、友達も数人しかないからだ。しかし、キャンパスにある広大な芝生はなぜか落ち着く、私は二限の講義を切り仰向けで本を開いて日傘がわりに置きながら寝ていた。

ここから私の運命が変わるなど1つも思っても居なかった。


甘雨


開いた本を顔に被せている隙間から黒い影が差し込んだ。起き上がるとそこにはしなやかなサイドゴアブーツを履いた180を優に超えるガイゼルヒゲの男爵が立って居た。

「君、名前はなんて言うのかね。」

銀色に光ったコンドルの杖を輝かせながら聞いてきた。

ここまで風貌が英国風の男性を見た事がなかった僕は喋る事も出来なかった。

「まあいい、私は君が気に入った。もしよければ晩餐会に来ていただきたい。」そう言って男爵は私にインビテーションカードを渡して遠くの方に帰っていった。カードを受け取った私は本に挟んで家に急いで戻った。

家に戻った私は何度かなぜ私に招待状を渡したのか考えたが答えは見つからない訳もない。もしかしたらあの男爵は若い青年が好きな同性愛者かもしれないと考えるまでになった。


晩餐会


鏡に写る茶色のツイードのスーツを着た私は少し緊張しているように見える。男爵から渡されたインビテーションを内ポケットに入れ何回かポーズをとった。なかなかのいい男だ。ポケットには財布とタバコを入れて御茶ノ水駅の丸ノ内線に乗ってインビテーションカードに書いてある住所へと向かった。

目的地に着くとそこには洋風の大きな建物があり、門の前にはスーツを着た男性が仁王立ちしている。その人にインビテーションカードを渡すと中へと通してくれた。

豪邸の中へと入ると私と同じくらいの青年が5人ほど居た。皆かなりの男前だ、それに彼らは相当なスーツを着ているのだろう。私のスーツがボロボロに感じてしまった。その瞬間私は、恥ずかしくなって大広間の隅に行った。

私が入って三分が経ったが誰も私と話しかけも来ない。そもそも誰も喋ろうとして居ない。お互いなんで呼ばれたのかもわかっていないのだろう。ただ皆少しそわそわしている事がわかる。すると、ドタドタドタと走る音が聞こえドアがが開いた。また私と同じ年の青年がやって来た。しかし、明らかに彼は大広間にいる青年とは違っていた。何が違うかと言うと彼は唯一の和装をしていた。また、髪も五右衛門のような不格好であった。五右衛門は周りをキョロキョロした後一番近い人間を探したのだろう。私の隣に立ってニヤニヤしながら大きな声で話しかけた。

「いや、なんとか間に合ったぜ。これって一体なんなんだ。」

ボサボサの髪を掻き毟りながら聞いて来た。私は少し嫌な顔をして知らないと言った。

彼は少し冷たくされたのが気に触ったのかつんと顔を背けて他の青年に同じ質問をしようとすると。

「知らん、ここにいるほとんども多分知らなと思う。」とひとりの青年が喋った。彼は上品な人たちで埋まった大広間の中でもダントツで美青年であった。

今度は五右衛門と僕を背に向けてみんなに話しかけた。

「多分ここに集められたのは、皆さん一緒の理由だと思う。私もどうなっているかわからないがみんなで自己紹介でもしようじゃないか。」

そう言って一人ずつ大学名と名前を言うことにした。

衝撃を受けた、殆どの大学生が慶応、早稲田や東大生なのだ。あの五右衛門野郎もまさかの東京大学教養学部なんて。あまりの場違いに私は自己紹介はものすごく緊張してしまった。唯一覚えているのは、美少年の名前が西条ってことぐらいだ。一通り自己紹介が終わった後、二階で見渡しているものがいた。そこには、男爵が髭を弄りながら楽しそうに見ていた。

「晩餐会に来てくれてどうもありがとう、私の名前は、南 正蔵である。皆はバロン南とでも呼んでくれ。」そう言うと、家政婦たちが食べ物を運んだ。私は唯一の話し相手である五右衛門と一緒に共に話していた。どうやら、五右衛門も大学でバロンに招待状をいただいたらしい。彼曰く木に登って昼寝をしているときに下から声をかけられたのだそうだ。なんで呼ばれたのか、心当たりががあるか質問攻めしてみたが、皿いっぱいに入れたラザニアと五右衛門は格闘して答える様子はなかった。

周りを見るとつくづく周りの上品さに感銘を受ける。立ち姿や皿の持ち方まで立食パーティーが本当に様になっている。

西条がずっとこちらを気にしてるのだろう。僕のところへやって来て話しかけて来てくれた。

「君たちは、実に面白い二人だよね。ところで将来に向けて何か活動だったりしてないのか。」

「僕は小説を書いてるよ、好きなように書くのが好きなんだ。」五右衛門は、恥ずかしがらずに堂々と言った。

「私は特に何もないです。一応経済学部なので商社に入りたいと思うぐらいですかね。」苦しそうに思ってもないことを言ってみた。

「商社か。僕も商社を目指してね。父が貿易関係の仕事をやってるんだけど今度一緒に仕事でもしないかい。」西条はにこやかに私に勧めてきた。

そのあと西条は私を他の青年たちと話す機会を与えてくれた。私たちは私たちの共通点について考えた。ここまでランダムに学生を集めた理由もわからないからだ。

大体の食事が終わると男爵は私たちをソファーに座らせた。

「希望ある明るい未来を託された青年たちよ、今日は本当に来てくれてありがとう。我輩はこれから君たちを一流の社会人にしていくため一流の経験とマナーを学ばなければならない。」

そう言って男爵は私たちに週二回来るように命じて私たちは解散した。


蛙の子


おじいちゃんは、ベランダで葉巻を吸いながら僕に話を続けてくれた。

「それから私の運命は180度変わった。西条や五右衛門との出会い、一流になるための品格というものを学んで行き今の自分になったのだよ。お前は、私よりも幾分も賢く人の気持ちをわかる男だ、頑張れよ。」そう言って僕におじいちゃんはウインクしてくれた。

「それでもおじいちゃんはすごいよ。でもどうして男爵はおじいちゃんを選んだんだろう。」と聞くと。おじいちゃんは嬉しそうに私のふとももに手を当てて

「それは私のが君に言うことじゃない自分の目でみてきなさい。」と言って僕に白いカードを渡して来た。

「おじいちゃんこれなんなの。」

「これは私からの可愛い孫へのプレゼントじゃ、出席する時はちゃんとしたスーツで行くんじゃよ。」そう言っておじいちゃんは僕に明日東京で開催されるインビテーションカードを渡した。

「お前とはもっと一緒に居たかったが今回はここまでじゃ。新幹線のチケットも買っておるから早く行きなさい。」そう言っておじいちゃんは僕を玄関に連れて行った。

僕は少し話の続きとおじいちゃんと一緒に居たかったが、僕はサヨナラを言った後にそのまま助手席に乗り博多駅へと向かった。


車の中、相変わらず運転手はニヤニヤしながら運転している。僕は思い切って。なんで笑っていらっしゃるのですか、と聞いたら。

「会長もあなたと同じように後部座席に座りたがらない上にすぐに私のようなものを食事に誘うからですよ。」


少し勇気が湧いた。



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