(4)
またしても改稿。2021年10月です。結構な加筆修正をしている感じですが、中身自体はほとんどかわっていませんw
仄かなオレンジ色の灯りに照らし出された部屋は、温かくはあるが妙に生活感の無い部屋だった。
ことり、とテーブルに二つのカップを置くと、シアンは二人の向かいに腰を下ろす。
「村の近くで採れるハーブです。疲れが取れますよ」
「ありがとう」
例を言うと早速口をつける二人。木の実で空腹を紛らわせたとはいえ、物足りない腹に優しい香りだ。
「いい匂いだね……」
キディも大人しくお茶を啜っている。それを横目で見つつ、レンがカップを置いて切り出した。
「じゃあ、聞かせてもらえます?」
「はい。……それは、突然起こったのです」
ゆっくりと噛み締めるように話すシアン。その顔は、とても暗く、一言一言をまさに噛み締めるような話し方。
「ある日、この村の神殿……あの大きな建物ですが。それが、人を飲み込んでしまったのです」
「……は?」
間の抜けた声を出したのはレン。……建物が、人を飲み込んだ?
「はい。信じられないかもしれませんが、そうなのです」
続けてシアンは語る。
「突然、村の人たちの悲鳴が聞こえたと思ったら、神殿が動いて……」
その日は、村人全員が月に一度、神殿に集う日だったらしい。シアンを除いた全員が、神殿に飲み込まれてしまったのだという。『動く』という単語が出てきたのも気になる。
「君はどうして?」
「わ、私は……家の仕事に手間取ってしまっていて、家族も先に神殿に行かせて、一人で家にいたんです。そしたら……」
「その神殿から悲鳴が聞こえて、村人が飲み込まれ……消えた、と?」
レンが引き継ぎ言った言葉に、シアンは両手で頭を抱え込んでしまった。小さく左右に頭を振り、思い出すのも辛そうだ。
「分からないんです! ただ、一度扉が閉じて、それが開いた時には、中にいたはずの人たちが消えてしまっていて……!」
「誰かが扉を閉じたの?」
キディがカップを置いて問う。
「そんなはずはないんです」
「? どういうこと?」
「あの扉は、村の男たちが全員力を合わせても動かないんですから」
シアンの言葉に、二人は顔を見合わせる。
……動くはずのない扉が一度閉まり、開いた。その一瞬で、中にいたはずの人間が姿を消した。
「誰が造ったの? そんな神殿」
興味が無いわけではないのだが、単調な口調で無感情だから、どうしてもそっけない響きになってしまうキディが問う。
少し落ち着いたのだろうか、シアンは両手を膝に置いて顔を上げる。
「……もともとあったんです。それを囲むようにこの村が作られて……」
こんな世界だ。何かの象徴、あるいはシンボルになるような物があれば、その周辺に集いたくなるのが人情というもの。ここも例外ではなかったらしい。
この村は、何かの理由で大地を彷徨っていたり、運悪く土地を失ってしまったり、そんな者たちが集ってできた村だという。シアンもその家族も、つい最近、ここの住人として暮らし始めたばかりだという。
そんな話を聞いているうちに、レンの目つきが変わってきた。
「前代未聞の大発見だよ、キディ」
「人間じゃない誰かが造ったっていうの? あの神殿を?」
「大体、俺たち人間の歴史なんて、大地の歴史に比べたらまだまだ赤ん坊みたいなもんなんだぜ? 俺たち以前の、俺たち以上の文明があったっておかしくないじゃないか」
「レン……目の色、変わってきてるよ」
キディが指摘するまでもなく、レンの瞳はどこか違う次元に広がる金銀財宝に引き寄せられている。そして何やらぶつぶつと、ひとり何やら話し出すのだ。……アブない。
「……大陸の歴史に新情報を提供できれば、調査委員会から礼金が入るかも知れないな……」
かろうじて聞き取れたのはこの部分だ。
様子がおかしいレンに若干引き気味ながらも、シアンは勇気を振り絞って声をかける。
「あの……」
「あ、うん?」
シアンの勇気は無駄ではなかった。か細く出した声だったが、異次元を見つめていたレンをすんなり現実に引き戻した。まだ目の色が戻っていないが。
「お願いします……家族を、村の人を助けて下さいっ!」
勢い良く頭を下げるシアン。ついさっきまで目の色が変わってアブない人に成り果てていたレンだったが、その勢いに押されてすっかり元に戻っている。
「OK、ここまで話を聞いたことだし、お茶も出して貰ったしな。このまま無視するほど人間落ちちゃいないからさ。いいだろキディ」
「うん。ついでに、たらふく食べちゃった木の実のお礼も含めてね」
「おう」
シアンは安堵の表情を浮かべた。
あまりにあっさり引き受けたこの二人に、不安を感じないでもなかったが、今は彼らに縋るほか、彼女に残された選択肢は少なかった。
「本当ですか? ありがとうございますっ!」
彼女は一気にテンションが急上昇。不安そうだったり取り乱したり落ち着いたり、本当に感情と表情の変化が忙しい。
だんっ、とテーブルに両手をつくと、目から星を飛ばす勢いで捲し立てる。
「あのっ、今日はもう遅いですから、ここでゆっくり休んで下さいね! 家族のものですけれど、お部屋もどうぞご自由に使って下さい! あ、私、夕食の支度をしますねっ!」
これだけを一気に言い終わると、ぱたぱたと忙しない足音を立てて、奥のキッチンに向かって去っていく。……彼女を見送ると、固まっていた肩の力を抜く二人は、同時に呟いた。
「は、はあ……そりゃどうも」
「凄いテンション」
窓の外は、すっかり夜の帳が落ち、寂しげに虫の啼く声が響いてくる。
どこからともなく聞こえる鳥の声に混じり、レンやキディには聞こえない声が、夜の空気に溶けていく。
『ふふ……良かった、楽しみだわ……』
お読み頂きありがとうございます。
もっと読み応えがあるような作品創りを目指します。
ご意見・ご要望・ご指摘・ご感想等、お待ちしております。