デジレさんとあたし
うちに帰るとデジレさんが仁王立ちで待っていた。
……あぁー。
デジレさん、あたしの住んでいるフロアを勝手に(みんなには結構尊敬されているらしい、あたしにはわかんないよ)まとめている女性。ていうか基本的にきれいで素敵な人なのだけれど、なぜかあたしには過保護、しかもあたしと違って身体がおっきいんだよね。あぁーって感じ。
「みーやっ おかえり。 あんた、今日はうちでご飯食べなさい!」
開口一番そんなことを言う、あたしにも都合があるのにさっ。
「……あたしはみやです。 ご飯くらいひとりで食べれます」
「みーやっ 今日はガビーからいい蟹を貰ったんだよ、あははっ うちで茹でて食べようぜっ」
「行きます」
うぅー ……即答してしまった。蟹さん好きだもの。
でもガビーさんのデジレさんに絡まれているかわいそうな顔が浮かんだ。
オーストラロイドの陽気なガビーさん、荒れ狂う海の男と本人は言っているが、ただの漁師さんでしょ?
「きょうはいい酒が手に入ったんだ、チャーリーの奴がくれたよ、あははっ」
左隣のチャーリーさんも今日のかわいそうな人だったのか……
まぁあの人はあたしをからかうからいい気味だ。
「よーし、みーやっ 今日はとことん飲むぞっ」
「……あたし飲めないんですけど」
「き・に・す・る・な」
……あぁー。
蟹を豪快に鍋に突っ込んで茹でる後姿が勇ましい。
たまに思う、この人は本当に女性なのだろうか?
しかも片手にはワインのボトル、料理に使うんじゃなくてグビグビ飲んでるよ……
「あははっ 暴れてやがるぜっ この蟹野郎、あぁっ酒がうめぇなっ」
……おっさんだ。黙ってれば素敵なのに。。。
「ああん? なにか言ったか? みーやっ」
「なんでもありません それとあたしはみやです!」
そんなこんなで大笑いで茹でた蟹さんを豪快にばらしてテーブルに並べる。
ほんとに豪快ですよデジレさん。
さすがに活きが良いだけあっておいしかった。隣に酔っ払いさえいなけりゃもっとゆっくり味わえるんだけど、がはははっと笑い声がこだまする。
まぁ ……楽しいからいいか。
酔っ払ったデジレさんが少し真剣な目でこっちを見る。
「あんた、今日は北地区に行ったんだって?」
「はい、お仕事です」
「そうか……」
少し時間が止まる、デジレさんが笑ってないとそんな感じがした。
そしてやっぱり少し真剣な目であたしに言う。
「郊外に住んでいる人間てさぁ、結構のんびり生きているから、いろいろ考えちゃう人が多いのよね」
「……」
「あたし達みたいに毎日なにも考えないでせわしなく働いているメインシティの人間と違ってさぁ、暇だと人っていろいろ考えるんだよね、まぁ、あんたみたいなガキにはわからないと思うけどさぁ」
「……あたしは子供じゃないです、ちっちゃいだけです」
「あははっ ガキじゃんあんた、まだまだ子供だよ ……でもさぁ、結局人って行き着くところは一緒なのかもしれないね」
「……」
「……あははっ 酔っ払いの戯言だ、ガキは気にするな!」
デジレさんはいつものように酔っ払ってわけのわからないことを言う、わけがわからないからあたしはまだ子供なのだろうか?
でも少しだけ、デジレさんの言いたいこと、ほんの少しだけだけれども、ちっちゃなあたしは気づいているのかもしれない。
気づかないふりをしているのかもしれない……
それから、デジレさんはずっと笑っていた。ここではいつもこういう時間が流れている。
あたしの大好きな居心地のいい時間。
「おぅ、子供は早く寝るんだぞっ みーやっ」
「……みやです。今日はご馳走様でした」
「あははっ それはガビーに言ってやれ、おやすみ、みーや」
「おやすみなさい、デジレさん」
デジレさんは黙っていれば綺麗で素敵な女性です。




