選択 1
今日はコラリーさんの家へ行く最終日になる予定。先日見た様子であれば、もう立派に花壇に定植させることができるだろう、花壇の土も少し手を入れたので今頃ちょうどよい塩梅だと思う。
後は花を咲かせないように気をつけるだけだ。
北地区行きのレールカーにも、もう乗りなれた。
駅前広場に着くと相変わらずのたくさんの鳩たち。
『彼』は見当たらなかった。
吟遊詩人のお爺さんも見当たらない。きっと次にくる時には会えるだろう。
仕事が終わってもコラリーさんのお店にはちょくちょく通うつもりだ。あのお菓子はちっちゃなあたしを虜にしている。あぁ、コラリーさんちの子になりたい。
コラリーさんのお店に着くといつもの優しい笑顔があたしを出迎えてくれた。
やっぱりお客さんは今日も居ない、ちゃんと営業しているの?
「みやちゃん、今日はついに鉢から花壇に移すのね、うふふっ」
「はい、花壇には元肥を施しておいたのですんなりといくと思います」
「信頼してるわよっ みやちゃん。 さぁ、はじめましょう」
そういって今日もあたしを引っ張るコラリーさん。一緒に花壇の傍にある鉢の様子をみる。
うんうん、立派な苗が育っている。
これならちゃんと定植するだろう。あたしはコラリーさんに今日の作業の説明をした。
「バジルって思っているよりもどんどん茂るから株と株の間が10~15センチ間隔になるように植えたほうがいいんですよ」
「はいっ わかりました、ガーデナーさん」
そうやってちょこんと敬礼するコラリーさん、もう、年上なのにかわいいのっこの人は。
やっぱりあたしはこの人がどんどん好きになっていく。
最後の作業なので少し緊張していたのだけれど彼女の笑顔につられてあたしも笑顔になる。
そうして笑いあいながら作業を進めると、あっという間に終わってしまった。
「これでおしまいです。あとは害虫対策ですが、牛乳を霧吹きで吹きかけるとアブラムシなんかも寄ってきませんよ」
その時、ずっと笑っていたはずのコラリーさんの様子がおかしい。
どうしたんだろう? 泣きそうな顔に見える。気のせいだろうか?
「……ありがとう」
そういっていきなりちっちゃなあたしを抱きしめるコラリーさん。
「今日はうちでご飯を食べていって ……ねっ」
そう耳元で囁く。本当にどうしたんだろう? こんな震えた声、初めて聞いた。
「……どうしたんですか?」
「うふふっ なんでもないのよ、今日はおいしいパスタをみやちゃんだけにご馳走しちゃうんだから」
あたしから離れたコラリーさんはもう笑顔だった。
そして花壇に定植したばかりのバジルから葉を摘む、まだ少し声が震えていたけれど、この摘みたてのバジルで今日のパスタを作るのよって言いながら笑っていた。
その笑顔は…… いつか、みた、あたしの嫌いな……笑顔だった。




