プロローグ はじまりのうた
世界は生命の原液が淀む一つの球であった。
生きとし生けるものの源はただ穏やかに、無限の夜を漂っていた。永遠とも思える時間の流れの中で、命の水は時間という概念すら持たずに、ただそこに存在し続ける。
完全な調和などあり得ない。
そこにどのような揺らぎがあったのか明らかではないが、命の海の中に、三つの泡が生まれた。泡はもう幾ばくかの時を経て、”ヒト”のような形を模してゆく。
やがて世界を創造する彼らを、後の被造物達は賞賛を込めてこう呼ぶ。
三賢人。
創造主の使途たる彼等は、生命の球の上に、"はじめの面"を創り出した。
一人は全てを晒す光を。
一人は全てを晦ます闇を。
一人はその中間たる影を。
創造主の使途たる彼等は、生命の球から、"はじめの形"を創り出した。
一人は世界の苗床たる大地を。
一人は世界の潤いたる大気を。
一人は世界の子孫たる生命を。
やがて世界は自らの力で呼吸をはじめ、循環をはじめる。
生命は胎動する。
生命は次々に、産まれ、死に、次の命の苗床となる。
新たな命から新たな命へ。
命は受け継がれる度、底知れぬ多様さを獲得してゆく。
新たな命。
新たなかたち。
新たな知性。
そして新たな文明へ。
我等はその延長線上に生きている。
大いなる感謝とともに、次なる命へ受け継いでゆこうではないか。
(天歴253年、ガラムド・オンス「天球記」序文より)




