事件発生
よろしくお願いします。
4事件
プルルルル―――
朝5時過ぎ。枕元に置いていた俊介愛用のガラパゴスケータイが鳴りだす。誰だよ・・・といら立ちを覚えながら布団を深くかぶる。しかし、一向に鳴りやまないので布団を剝ぎ、ガラケーのディスプレイを確認する。
南雲椎名
こんな朝に何の用だよ。
いらいらとした手つきでケータイを開く。
「もしもし」
声も少々低めであった。
「高梨!?よかったー出てくれて!!」
「なんだよ。こんな朝早く・・・。」
「お願い!何も聞かずに学校まで来てくれない?」
「は?」
「いいから、お願い!」
電話口の椎名の声が泣きそうだったからこれはただ事じゃないと俊介は思った。
「わかった。」
そう短く言って電話を切った。俊介はその辺にあった服を着て家を出た。少し東の空が白んでいた。その中自転車を走らせる。俊介の家は学校から離れているため、急いで20分かかる。学校の前につくとうずくまって泣いている椎名が目に入った。
「どうしたんだよ。」
俊介がそう声をかけると椎名は頭を上げた。顔は涙で濡れていた。
「高梨・・・。飛松さんが・・・。」
「え?」
「と、飛松さんが皇帝ペンギンに・・・殺された。」
「え!?」
一瞬椎名が何を言っているのか理解できなかった。飛松が殺されたなんて、俊介は信じたくなかった。
「冗談だろ?また、たちの悪いこと言って・・・。」
そういうと椎名はただ首を横に振るだけだった。
「なんだよ、そんなわけないだろ?あの時あんなに元気だったのに・・・頼むから嘘だって言ってくれよ。・・・・なあ!」
「・・・・・」
「くそぉぉぉぉ――――――!!!!!!」
俊介はいら立ちのあまり空に向かって吠えた。なんで飛松が殺されないといけないんだ、俊介は疑問でいっぱいだった。
「あ、俊介。来たんだ。」
声のした方を見ると離空と実栗が立っていた。
「なあ、嘘だよな、嘘だって言ってくれよ!!」
「・・・残念ながら、本当なの。」
実栗の言葉が心に突き刺さる。
「南雲さん、DVD、用意できたよ。」
「DVD?」
「現場に残っていたものなの。何かの手がかりかなって」
そういって実栗は持っていたらしいパソコンを取り出した。実栗はパソコンを花壇の上に置き操作する。3人はパソコンを操作する実栗の周りに集まった。
「流すよ。」
そういって実栗はエンターキーを押した。
「どうもー皇帝ペンギン対策組織のみなさん。皇帝ペンギンです。」
「!!」
電光掲示板に表示されていたドラ○もんのお面の姿とあの時の声で話し始めた。
「対策組織だって・・・笑わせてくれるねーwwおもしろいよ。君たち」
何が言いたいんだ、俊介はいら立ちを覚えながら話を聞いた。
「そんな対策組織なんて作ったって無駄なのに。・・・誰が対策組織の一員なのかなんてすぐに分かるんだよ。」
「嘘だ!!」
離空は叫んだ。
「あ、今嘘だって思ったでしょ。だってさー現に皇帝ペンギン対策組織のリーダーだった飛松幸雄さん・・・殺されたでしょ?」
「・・・・・。」
「ふふふ、我々を倒そうなんて10万年早いんだよ!!わかったらおとなしく殺されるのを待つんだな!・・・自分はガラケーだから大丈夫なんて思ってるなよ!我々が直々に殺しに出向いてやるさ!」
ブチッという音がして真っ暗になった。そこにいる誰もが意気消沈し、誰も話そうとはしなかった。
「おい。お前ら。」
後ろから声がして声がした方を見ると皇帝ペンギン対策組織の第一会議で俊介たちのことを批判していた男が立っていた。
「あなたはあの時の・・・。」
「確か小林さんでしたっけ?」
「そうだよ。小林 勉だ。」
「皇帝ペンギン対策組織のやつらに声をかけた。お前らもこい。」
そういって前を歩き出した。仕方なく俊介たちは小林の後を追った。
着いたのは大きな一軒家だった。
「でか。」
一軒家についた時の俊介の第一声がそれだった。
「おら、ぼーっとしてないでさっさとあがれ!!」
小林の声で4人はいそいそと靴を脱いで家に上がった。案内された部屋には皇帝ペンギン対策組織のメンバーがそろっていた。みんなが思い思いの表情を浮かべながらその場にいた。
「よし、全員そろったな。」
小林がそういって一枚の封筒を取り出した。
「これは飛松さんの遺書だ。」
「「「「!?」」」」
全員の視線が小林の持つ封筒に一斉に集まった。
「俺の家に今朝届いたんだ。開けたら手紙が入っていた。」
そういって小林は封筒から一枚の便箋を取り出し読み上げた。
拝啓 皇帝ペンギン対策組織の皆様へ
皆様がこの手紙を読んでいるということは私はもうこの世にはいないでしょう。
先立つ不孝をお許しください。犯人は皇帝ペンギンの奴らです。皆様の力で仇を取ってくれると私は信じております。研究中と言っていた皇帝ペンギン対策の力が完成しました。そのプログラムの入ったメモリーカードを同封いたします。あとは志摩さんにお任せいたします。私が声をかけて集まっていただいた組織なのに、リーダーがいなくなってしまい本当に申し訳なく思っております。次期リーダーは高梨俊介君にお願いしたいと思います。
敬具
飛松幸雄
「「え!?」」
俊介と実栗の声が重なった。
「志摩、これが同封されていたメモリーカードだ。」
そういって小林は実栗にメモリーカードを手渡した。
「え、こんなの・・・私・・・」
「お前しかできる奴はいないんだよ」
小林の言葉にうなずき、実栗は持っていたパソコンにメモリーカードを差し込んだ。
すると、実栗のパソコンに映し出されたのは黒い背景とおびただしい数の白い文字だった。
「うわ、なんだよこれ!」
気持ち悪いとでも言うように離空が言った。
「ハッキングする時の画面によく似てる・・・でも何かが違う。」
そういって実栗は何かを見出すようにパソコンのキーボードをたたきだす。
その光景を眺めていた俊介に小林が近寄る。
「高梨君、飛松さんは君をリーダーに指名しているんだ。君にできるかい?」
「・・・正直、なぜ僕がこのメンバーに選ばれたのかわかりませんでした。若さと運動神経とか、頭脳ならほかの奴の方が優れてると思うし、僕はただガラケー愛用者で数合わせで呼ばれたのかと思っていました。でも、前に飛松さんが僕に行ったんです。『君のリーダーシップは天性の能力さ。志摩さんみたいな頭脳と同じくね。私はそれを存分に使って皇帝ペンギンの奴らを倒したいと思う』って。僕はいまいちその言葉の意味が理解できませんでした。でも、今その飛松さんの遺書には僕へのメッセージが含まれていて、よくわかりました。リーダーシップが志摩と同じような能力だってばからしいなんて思ってごめんなさい。飛松さん・・・」
「わかったから泣くな。男だろう。」
「高梨。今の皇帝ペンギンに高梨以上のリーダーシップを発揮できる人なんていないと思うよ。高梨じゃないとできない。だから高梨に頼んだんだよ。飛松さんは。」
椎名の言葉に俊介はもう一度涙が出そうになる。
「私だって高梨と同じこと考えてたんだよ。私なんていらないって。でも飛松さんは『テロリストは言葉の傀儡子だ。だから君の国語能力は必ず役に立つときが来るんだ。』って言ってくれて私・・・」
椎名のその後の言葉は涙でかき消された。
「君たちの事をただの高校生だなんていっていた俺を許してくれ。君たちはこの皇帝ペンギン対策組織に必ず必要になる存在だ。私たち大人の方が数合わせのような存在だったというわけだ。」
「それは違いますよ!!飛松さんはそんなことしません。」
「・・・まあいい。高梨君、君はこの皇帝ペンギン対策組織の頂点に立ち、我々を引っ張って行ってくれる自信はあるかい?」
「・・・不安はあります。でも、飛松さんの選んだ皇帝ペンギン対策組織のメンバーを信じて頑張りたいと思います。」
俊介は涙を拭いてまっすぐとした視線で言った。
「新リーダーの誕生だな。」
小林のその言葉の後に拍手が起こる。
「あ―――!!そういうことか!!」
拍手は実栗の大きな声でかき消された。
「どうした!?」
「わかりました!これに残した飛松さんのメッセージ!」
俊介が実栗のパソコンを覗くと先ほどと変わらず黒い背景に白い文字の画面のままだった。
「え、何が?この画面から?」
俊介たちは疑問でいっぱいだった。
「はい!!あ、わかりやすく説明しますとね・・・」
実栗はもう一度パソコンの画面に向かい、すごい勢いでパソコンのキーボードをたたいた。その光景に俊介は少し後ずさる。
「皇帝ペンギンへの対策はガラケーに埋め込むことが出来る光線らしいんです。」
「光線?」
「はい。特殊な光線で・・・まあ言えば特殊な超音波に対抗できる一つの方法らしいですよ。えっと、ガラケーとパソコンをつないでデータに侵入してこの特殊光線のプログラムをセットするみたいですよ。」
「・・・・?」
そこにいる全員が実栗の言葉を理解できていないようだった。
「あ、えっと・・・高梨君、ケータイ貸して!」
「え、あ・・・はい!」
突然のことで驚きながら実栗に愛用のガラケーを渡した。すると実栗はケータイとパソコンを線でつなぐ。そして一息ついてからもう一度パソコンに向かう。
「志摩?」
不安になった俊介は言った。パソコンの画面はおびただしい数の文字がずらずらと並んでいて実栗のタイピングスピードに合わせてどんどんと流れていく。
「た、高梨君ケータイで何してるの?」
「へ?」
「変なウイルスいっぱいついてるよ」
「え!?」
「まあ、あんまり関係ないけど・・・どうする?」
「え、ウイルス対策とかないのですか?」
「・・・あるけど、この量じゃ・・・市販のもので持つかどうか・・・」
「え」
「・・・光線はウイルスダメみたいだし、仕方ない。私のウイルス対策の方法でいい?」
「もう何でもいいのでお願いします。」
ウイルスとかなんとか言われても俊介には理解できない。もうそれなら実栗にすべて任せてしまった方がましである。
「了解!」
それから数分。実栗はキーボードをたたき続けた。そして最後に勢いよくエンターキーをたたいた。
「終わった・・・かな」
「本当に!?」
実栗はうなずいてつないでいたケータイを離して俊介に渡した。
「高梨君のケータイ、なんでそんなにウイルスついてるの?意味わからないよ」
「そんなこと言われたって・・・」
「まあいいとして、えっとこのケータイについた力を説明するね。」
「はい!」
「この機能は皆さんのケータイに施すのできいておいて欲しいです。まず、この何の変哲もない黒い紙を的にしましょう。」
そう言って実栗は黒い紙を俊介の数メートル前に立てた。
「高梨君はガラケーを開いて。」
俊介は愛用のガラケーの画面をパカッと開く。
「赤外線の送信口を的に向ける。」
俊介は言われたとおり的に向けた。
「そして、顔の横にケータイを構えて、0を四回押す。」
俊介は構えて、カチカチと操作する。
「そして、的に向かって0と決定ボタンを同時に押す!」
俊介は両手でケータイを構え、ボタンを押した。すると反動が少し来て前にあった紙がゆれる。小さな歓声が上がった。
「まだだよ」
実栗の声にもう一度紙に目をやると、黒い紙はするすると溶けていったのだ。先ほどよりも大きな歓声が部屋をつつむ。
「成功だね。この黒い紙はその特殊な光線に反応して溶ける紙なの。これが飛松さんが残して行った。皇帝ペンギン対策の力。きっと、この光線が皇帝ペンギンの何かに聞くのだと思う。」
「す、すごい・・・」
皇帝ペンギン対策組織のメンバーはポカンと口をあけて実栗を見ていた。
「お、お前は何者なんだ」
一人の男が実栗に問った。
「・・・何者・・・ですか、ただの1女子高生ですかね!」
そう言って実栗は可愛く笑った。