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別れよう。僕は君が大好きだった 作者:蒼月 蓮夜

一章 仮面

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第1話 キスⅠ

 ふと部屋の窓から空を見る。空はとても澄んでいた。目の前にある装飾のない白いベッドには、制服姿で眠る二つ下の少女。中学一年生とは思えぬほどの大人びた--だがところどころあどけなさを残す顔立ちは、私の邪欲を起こさせるに十分すぎるほどであった。
 窓の外から渡り廊下を渡る彼女の姿が見えていた。こんな授業中に渡り廊下を渡る用事など、保健室以外にあり得なかった。
 だから私は、仮病を使ってここに来たのである。保健の先生がいるかいないかと言うのはほぼ賭けに近かったが、幸い保健の先生はここにはいないようだった。
 私はそっと彼女に顔を近づけていく。夜這いの昼バージョンといったところだ。
 付き合ってもいない。大して話してもいない。
 それにもかかわらず本人に無断でキスをするということに、後ろめたい気持ちに押し潰されそうになる。
 彼女の唇と私の唇の距離がほんの数センチとなった時ーー私は近づけた唇を一旦離した。
 もう一度彼女を穴が開きそうなほどじっと見つめる。
 無垢なその顔を見ると、唇にキスをすることに再度私はとてつもない罪悪感を感じた。
 そして、私の心の中では理性と欲望の激しい攻防が繰り広げられる。
 キスをしたい。いや、してはいけない。
 その激戦の末ーー私は、彼女の頬にそっとキスをするのだった。



  ♦︎



 彼女との出会いは入学式の時。
 私は野球の練習のために学校に来ていた。
 春休み最後の日くらい練習しなくてもと思ったが、どうせ自分はアドバイスをしたりノックを打ったりと疲れはしないので、そこまで不満はなかった。
 強いて言うなら、勉強したかった。やっと、分からなかった高校三年生の範囲が定着しそうだったのだ。
 高校三年生の範囲なんて定着させなくてもいいのだろう。
 けれど、このくらいはしなければと思っていた。
 自分には、才能が何もないのだから。野球から逃げた以上、私には何も残っていないのだから--と。

 学校へ歩いていると、周りをうろうろしている一人の女の子を見つけた。
 一年生にしては背が高かった。私が百六十五センチだから、きっと百七十センチはあるだろう。入学式は既に始まっていた。だが、制服はうちの制服だったので、二年生かなと思いながら、私は声をかけた。
「ねぇ、こんな所で何をしてるの?」
「あなたは……?」
「僕はここの三年生だけど」
 まっすぐ見つめられ、こちらも見つめ返す。
 可愛い子だなと思った。
「その……道に迷ってしまって……」
 まっすぐ見つめてきたと思ったら、今度は顔を赤らめてそんなことを言う。
 萌え死にそうだった。
「どこに行きたかったの?」
「ここの校門に……」
「新入生?」
「はい……」
「そっか。じゃあついてきてよ」
 ぐるっと一周すれば分かるだろうに、正門とは反対側で右往左往していることに、私はくすりと笑えてしまった。
 裏門から入らなければグラウンドには遠回りになってしまうが、今日くらいはいいかと思った。
「あの、先輩」
「うん?」
「あ、いえ……」
「どうしたの?」
「えっと……優しいんですね」
「そうかな?」
「はい……中学校の先輩は小学校に比べて後輩に厳しいと聞いていたので……」
 なるほど。
「確かに小学校に比べて縦の関係が強いけれど、そんなに身構えるほどではないと思うよ」
「そうなんですね」
 そうこう話しているうちに正門に辿り着いた。
「ここが正門だよ」
「 ありがとうございます。助かりました」
 そう言って彼女ははにかんだ。
 その笑みに、私は心のどこかを支配されたような気がした。
「うん。気をつけてね」
 彼女は背を向けて小走りで去っていった。それを見届けてから私はグラウンドへ向かった。

 もしかしたら、この時からかもしれなかった。
 私が彼女を好きになったのは--。
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