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テレビをつけると、画面の上部には暴風雪警報が表示されていた。これから深夜にかけて更に降雪量は増え、災害の危険性があるので不要な外出は控えるようにとアナウンサーがしきりに呼びかけている。
唯一この町へ入る玄関口である国道では、なだれが発生したらしく山間部で通行止めと発表された。
頼りないながらも今日は人手があるので、高橋には早退してもらった。昨日も残業してもらったことだし、天気も悪いので早く娘さんを迎えに行ってあげてと告げると、申し訳ないと言いながらも嬉しそうに帰っていった。
そもそも人手も必要なくなるかもしれないし、と憩は胸中で呟く。今のところ連絡はきていないが、この調子じゃ会合は延期のような気もする。
「おかしな箱だな。中で人が動いているぞ」
「まさか、新種のミミックですかね……それにしては、襲ってくる気配はありませんが」
「後ろから何かひものような物が伸びてますわよ。尻尾? イシカ、引っ張ってみたらどうですの?」
「ちょ、ストップストップ! 触らないで黙って座る!」
ムカルらはテレビの周りに張り付き、わけのわからない予想を立てては食い入るように見入っていた。
憩は慌てて止めに入り、多人数で囲むには小さい折り畳みテーブルの前に三人を座らせる。年季の入ったテレビとはいえ、壊されるわけにはいかない。
「しっかし、ひっでー雪だな。長靴埋まるかと思ったぞ」
タオルを頭に乗せながら、平良ががらりとドアを開けて入ってきた。慣れた様子でおもむろに冷蔵庫を開け、空のグラスに麦茶を注いで飲みだす。
フロントの奥にあるこの部屋は、従業員用の休憩室となっている。幼い頃から平良は旅館を遊び場のようにして入り浸っていたので、どこに何があるか隅々まで把握してしていた。
平良は初めの配達の後、更に同数のP箱を運ぶため往復してもらった。厨房の大きな冷蔵庫に酒を置き、仕込みをしていた加藤に挨拶を済ませ戻ってきたところだ。
「ねえ平良、ムカルさんたちのこと教えてよ」
ムカルが勇者だと言い当てた平良に、何者なのかと詰め寄ったのだが、まずは配達が先だと結局聞くことは出来なかった。
「ほれ」
濡れたウィンドブレーカーを脱いだ平良は、ジーンズのポケットをゴソゴソとまさぐったあと、折りたたまれた紙を差し出した。
憩はきょとんとしながら紙を受け取る。広げてみると、そこには見覚えのある姿があった。
「これ……ムカルさん?」
大きな斧の柄を肩に載せて担ぎ、低く構える人物のイラストが描かれている。濃紺のバンダナに深紅のマント。髪の色といい無駄に自信満々な表情といい、出会った時のムカルの姿と酷似していた。
紙の上部には『カムイ戦記』というロゴが記されている。ムカルそっくりのイラストの腰の辺りに重なるようにして、斜めに煽り文のようなものが書かれていた。
『古き良き時代を彷彿させる王道RPG、満を持して登場!』
どうやらゲーム雑誌の切れ端のようだ。ムカルの足元には、バストショットのみではあるがイシカとワコルのイラストも描かれていた。
「どうよこれ、似すぎだろ?」
平良は憩の手から紙を奪い、ムカルとイラストを照らし合わせるようにして見せる。
ムカルは何のことかわからず目を瞬かせていたが、じっと見つめられまんざらでもないという様子でドヤ顔を向けてきた。
イベントならばともかく、普段からゲームのキャラクターになりきるなどよほどの情熱がなければ出来ないだろう。憩にはその気持ちはさっぱりとわからなかったが、素直に感心して頷いた。
「うん……すごい似てる。すっごい好きなんだね、このゲームが」
「へ? いやちげーよ。そんなわけねーじゃん」
憩の言葉に、平良が全力でかぶりを振った。ここまでそっくりだというのに、何が違うというのか。雑誌をトントンと指で差し、彼は言葉を続ける。
「実はこのゲーム、リリースされてないんだよ」
「え?」