鳩 2
「貴女のためにうたいましょう、お嬢さん」
そう言ってお爺さんはうやうやしく礼をする。
そんな対応初めてだったので少しこそばゆかった。
変わった形の楽器を取り出す、キタローネっていうんだよって教えてくれながら、小さな音と大きな音をかき鳴らしてくれた。
音色と音の強弱を派手に変化させてお爺さんがうたいはじめるとまわりにいた鳩たちが一斉に空へと飛び立つ。
そういうスキルなのだろうけど、ちっちゃなあたしは素直に感動した。
その一羽の鳩には足が一本しかない
みんなその鳩を見ると同情する、かわいそうだと言う
そんなことはない、彼は誰よりも気高く生きている
いくら人間たちが餌を与え、懐かせようとしても彼は媚びない
片足で歩き、よろけながらも日々生きる糧だけ人間にもらう
それ以上、人間にかかわろうとしない
誰にも染まらずに自由に飛んでゆける
風にあおられ、倒れそうになっても気にしない
彼にとってはそれも日常のひとつ
暇つぶしにもならない
彼が信じるものはなんなのだろう
風をつかめる自由な羽
身体を暖めてくれる太陽
夜道を照らす月
きっと一番信頼できるのは自分自身だろう
片足で地面を蹴り、風を大きな羽でつかみ、はばたく
その一連の動作は完成された彼自身
一瞬で遠くにいける自分があるから、彼は誇り高く生きてゆける
そんなもの持っている人間なんているのだろうか?
彼は気高く、今日も風に乗る
うたが終わると鳩たちが一斉に戻ってきた。その羽音のせいであたしのちっちゃな拍手はかき消された。
ふとみるとその中に『彼』が居た、無邪気に仲間達と首を振っていた。
「はははっ お嬢さん、またどこかで会えたら貴女のためにうたいましょう」
そう言って吟遊詩人のお爺さんは颯爽と去っていった。名前、聞いたらよかったな。
くるっくー、足元にいる『彼』にあたしは少しどきどきした。
くるっくー




