志摩実栗という少女
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3志摩実栗という少女
俊介はボーっと外の風景を眺めていた。先日の実栗の行動がどうも引っかかるのだ。
「今日は教科書の・・・」
前に立つ現国の教師、雨宮の声も聞こえなくなるくらい上の空だった。
「次の問題を、高梨君」
「・・・」
「高梨君?」
「ちょっと、高梨・・」
先生の呼ぶ声は全く俊介の耳にはとどいていなかった。隣の席の女子に腕をつつかれ我に返る。
「あ、はい。」
「君私の話、聞いていないね。」
「すみません」
「全く、君という人は・・・。高梨君に限らず現代の若者は向上心とやらを知らないね。武田信玄のように!下剋上という名の向上心を身に着けたまえ。そうそう武田信玄といえばだなぁ。彼の暗号式というのがあってだな・・・」
「また始まったよ、マニアの解説。」
クラスの誰かが言う。雨宮は歴史上の人物のマニアだ。その話になると現国の授業そっちのけでその話をすすめる。のでこの雨宮のあだ名はマニアになっている。その日の授業も潰れ、結局一時間武田信玄の話になったらしい。
「へー志摩と飛松さんがそんなことを?」
俊介は璃空に実栗の不思議な行動を話した。
「そうなんだよ」
今は昼休み。実栗のクラスは校舎が違うので会うことはないと思い教室で話をしている。
「またまたー高梨の思い違いじゃないの?」
近くにいた椎名が2人に言った。
「いやいや。あれは絶対なんかあるって!」
「俊介は考えすぎだろ」
璃空も俊介の考えを否定した。
「えー・・・」
納得のいかない俊介はクラスのみんなに聞くことにした。
「なあ、理数学科の志摩実栗って知ってるか?」
「おい、俊介?」
俊介は実栗のことを知っている同じクラスの生徒を探して、クラスのみんなに話しかけた。
帰ってきた答えはこのとおりだ。
「知らないな」
「知ってる。この間なんか賞取ってたやつだろ?」
「確か学年成績1位の子だよね?」
など俊介たちも知っている情報を教えてくれる。
「ほらやっぱり何もないだろ?」
璃空に言われて俊介は頭を抱えた。
「うーん・・・なあ星野。お前なんか知らない?」
「え?志摩実栗ちゃん?」
「そう」
俊介は近くにいた星野美和に話しかけた。
「・・・これは友達から聞いた話なんだけど、“MENSA”っていう天才集団に所属しているらしいよ?」
「“MENSA”?」
「うん。詳しい事はわからないの。友達のほうが知ってると思う。」
「その友達って?」
「国際学科の相原つぐみ。あ、ねえ海人!」
美和は同じクラスの津田本海人の名を呼んだ。
「んあ?」
「つぐみ、今日学校来てるよね?」
「いるだろ?」
「国際学科に行けば会えると思うよ」
美和はそう言って笑った。
「ありがとう」
俊介はそう言って教室を飛び出した。
「ちょっ!俊介!?」
璃空と椎名はそのあとを追いかけた。
国際学科のあるC組の前に立ち、近くにいた生徒に相原つぐみを呼ぶように頼んだ。教室から出てきたのはボブヘアの女の子だった
「・・・誰?」
「文部学科の高梨俊介。星野に君が志摩実栗について詳しいんじゃないかって教えてくれて・・・」
「美和が?」
俊介はうなずいた。そこに璃空が走ってきた。
「美和が言ったんならいいけど・・・」
「教えてくれないか?」
「・・・私も理数学科の彼氏に聞いただけなんだけど、“MENSA”っていう天才集団に所属していて、その組織がなんか色々ヤバいらしいの。」
「ヤバい?」
「天才でしょ?だからIQ高くして、犯罪をしているらしいの」
「高度なIQ犯罪ってこと?」
「うん、たぶん。・・・で、そのなかに実栗ちゃんがかかわっているっていう噂があるの」
「志摩が犯罪に?」
「これは噂だからあまりあてにしないでほしいな。」
「あ、ありがとう!」
俊介はそういうと国際学科を後にした。俊介は2人のことはすっかり忘れて走って屋上へ向かった。
「俊介!待てよ!」
璃空と椎名は色々動いていく俊介を追いかけるのに必死だった。
屋上
「俊介!」
2人は俊介を追って屋上のドアを開けた。
「やっぱりだ!」
「なにが」
「やっぱり志摩には何かあるんだよ!」
「まだきまったわけじゃないじゃないか」
「そうよ!噂じゃない!」
「でも・・・」
がちゃ!ドアが開いて誰かが入ってきた。俊介たちは一足早く時計台の陰に隠れた。
「そんな!待ってくださいよ!」
入ってきたのは実栗だった。愛用のガラケーで誰かと電話をしている。
「作戦失敗って何ですか!?・・・だから私は止めたんじゃないですか!」
電話の相手がだれかはわからないが、もめているようだ。
「・・・・ちょっと待ってくださいよ!・・・いくらなんでもそれはできません!」
「何の話だろ?」
璃空が俊介にこそっと話した。
「さあな」
「・・・わからないですよ・・・そんなのに、何の意味があるんですか?・・・たとえそれが成功したとして、今世界はこんな状況なのに・・・」
「・・・っ私、まだ高校生なんです!どうして私ばっかり・・・・」
「・・・と、とにかく無理なものは無理です!」
実栗はそう言って電話を強引に切った。そして大きなため息を吐いた。
「志摩」
時計台の陰から俊介が出て行く。その姿を見た実栗は驚いて振り返った。
「た、高梨君!もしかして今の話聞いて!」
「・・・ごめん」
俊介に続いて璃空、椎名も姿を見せた。
「海藤君、椎名ちゃん・・・聞いてたの」
「ごめん。聞いてた。話の相手ってもしかして“MENSA”の人か?」
「!!」
「ちょっ!俊介!!」
俊介の言葉に驚いた璃空は言った。
「もう、そこまで知ってるんだ・・・。」
「・・・・」
「私が“MENSA”だって誰に聞いたの?」
「・・・国際学科の相原つぐみに・・」
「あー、桜宮君の彼女さんか・・・」
「志摩、教えてほしい。俺たちは一緒に皇帝ペンギンのやつを倒すって言った仲間だ。隠し事はしないでほしいんだ。」
「・・・分かったよ。」
実栗は大きく息を吐いて話し出した。
「私は“MENSA”という天才集団に所属している。」
そう言って実栗は緑色のカードを3人に見せた。そこには大きな字でMENSAと刻まれ、その下に実栗の名前と会員番号が書かれ、その横には写真が貼られていた。
「そこは年齢に関係なくIQ450を超えている天才ばかりが集まる集団なの。」
「IQ450・・・!?」
そんな数聞いたこともない俊介たち3人は驚いた。
「私は7歳からその集団に所属してて、いろいろな仕事をこなしてきた」
「仕事・・・?」
「警察の捜査に協力したり、海外のデーターベースをハッキングしたり、色々。まあ、小学生のころは法律で働いちゃダメだったから何もしてないけどw」
そう言って実栗は少し笑った。
「で、私が高校生になったぐらいの時からMENSAの大人達が犯罪に手を染め始めたの。」
「犯罪!?」
「うん。警察のデーターベースをハッキングして情報を盗んでマスコミに公開したり、ツイッターとかのスパムをしたり、とある公式サイトを乗っ取ったり、ある人は本当にIQを使った人殺しをしたり、してるの。」
「最後のIQを使った人殺しって・・・。」
「最近ニュースになってる連続殺人事件のことだよ。」
「それって犯人捕まってないんじゃ!?」
「うん。でも、もうきっと犯人捕まってるんじゃないかな。」
「どうして?」
「てか、志摩犯人知ってるのか!?」
「知ってるよ。さっきの電話犯人さんだもん。とある数学の公式にあてはめた殺人を行ってたの。ニュース見てすぐに犯人が誰かわかったもん。でも、数式に当てはめるの失敗しちゃって私に助けを求めて電話してきたってわけ。」
「・・・志摩は犯人が誰か知ってて警察に黙ってたのか?」
「・・・うん。そうだよ。“MENSA”に所属している以上の暗黙の了解ってやつなの。」
「どういう意味だよ」
俊介に実栗の言っていることは理解できなかった。
「・・・それは知らないほうがいいと思う。・・・でも、これだけは言っとく。私は犯罪には手を染めていない。これは本当よ。」
実栗はしっかりと俊介たちを見て言った。
「分かったよ。」
「今まで黙っててごめん。話さなきゃって思ってたんだけど、できなくて。」
「いいよ。私たちは実栗ちゃんが話してくれてうれしいから。」
「私一人だけみんなと科も違うし、3人仲がいいし、と思っててすごく話しにくかったのは事実なの。」
俊介は思った。たとえ、どんなに天才であっても、頭が良くても・・・やっぱり同い年の女の子なんだ。それだけのことで実栗を疑っていた自分が少し恥ずかしくなって静かに笑った。