小説
里帰り、それは現在と過去を繋ぐ大きなイベント。そこで感じたこと、考えたことが明日来る「今日」につながると考え、このシリーズをコンセプトが同じ『花鳥風月』の特別篇として構成することとしたのです。
全十回のシリーズです。短期集中連載を心がけます。
小説
私は小説を読まない。学校にいっていた頃は嫌というほどたくさん、ありとあらゆるジャンルの本を読んでいたため、読まなくなったきっかけは解らない。現在は新聞の短い記事程度なら読めるので、小説の内容がなんとなく重たく、自分の感情と合わないと思えてきたから読まなくなったのだろうか。
最近、久しぶりにきちんと一冊の小説が読めた。以前にも読んでいたので再読になるのだが、読んだ本の内容をほとんど覚えられない自分にとっては「こうだったか」という新鮮な読書だった。
宮部みゆき氏著『蒲生邸事件』。
最初にこの単行本を読んだのが小学生か中学生か、むろん二・二六事件を詳しく学んだ年齢でもなく、主人公の考察にもついていけていなかったはずだ。そのときはただとにかくこの厚い本をどのくらいで読みきるかを試していた。だから、ただ、時間旅行をできる能力者がいて主人公を二・二六事件の時代につれていく、という認識しかなかった。
再読の機会は、往復の飛行機内だった。もともと時間がかかり携帯などが常時使用できない機内では読書が常である。今回は適当な書籍として、往復で読めて一度読んだことがあるこの『蒲生邸事件』文庫版を主人から借りていた。
初見からもう十五年近く経つだろうか。往路で半分、すっかり引き込まれてしまった。
当時はピンと来なかったであろう地名や歴史用語、登場人物の考えを追う愉しさ……やはり難しいと思えるところはあれど、完全に数時間で小説の舞台に入り込んでしまった。降りる他の乗客に通路を譲り、なかなか降りて来ようとしなかったくらいだ。
とはいえ復路まで再度読む時間がとれず、離陸時間の勘違いからバタバタした復路の搭乗になってしまったため、離陸前に落ち着いて読むということはできなかった。それでも残り百ページを切る辺り、物語でいうと一番面白いところまで読むことができた。
復路の機内は往路より混んでいた。迷うことなく通路を譲り、読みふけった。
最終的に残った約七十ページは次の日に読了した。その日に読み終えてもよかったのだが、再び引き込まれた面白さを一気に失うのはもったいないと考えたからだ。やはり、日を改めて読み直すことで変化した時代に合わせた気持ちで読むことができた。
やはり、今は無理かもしれないと思っていても自分がかつて読めたものは読めるのだな、と感じた。そして、当時感じたであろう愉しさとはまた違った、しっかりした読後感を味わうことができた。やはり、学んだこと、経験したことが自分の中にあるからだろう。これからまた、初見であっても読める小説が増えるかもしれない、と思った。
ちなみに、『蒲生邸事件』初見の読破は約六時間、再読の今回は約五時間半であった。読むスピードはあまり当時と変わっていないようだが、読後感の違いは大きい。