鳩 1
数日後、そろそろコラリーさんのバジルの草丈がだいぶ伸びているはずだ。
今日はガーデナーのスキルを使い生長速度を早める予定だ。
昨日のうちに個人端末からコラリーさんをリザーブしている。
少し駅前の広場でお散歩したかったので、早めに北地区に着くようにレールカーに乗って出発した。
やはりこんな時間では車内には人はまばら、だけど働いている人は確実にいるんだ。
あたしも頑張ろう、そう思った。
北地区の駅を出て少し早い朝、澄み切った朝の匂い、やっぱりここは気持ちいい。
さすがにこの時間には芸をする人やジャンクフードを売る人はいない、たくさんの鳩の声だけがこだまする。
くるっくーくるっくー ……少しうるさいかもしれない。
一面に広がる芝生の上、くるっくーと鳴く鳩たちの中をお散歩する、まるで緑の絨毯にしろい綿を敷き詰めたみたい。
ふと見ると、一羽だけよろけながら歩いている鳩がいる。
なぜだろう? とよく見るとその鳩は片足しかない。
えっ? そんなのありえない?
そう思い近づこうとするとバサバサと羽を広げ、よろけながらも器用に飛び去ってしまった。
あたしはその鳩の飛ぶ姿を見て少しだけきれいだなとなぜだか思った。
「お嬢ちゃん、あの鳩が気になるかい?」
はっと気づくと後ろに背の高いネグロイドのお爺さんが立っていた。優しそうに少し笑っている、笑顔に釣られてあたしはそのお爺さんに疑問をぶつけてみた。
「どうしてあの鳩は片足なんですか? そんなのって ……ありえないんじゃ?」
片足の鳩なんて、ありえないはずだ。
「ははっ 所詮この世界も完璧じゃないさ、粗はたくさんある、そんなことよりも彼のことをどう思った?」
「彼?」
「ああ、すまない。 わしはあの鳩のことを彼と呼んでいる、はははっ いきなり不躾な質問だったようだね、ふむ、わしは吟遊詩人をやっている、一曲聴いてみるかい? お嬢ちゃん」
お嬢ちゃんと呼ばれるのは慣れてなかったので少し戸惑ったが吟遊詩人さんというのは初めてみた。
少し興味があったのであたしは言った。
「……よければ聴かせてください」
詩人さん登場です。




