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「で、今日はお二人揃って見えた用事はなんでしょうか。そろそろ、リコールでも?」

おそらくそれしかないだろうとは思うが、一応確認してみる。


佐野からその話を聞いてからしばらくたつ。

そろそろ仕事が回らなくなって、生徒会が機能不全に陥っていることは一般の生徒たちも気がつき始めているだろう。

申請したはずの部活の購入願いなど、何時までたっても許可が下りない。


さすがに対外試合やインハイ出場など重要なものは、生徒会顧問を通じて各部顧問教師に任せてあるが、それも一時的なものだ。

新しい年度になって、これから様々な学園行事が目白押しだというのに、それを回していくべき役員が不在ではどうしようもない。公的手続きなどの補助をすることはできても、企画するのは生徒会でなければならない。

もともと生徒会自治こそが学園の基本なのだから。




「ああ、先週会長が書記のリコール申請書を出してきやがった」

「そうですか」

苦々しそうに告げる佐野に対して、椿木はあっさりと頷く。

「つばきっちゃん、このまま黙ってリコールされるちゃうつもり?」


椿木があまりにも平然としているからか、流石に江藤が眉をひそめてきく。

この一月以上、仕事を放棄した生徒会役員のなかで一人頑張ってきたのは椿木だ。

風紀や、生徒会に直接係る各委員会の委員長や部長達はそのことを良く知っている。

知っているのに、そんな冤罪みたいなこと許せるわけがない。

しかし会長達が何を考えているかわからない。



「で、先輩達はそれ受理したんですか?」

「保留だ」


本当は却下したいところだ。

正当な理由なくリコールなんて認めるわけにいかない。


だが椿木は飄々とした態度のまま。

「受理してください」

「いいのか?」

「僕もちょっと、いい加減腹に据えかねるものがあるのですから」



この学園ではリコールは表立った手続きを踏む必要がある。

リコール投票だ。

選挙と同じように公示をし、誰をどんな理由でリコールしたいのか全校生徒に知らしめる。

それに納得し、同意するものが投票においてリコール票をいれる。

全校生徒の3分の2以上の同意を必要とするため成立することは難しいが、リコールを公示されること自体異例のことで恥かしい事であり、家柄や体面を気にするボンボンに汚点をつけるには十分である。


この公示を行うためには生徒会役員または風紀委員の申請か、全校生徒の2分の1の署名があれば公示を行える。

2分の1というのも、ただ闇雲にリコール投票を行えば、本人に非がないのに嫌がらせのためのリコールを行おうとするものが居ないとも限らないという理由だ。どちらにしても3分の2以上の有効票が必要なので、それ位の署名は必須というわけだ。



公示というからには当然リコールされる本人もリコールされることを知るわけで、もちろん選挙で本人が演説するように、弁明の機会を与えられる。


言いがかりや誹謗中傷による事実無根な場合、公示理由に対して正統な反論の機会を与えなければいけない、という公正を規するためだ。



一部に「王道学園」と呼ばれながらも王道になりきれない正常さがこの学園にはあった。



「まぁ、非は完全に向こうにあるから、リコール返しの証拠は山のくらいあるけどよ」

反論の機会が与えられるという事は、逆にリコールを申請した人物にとっても諸刃の剣となりえる。

リコール請求理由が不当であれば、それを請求した人物に対して風当たりが強くなる。


目の前の人物たちは当然リコール請求理由を知っているが、それは当然守秘義務があるので、たとえ旧知の中でもそれを告げることはない。

しかし、どんな理由をつけてリコールを請求するのかは、公示されればすぐにわかる。



「明日にも公示でお願いします。こっちもすぐ証拠集めますから」


公示後10日以内にリコール請求された人物は風紀に出頭、反リコールのための説明を受け、いつ反論のための集会を開くか等決めることになる。

反論のための資料集めには風紀から5名以内の人員を借り出せる、という規定もあるので、多勢に無勢になったり一方的に不利になるという事もない。



「ほんと、ヤなくらいに制度が整ってるよね」

「セレブが多いから、小さなコミュニティ、社会の縮図って事なんでしょうけど」

「……そういう事がないような教育をこそして欲しい、と学校側に願うのはムダな事なのだろうか…」



切実な風紀委員長の願いが生徒会室に落ちた。

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