古賀峯一に憑依しました
「古賀長官、ソロモン方面の部隊は全てラバウルに撤退しました」
「ニューギニア方面もかな?」
「はい、陸さんも素直にラバウルに撤退してくれました」
「宜しい。ラバウルの部隊は以後、ラバウルに留まりアメリカの侵攻を防げと伝えてくれ」
「分かりました」
新たに新設された日吉のGF司令部でGF司令長官の古賀峯一はそう指示を出していた。
「しかし……守勢ですなぁ」
「それは仕方あるまい山口参謀長。山本さんが無茶な航空消耗戦を展開したんだ。これからは守勢だよ」
古賀はGF参謀長の山口多聞にそう告げた。時に昭和十八年六月の事である。
(全く……気付けば古賀峯一に憑依していたなんて信じられんよ……)
「どうしました長官?」
「いやなに、山口参謀長がミッドウェーから生き残ってくれて助かったよ」
「古賀長官の言葉のおかげですよ。『機体や艦船は直ぐに生産出来るが優秀な人材は直ぐには生産出来ない』この言葉を覚えていたから飛龍と共に帰れたのです」
「……そうか」
古賀は一瞬、目が潤んだが直ぐに表情を切り替えた。
「なら次はマリアナ方面に兵力を輸送しよう」
「陸さんの松輸送ですな」
そして二人は艦艇の編成に入った。
古賀峯一は史実では戦死した山本五十六の後釜としてGF司令長官に就任した。しかし、彼が就任しても戦局はひっくり返る事はなく、ろ号作戦等を指揮してダバオへ移動中に行方不明となり殉職してしまう。
しかし、この古賀峯一の魂には未来の日本人が憑依していた。彼の名は古賀雅樹、ミリオタであるが気付けば古賀峯一に憑依していたのだ。しかも憑依年次は1936年と運命の大東亜戦争が始まる五年前だ。
雅樹は運命に抗おうとして史実日本を救うためにあらゆる行動に出た。その主な例が海上護衛総隊の設立や部品の規格統一、パイロットの育成、ボフォース四十ミリの生産であった。
古賀は色々と圧力の壁等に悩まされつつあったが山本五十六等の力を借りて史実日本を回避するために奮闘した。
古賀自身の最大の戦果は海上護衛総隊の設立と山口多聞の生還だった。
初期の海上護衛総隊は史実通りの旧式艦艇であった。初代司令長官になった古賀は伊号潜と共同演習をしたり爆雷や探信儀、水中聴音機の更新を急がせた。そのおかげで史実の三式水中探信儀や三式爆雷投射機、四式水中聴音機が昭和十七年八月までに完成されて海防艦や駆逐艦に配備され始めた。
そして山口多聞と飛龍の生還である。憑依していた未来日本人の古賀は闘魂の山口多聞をむざむざミッドウェーで戦死させるわけにはいかなかった。
開戦前等に暇があれば山口の元へ赴き、無駄死にする事は許されない等を話していた。
不審に思った山口はある日に「何故、私にそう話すのですか?」と尋ねると古賀は苦笑しながら「お前は先走って直ぐに死にそうだから」と答えた。
山口もその言葉に少々ムッとしたが、ミッドウェー海戦の時にそれを思い出したと後に古賀にそう語った。
史実通り被弾して炎上する三空母を尻目に山口は航空戦の指揮を取ろうとしたが、古賀の言葉を思い出し三空母の救助及び防空戦を展開する事にしたのだ。
伊藤首席参謀達は山口の変わりように驚いたが直ぐに職務を遂行するために動いた。
結果として三空母は喪失したが、飛龍は防空戦を展開して無傷で生還する事が出来たのである。
この動きに史実の四空母喪失と山口多聞の戦死は免れた。だが、その後の展開は史実通りであった。幾ら古賀が奮闘しても海上護衛総隊司令長官では権限に限りがあった。それでも航空本部長の塚原二四三と共に零戦の改良型や新型戦闘機の開発(紫電改)を急がせた。
零戦は史実の金星エンジンを搭載した五四型が昭和十八年一月にラバウルに投入された。新型戦闘機の紫電改も中翼ではなく初めから低翼の二一型が昭和十八年八月に投入される予定である。
古賀の活躍はやがて陸軍にも手を伸ばした。それが新型中戦車の開発である。
古賀が覚えている限りの各国の戦車性能を陸軍に伝えて四式中戦車や三式中戦車の開発が早まったのは言うまでもない。
「米軍は何処に来ますかな?」
「恐らくはラバウルを攻めると思うがこれはマッカーサーの陸軍だろう。海軍の奴等ならマーシャル諸島を攻略、トラックを攻撃してマリアナ諸島を狙うだろうな」
「それならば……」
「大本営も色々してるが絶対国防圏を策定中らしい」
「絶対国防圏ですか?」
「あぁ」
古賀はそう言って地図に史実通りの絶対国防圏を描く。
「マーシャル諸島は絶対国防圏に含まない。直ぐに撤退して部隊をマリアナやパラオに送るのが先決だな」
「ならば急ぎませんと……」
「分かっている。それにサイパンやテニアン、沖縄の要塞化を急がねばならん」
「サイパンやテニアンは分かりますが沖縄もですか?」
「沖縄は南方戦線の重要地点だ。内地と南方を切り離すなら沖縄を攻めるのも一理ある」
「成る程……我々の仕事は多いですね」
「そうだ。い号作戦で消耗した航空戦力を回復せねばならんよ」
古賀と山口の苦悩はまだまだ始まったばかりであった。
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