18歳の日 vol.1
7月1日、水曜日。自転車を少し漕ぐと汗ばむような、そんな夏の初めだった。この日は必ず浜崎あゆみの"July 1st"を聴きながら学校から帰るようにしている。今日は特別な日。自転車を全速力で家に向かった。
「お姉ちゃん!おかえりなさい!」
玄関のドアを開けるなり妹が飛びついてきた。今は妹とこのアパートで二人暮らしをしている。
「お誕生日おめでとう!ついにお姉ちゃんも18歳なのかぁ...。」
嬉しいような、でも少しさびしいような、そんな口調で妹は言った。そう、今日は私の誕生日。7月1日生まれだから、七海。平 七海、それが私の名前だった。
「彩海もあと1ヶ月で16ね。」
8月1日生まれだから、八海。というわけではなく彩溢れた海が彼女の名前だ。
彩溢れた笑顔で彼女は言った。
「ほら!お姉ちゃん!今日は私が家のことは全部やるから!お姉ちゃんはゆっくりしててね!あ、18になったからってそういうサイト見たりしちゃダメなんだからね!」
妹は私をリビングのソファまで急かした。私は言われるがままにソファに座り込み、缶ジュースを手渡された。
「じゃあ、ゆっくりしててね!ごはん出来たら呼ぶから!」
屈託のない笑顔で妹は言った。
ちょうど3年前の昨日、私たちの親は、私たちだけを残して消えた。それ以来、私は学校に通いつつバイトをして、家事をして、妹の面倒を見ている。幸いなことに親切な親戚のおばさんが仕送りをくれているおかげで私も高校に通うことができている。
3年前の今日は、悲しい誕生日だった。もちろん、私も妹も学校には行かず、家で二人寄り添って泣いていた。この2日後におばさんが訪ねてきて、生活は立て直すことが出来た。そして毎日をなんとか生きながら、今日までに至る。
妹とは昔から仲良しだった。この3年間、苦しい時もいつも二人で乗り越えてきた。でも、妹に言えないことはない...と言ったら嘘になる。妹にはまだ一つだけ言えていないことがある。
私は妹、いや、彩海のことが好きだ。3年前の今日からずっと。いや、もうずっと好きなのかもしれない。たまたま3年前の今日に気づいてしまったのだ。もちろんこんなことは言えない。女同士であることはもちろん、それ以前に血が繋がっているのだ。こんなことを妹に言ったら、私と妹の生活は壊れてしまうだろう。私は今の生活を壊したくなかった。つらいこともあるけれど、妹と二人で支えあって乗り越えていける、この日々が愛おしくてたまらなかった。
妹はよく私にスキンシップを取ってくる。ー 今以上の関係になりたい ー 高3になって、妹に触れられるたびにそんな欲望が私を苦しめるようになった。妹の全てを私のものにしたい自分と妹の一番の幸せを願う自分が葛藤してやまないのだ。
またそんなことを考えていると涙が出そうになった。でも妹に呼ばれたので、涙を拭いて食卓へ向かった。今日のごはんは私と妹の大好きなハンバーグだった。
キリがいいので短いですがこれで1話にしました。プロローグ的な感じでしょうか、まだまだ謎だらけですね笑。