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リコール請求が起きようとも教師はそれについて余計な事をいう事もなく、授業は平和に進んだ。
特に今月末には定期考査があるので、Sクラスの生徒たちは真面目に授業に取り組む。
例外は一人。相変わらず編入生は出席していない。
と、ここで椿木はその人物の名前を知らない事に気が付いた。
4時限目が終わって食堂に向かいながら、椿木はそう清太郎に言った。
「うん、ある意味さすが椿木だ」
「興味ないのはまるっと無視だもんね~」
ジョージも苦笑しながら、「蝶徳寺雅」だという名前を教える。
「なんか、ゴージャス?」
画数が多くて書くのが面倒だな、というのが正直な感想だったが、そこは耐える。
「いちおう貴蝶グループの一員らしいけど」
ジョージがいったん言葉を切って、
「グループでも持て余してるみたいだね」
コソリ、と声を低めて耳打ちする。
貴蝶グループというのは、日本だけでなく国際競争力にも優れた優良企業だ。
学園内にもそのグループの生徒が幾人か在籍している。苗字に「蝶」の字が入るからすぐにわかる。
他にも親がグループ企業の重役だという生徒も含めれば、学園内でも一勢力作れるだろう。
もっとも、肝心の「蝶」達は、そんな面倒くさい事をしたくないと思っているので、面だって学園内は派閥争いなど恐ろしい事もなくいたって平和なものだった。
「ふうん…」
興味なさげに相槌を打ちながら、椿木は手元のメニューをガン見している。
一日3回しかない食事である。
最近は生徒会の仕事で缶詰しっぱなしだったので夕食は軽く済ませることが多く、自然と一日で一番豪華な食事は昼食になる。
そのせっかくの昼食はじっくりと決めたい。
「うーん、回鍋肉か青椒肉絲か…」
「今日は中華なの?」
さっさとエビドリアを頼んだジョージが椿木の呟きを耳にしてたずねる。
「うん?いや、疲れたから味が濃いのが欲しいのと、最近はパンとか多いから米が食べたい」
「…疲れたら甘いモノじゃなくて?」
「甘いの好きじゃないからな」
「うん、疲れたら漬物が食べたい人。よし、今日は回鍋肉にしよう!」
隣を見れば清太郎は半チャンラーメン餃子付きを頼んでいたらしく、ウェイターが来て清太郎の前に並べていく。
優雅な黒服が定食屋風のラーメン丼を運ぶ、違和感。
それにも慣れてしまった。
「清太郎、伸びるから先食べていいよ」
頼むのが遅かった椿木や、しっかりとオーブンで焼くドリア待ちのジョージに合わせて待っていたら、せっかくの麺が伸びてしまう。
ラーメンは伸びる前に、熱いのを啜ってこそだと思う。
「悪い、先に頂いてる」
パチンと割り箸を割ってズズッと啜り始める。
「人が食べてるのみると、ラーメンもおいしそうだよね。メガネ曇るけど」
豪快に啜る清太郎を見ながらジョージが呟く。
「…明日は味噌タンメンにしよう」
「味噌かぁ。椿木君は…酢入れる派?」
「半分はそのまま、残り半分になったら酢を入れる。一杯で二度美味しい派」
その為大盛りを頼む椿木である。
「ユウは酢入れるよな。俺はキムチとバタートッピング派」
「あっ、バターは美味いよね!オレはバターに、コーン増量!」
なんて話しているうちに二人の注文した料理も届いて、それぞれ食べ始める。
「あ~失敗。味噌ラーメンの話をしちゃったから、舌がホワイトソースじゃなくて味噌味をもとめちゃってるよ」
熱々のエビドリアを食べながらジョージが苦笑する。
周囲から好奇の目が向けられているのは感じていたが、三人とも気にしない。
もう椿木が生徒会に選ばれた時から多かれ少なかれ、そういう視線は向けられていたから今更だ。
それでも、出入り口付近がザワザワし始めると流石に顔を合わせて眉を寄せた。
「面倒くさいのが来たか?」
おそらく生徒会役員が食堂にあわられたのだろう。
「どうせ授業サボってんだから、空いてる時間にくりゃ良いのに」
「違うでしょ、彼らは注目を浴びるのが好きなんだから、誰も居ないところに現れるわけナイんだって」
「ナルホド」
軽口をたたきながら、昼食を口に運ぶ動きが速くなる。
さっさと食べて絡まれる前にとっと退散したい。
チラリと視線を向ければ、やはり会長達生徒会役員で、キラキラしい中にこんもりと黒い森が存在する。
あれが黒もじゃだ。