表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

桐生峻1.

「す、すいませんでした!」

「そんなに気にしないでいいよ。ね、峻くん」

 何度目かになる謝罪と共に楓が頭を下げる。一方、謝罪を受けた側の董子は特に気にした様子もない。

「あぁ、俺も気にしてないよ」

 董子に促された峻も同じように答えた。

「ホントに申し訳ないです……」

 しかし本人はまだ納得していないようだ。そんな楓を見て峻は苦笑しながら近づくと、楓の頭にポンと手を乗せた。

「気にしなくていいって。それより仕事中だぞ。一応お客さんもいるんだからちゃんと前向いてくれ」

 そう後輩に言い聞かせる。責任感が強そうな楓のことだ。こういう言い方をすれば頭を上げないわけにはいかないだろう。そういう打算を峻は持っていた。

「……あれ?」

 しかし、楓は峻の思惑とは裏腹に顔を上げることなくうつむいたままだ。

(おかしいな)

 そう思って楓の様子をもっと詳しく見ようとした時、横から伸びてきた手が峻の残った手の甲をつまんだ。

「いてててて」

 つままれた痛みに顔をしかめながら振り向くと、そこには頬を少し膨らませた董子がジト目で峻のことを見ていた。

「と、董子?」

「またそういうことして」

「またってどういうことだよ?」

「さぁ? 自分の胸に聞いてみてください」

「???」

 さっぱり訳が分からず、峻は思わず楓の方に視線を向ける。視線の先の楓はすでに顔を上げていた。しかしその顔は頬が赤く染まっていた。

「葛城さん、熱ある?」

「…………」

 返事はない。代わりに後ろで董子のため息が聞こえる。

 楓は少しの間峻のことを睨んだ後で、

「……先輩、謝った方がいいです」

「謝る? なんで?」

「それは……じ、自分の胸に聞いてください」

「ホントに訳が分からん」

 ものすごく困った顔をしている峻を傍目に董子が楓を見た。

「そういえば葛城さんが彼女と勘違いした人って誰なんだろ?」

 董子の素朴な疑問に楓がうっと後じさる。

「その人名前言ってた?」

「えっと……」

 楓は少し言葉に詰まった後で、

「いえ、名前は聞いてないです。……ただ先輩のことを知ってる風だったので私が勘違いしちゃって」

「あぁ、別にいいの。ちょっと気になっただけだから。うん、この話はもうおしまいね」

 楓がまた謝り出しそうになったので、董子は慌てて話を打ち切った。そして、手元のアイスミルクティーをおいしそうに飲む。

 店内に久しぶりの静寂が訪れた。

(……で、結局俺はなんで謝らなくちゃならないんだ?)

 その中で峻は釈然としないものを胸中に抱えたまま、ふきあげたコップを棚に戻すことにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ