(2)
さあ、建物に入りますよー
……入れるのか……?
こちらも連続して加筆修正済みです。
シアンの家を出て、村の中心に威風堂々と佇む巨大な神殿に向かう二人。
地面は相変わらず乾いた音で、二人の安定した歩きを知らせている。時間帯のせいか、空を舞う鳥たちの爽やかなさえずりも聞こえている。
二人は時々鳥を羨ましいと思うことがある。……レンの場合、(空からお宝発見できねぇかなぁ)という欲の塊ではあるが。
「良い天気だね。空がまっ青」
感情のない瞳で空を見上げ、同じく感情のカケラもない声が感想を述べる。簡潔に。
「……そーか?」
それに対してレンは、いつも以上に目つき悪く(眉間に皺が寄っている)、キディの言葉を真っ向から否定した。
「は? 何言ってんのさ、見ての通りじゃない」
キディの『見る』限り、空はどこまでも晴れ渡り、青く澄んでいる。なのにレンは、目を細め眉間に皺を寄せながら(とても嫌そうな顔つきともいう)言う。目線はキディではなく、目の前の神殿。
「俺にはどーも、あの神殿の周りに黒っぽい靄がかかってるように見えるんだがな……気のせいなのか?」
「僕には見えないけどね。気のせいじゃない?」
レンの視線を辿り、同じ場所を見るようにしながら、キディがあっさりと『気のせい』を肯定する。
「そーかなあ……」
それでも納得できないレン。こんなにもはっきりと見えているのに、自分以外には見えないのか? 何度か瞬きをしたり、目を擦ってみたりするが、やはり目の前のモノは消えない。
「いや、やっぱりあるぞ、ほれ足元」
今度はキディの足元を指差して言う。キディは素直にレンの指先を辿ってみる。
「何があるってのさ、見えないよ?」
「げ、幻覚か……? 俺霊感は強くないはずなんだがなあ……」
足元にある自分にだけ見えるらしい靄に視線を落としたまま、納得できない様子でぶつぶつと呟きを漏らす。それを見かねたキディが声をかける。無論、見えないものを見ようと努力している訳ではない。
「で? どこから調べる? 扉? 壁?」
「いやちょっと待て……っ何だコレ、ヤらしいなっ」
「レン……何一人でおかしな踊りしてんのさ……。傍から見てると爆発するくらい怪しいよ」
キディの言う通り、レンはその場で飛び跳ねるようにしながら、奇妙なステップを踏んでいる。どうやら、彼の足元にまとわりついているらしく、それを避けようとしているようなのだが、如何せんそれが見えないが為に、奇妙な踊りにしか見えない。
「このモヤが足に絡んで来るんだもんよ……って、お前気にならないのか?」
「気になるも何も、見えないんだから」
レンの必死の訴えも一刀両断。
「それに僕何ともないから、実害はないんじゃない? 第一、見えないものには攻撃も防御もしようがないよ」
「う……まぁ……確かに……そーだけど。やっぱ気持ち悪ぃな」
「それの出所は分かる?」
渋々ステップを踏むのを止めるレンに、キディが問う。レンは嫌々ながらも足元から視線を上に向け、靄がやって来る場所を目で探す。
「あそこだな……。開きっぱなしのその扉」
一応キディも目を向けるが、そこには漆黒の闇が四角く切り取られているだけだ。その先には何も見えない。吸い込まれそうな色だ。
「で、その周りには靄ないの?」
「左右にあるだろ? そのでっかい窓から建物の中に逆流してるぞ」
「ふーん」
「ふーん、て」
レンが切なそうな顔をするが、それは完全スルー。
「このままここにいても仕方ないでしょ? どうするの? 正面から入ってみる?」
「いや、まずは建物の外観を見ておこう。ここから入る気はしねーし」
「いいよ」
今度はスルーされなかった、と、心のすみっこで安堵するレンだったが、それはこの時だけだった。
乾いた地面を擦るような足跡に、少しだけ砂を噛んだような音が加わり、やがて止まる。
「神殿は四階建て。出入り口は正面のみ。出入り口の左右の窓を除いて全て内側から固定されていて開かない。全体に石造り。そして無意味にでかい。……こんな感じ?」
巨大な神殿の周りを一周して、戻ってきてからのキディの台詞がこれだった。これ以上ないくらいに、簡潔に外観をまとめている。
「ま、そんな感じだな。でかいのが無意味かどうかは知らんけど」
「巨人族かなにかの遺産だって言うの?」
「さあな」
腰に手を当て、諦めに近い吐息を漏らすレン。
「しっかし……やっぱこっから入んのか?」
「ここしかないみたいだし。覚悟決まった?」
「決まるまで待てるか?」
「待てない。行こう」
「……しゃーねーなぁ……」
キディはすたすたと、レンはやはり奇妙なステップを踏むようにしながら、ぽっかりと空いた漆黒の闇の中に足を踏み入れた。
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