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前年度のSクラス代表は貴蝶グループの蝶名林であったため何も思わなかったが、椿木のように一般家庭で育った生徒と同列に扱われることに対して、無意識のうちに不満に感じていたのだろう。

なんの根拠もない特権意識が次第に反感となってしまったのだ。


だが、それでは数年前と同じ轍だ。



「正直、親の威を借りるだけの七光りなんてどうでもいいんですよ」

生徒会顧問に続き蝶名林達二人の登場に、しばらく呆然としていた椿木だったが、ようやく口を開く。

「SクラスにはSクラスの矜持があります。ですから、べつに生徒会役員特権なんてなくても全然構わないんですよ。っていうか、逆に勉強に集中できるしかえって役員なんて辞めたいくらいですね」


椿木の言葉に蝶名林も頷く。


「まったくこれ以上Sクラスの授業のじゃまをするなら、理事会に報告するぞ」



理事会、という事は学園長をも飛び越えての絶対的な権力だ。



「お…俺達を退学にでもするっていうのか?」


理事会まで引っ張り出してくるとなれば、さすがに桜木たちの声も震える。

すでに家には報告済みでありそれを了承されたという事は、ただでさえ跡継ぎとして不利な状況であるというのに、退学となれば最悪「絶縁」という言葉も頭をよぎる。



「排除してもらうだけだよ」

慌てた様子の桜木たちを白い目で見ながら蝶間もいう。

今更そんなに慌てるくらいなら、最初から真面目にしておけば良かったのに、バカな面々だ。

「その結果が退学でもクラス落ちでも留年でも、別にどうでもいい。邪魔さえされなければ」



大企業の社長令息などそれこそこの学園では掃いて捨てるほどいる。

だが、東大主席合格など目指せる頭脳の持ち主はそういないのだ。

学園側としては喉から手が出るほど欲しい人材を、バカなお坊ちゃまによって追い出されては非常に困る。




「さて、反論集会は以上で終了します。会長、副会長、会計、それから蝶徳寺君は、このまま一緒に学園長室に来てもらいます理事長から直接話があるそうですから」


何とも言えない空気が漂う中、古森先生がパンパンと手を叩いて閉会を告げる。



スッキリしない空気だが投票も終了して、結果も出た。

佐野が手を挙げて扉を開けるように指示をすると、待機していた風紀の係がそれぞれの扉を解放した。


人工的だった明るさのなかに、外から太陽の光が差し込む。




躊躇いがちに出入り口付近に座っていた生徒達が立ち上がって外に出始める。





外に出れば、講堂の中であった騒動が嘘のように青い空。

夏が近い。



「なんか…なんだったんだろうね?」


外に出た生徒がぽつりと呟いた。

まるで夢の中にいたかのように、講堂であったことの現実味が薄い。


「わかんない。けど、最近どっかヘンだったのが戻るのかな」

蝶徳寺が現れてからというもの、学園の雰囲気はどこかおかしくなっていた。

親衛隊にも属さない一般の生徒であっても、その微妙な緊張感を感じ取ってはいたのだが、今日のこれでまた元ののんびりとした雰囲気に戻るのだろうか。


良くも悪くもお坊ちゃま学校である。


中等部から通う、この学園独特の雰囲気が好きだった。


「だと良いな」

「ね」


クラスメートたちとそんな話をしながら寮へ蹴る道すがら、そんな話を交し合う生徒達の姿が見られた。

一方。

ぞろぞろと歩き出す一行の中で、白けた表情を隠さないのがSクラスの生徒だ。


「はぁ…あんなのが次の社長だなんて、あそこの会社ももう終わりだね」

「そこから誘い来てたんだけど、断ったほうが無難だな」


学園の偏差値を底上げするためのSクラス生徒だが、そのほとんどは一般家庭出身者だ。

卒業後は系列の大学や有名大学に進学し、やがて社会人となる。

その金の卵ともいうべき人材を獲得しようと、高校在学中から声をかけてくる企業も多い。


Sクラスに在籍する生徒達はそのことをよく知っている。

だからこそ将来のために勉学に勤しむし、生活態度にも気を使う。


そして、また自分にその価値があることを知っているからこそ、逆に将来自分の上司になるだろう、その企業の跡継ぎたちを見る目は冷静で、ある意味冷ややかだ。



「佐野んとこか、蝶名林先輩のトコなら間違いなさそうだな」

「けど、佐野って職種的に理系じゃん。オレどうしようかなぁ」

「海外進出狙ってるんだし、渉外担当とかどうよ」

「うーん、司法試験受けて法務担当とか、かな」

「そういや、蝶間のトコ、新規事業立ち上げるとかいう話」

「これから大学でてだろ、間に合うかな」


「ま、SAKURAGIは選択肢から消えたって感じだけど」

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