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そのままいつもの生徒会役員特別席にでも向かうかと思いきや、どうやら椿木を見つけたらしい会計がこちらを指差してやってくる。



「あ~~ワザワザ来なくて良いんだってのに」

清太郎がうんざりとした表情で呟く。

「うーん、ゴメン」

「椿木君が謝ることじゃないし。ていうか、リコール申請者と被申請者って意図的に会ったら不味いはずなんだけどなぁ…」

ポチポチとどこかに携帯でメールを打ちながら、ジョージもやれやれとため息をつく。

「んなの、あいつ等が知ってると思うか?」

「だよね」

よし、と呟いて送信終わった携帯をぱちんと閉じる。

その頃には役員プラス黒もじゃがすぐ側にやってきていた。



久しぶりに見る黒もじゃは、やっぱり黒もじゃだった。

編入してから一月以上も過ぎているのにもかかわらず、クラスメイトの椿木ですらその姿を見るのが片手で足りるくらいのレアモノ。


その背後に会長と副会長を従えてる姿は珍妙としか言いようがない。


周囲がこちらに注目しているのを知ってか知らずか興味がないか、つかつかと近づいてきてテーブルに手を置く。


「なぁ、お前が椿木なんだって?聞いたぞ、邪魔するから皆が仕事できなくて困ってしまって、仕方なくリコールする事にしたんだって!みんなに迷惑かけるなんて、最低なんだぞ!」



開口一番の大声である。

清太郎がその大声に眉をひそめ、ジョージがさりげなくまだ残っている食事を黒もじゃの唾攻撃から隠す。

椿木は黙ってその顔を見上げた。



「黙ってたら分からないだろ!」



口を開こうとしない椿木の態度に、両手をバンバンとテーブルをたたきつけた。

背後では腕を組んで椿木達を見下ろす役員達が険しい表情で立っている。

椿木はなお黙ったままゆっくりとその役員達の顔を一人ひとり見回した。

なりたくてなったわけではない生徒会役員だが、そこそこ仲良くできたと思ったのは思い込みだったのか。


不愉快、蔑視という負の感情しか浮かべない役員達に、ため息を落としそうになって何とか飲み込む。



「おい!」



すっと手を伸ばしてきた黒もじゃ…つい先ほどようやく名前を知ったクラスメイト、蝶徳寺雅に顔を向けて、しかし黙ったまま伸ばされた手から逃れるように身体を反らした。

しかし所詮は椅子に座ったままだったのでガシっと肩を掴まれた。


思いのほか強い握力に思わず眉根がきつく寄る。




「そこ、何をやっている!!」



なおもなにか喚こうとした雅の口から音が洩れる前に、食堂の入り口から風紀が走ってやってくる。


「何もしてねえよ」


「お前ら、椿木のリコール請求しただろう。投票まで故意の接触は禁止されている」

「…別に私達は何もしませんし、私達だって食事するんですから、食堂で会うのは偶然ですよ」


「会うのはな。だがいつもは真っ直ぐ役員席に行くのに、わざわざ先来た椿木の居るところに来たのは故意と疑われて仕方がないぞ」


「先に来たとは限らないでしょう」

ぬけぬけとそんな事を言う副会長に、周りの生徒もさすがにあきれ顔だ。


「どうみたって、これから食事のオマエラと、席について食事中のこいつらを見ればスグ分かる。これ以上何だかんだ屁理屈捏ねて風紀に逆らうなら、風紀権限で故意の接触により規定違反でリコール請求自体を無効にするぞ、コラ」

「なんだよ、それ。悪いのはこいつだろ?!」

「そうですよ。それは風紀の横暴でしょう」

「横暴だろうが、風紀委員にはその権限があるのを忘れるな」



「…行くぞ」

「行きましょう、雅」

「雅、向う行こ?」





「委員長、とりあえず椿木は一言も話してませんし、席から動いてません」

苦々しげに去っていく役員達を見ていた佐野に、今までひっそりと様子を見ていたらしい風紀委員が手を上げて報告する。

「あぁ、わかった。……みんな騒がせたな」

佐野が報告に頷いて、周囲で食事をしていた学生に一言告げる。

「お騒がせしました」

椿木も立ち上がって頭を下げる。



「食事は終わったのか」

チラリとテーブルの上を確認する。

「まぁ大体」

「まだ少し残ってるけどもういいかな、なんか一気に食欲うせちゃった」

ジョージもドリアを食べていたスプーンを置いて立ち上がった。

冷めてしまったドリア、しかも黒モジャの唾入り(かもしれない)では食欲も失せるというものだ。




清太郎と三人で席を立って出口に向かうと、途中でぽん、ぽんと食事を摂っていた生徒達から身体を叩かれる。

それはごく軽くで、気にするなよといってくれているようで椿木も薄っすらと笑みを浮かべた。



「ちょっと待って、いまのお尻触ったのはセクハラだから!」

ドサクサ紛れで尻を撫でられたが、ジョージがそれを目ざとく見つけて風紀に突き出した。


なんの効果か、その時にキラリとメガネが光ってひどく…サディスティックだった。

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