ガーデナーの少女 3
少し照れながらあたしはお仕事の話を進める。
「ハーブがちゃんと育たないとご依頼をお受けしたのですが?」
「ええ、そうなのよ、でもまぁ仕事はともかく、まずはお茶にしましょう」
「……えっと、お仕事……」
「うふふっ まずはあなたとお話したいわ、紅茶は嫌い?」
「……いえっ 好きです」
「じゃあお入りなさい、おいしい紅茶を入れてあげる、うふふっ」
中は小粋な喫茶店? のようなお店だった。
木造りの椅子とテーブル、出窓からはお日様の光があたたかく差している。
お客さんはいない静かで優しい空間、彼女の人柄を表しているみたいだった。
「このお店は喫茶店なんですか?」
「えぇ、一応パティシエのスキルも持っているのよ、私」
もうすでにテーブルにはおいしそうなお菓子が並んでいた。最初からガーデナーが来たらお茶にするつもりだったのだろう、あたしの見たことのない焼き菓子が並んでいる。
仕事はワーカーが依頼を受けた時点で依頼主に通知が届く。
個人端末では依頼主のスケジュールも管理されており、空いてる時間をリザーブできるのだ。
「パスティエーラっていうのよ、それ。私の国のお菓子なの、簡単なチーズケーキみたいなものよ。ほらっ紅茶も入ったから食べてみて」
しっとりとした濃厚な口当たりの中でしなやかな歯触りと滋味を感じさせる小麦の粒、大量の卵とたっぷりのリコッタチーズのどっしりとしてふわふわした舌触りから立ち上ってくる柑橘系の爽やかな香り……
あぁ、あたしお仕事しに来たのになぁ。
「MIYAちゃんだったわね、いくつなの?」
「ふがっ、……あっ 14です、ごめんなさい、おいしくってこのお菓子、それとみやって発音です」
「うふふっ、みやちゃんでいいの? よかった、お菓子気に入ってくれて。 お店で人気のあった焼き菓子なのよ。」
のんびりとした時間が過ぎていく…… だめだめ!!、お仕事お仕事!
「あっ、あのぉ、お仕事……」
「うふふっ じゃあ、お仕事の話をしますね」
庭にハーブ用の花壇があってそこに植えたいバジルの苗を鉢で育てているのだが、うまくいかないとのこと。
ハーブかぁ、そういえばバジルを植えるには今が一番いい時期だ。
この地域は気候も湿度もちょうどいい。
「種から育ててるんですか?」
「そうなの、芽は出たのだけどなかなか大きくならなくて、困っていたのよ」
「うーん、土かなぁ、とりあえず見に行きましょう」
お店の外から見たときはよくわからなかったが庭は綺麗に整理されている。
季節の花ごとに花壇があり配置も見栄えがいいように工夫されている。
どうしてここまでの知識があるのにガーデナーを呼ぶのだろう? 少し疑問をぶつけてみると、
「あははっ この庭は私が作ったんじゃないのよ」
そう言ってコラリーさんは笑う、気のせいだろうか、少し寂しそうな笑顔。……などと思っているうちに問題のハーブの花壇にたどり着いた。
傍にある鉢の中を覗き見ると出揃った芽の葉が触れ合っていた。
「あっ ちゃんと間引かないと駄目ですよ、いい芽を選んで太くしっかりした芽を残すように、何回かに分けて間引いてください」
「あらっ そうだったの? でも間引いちゃうなんてかわいそうじゃない?」
「大丈夫です、間引いた芽や苗もお料理に使えますよ。きっと狭いところで生えているよりもそのほうがバジルも喜びますよ」
「あらあら、さすがプロのガーデナーさんね、さっそく今晩の料理にでも使わせていただくわ」
今回のお仕事はスキルは必要ないっぽい、 アドバイスと少しの作業で終わりそうだ。
スキルを使うと「出来ないこと」はないけれど、あたしは手作業も楽しくて好きだ。
いい芽を選んで残していく、二人でいろいろおしゃべりしながら作業をしたらあっという間に終わってしまった。
みやちゃんはプロなのです。




