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コーリング・エンジェル  作者: 小膳
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コーリング・エンジェル(導入1-2)

ふわり、と浮遊感に包まれた。ゆっくりと目を開くと、オレの足下には見慣れた町並が広がっていた。つまり、オレは中に浮いていることになる。

深夜ということもあり、人影はまったくない。ぽつんぽつんと建っている電柱と、真上に浮かぶ月が朧気な光を放っている。

最初は慣れなくてぎゃあぎゃあ喚いたものだったが、今ではすっかり落ち着いて対応でき・・・


「おい、のんびりしていていいのか」


隣で美少女も同じように浮いている。こいつは『ナビゲーション・エンジェル』だから、浮いていて当たり前なのだが。


「のんびりって何だよ、ミルフィ」


初めて宙に浮かんだ時の事を思い出し、感傷に浸っていたのだが美少女--ミルフィの一言で現実に引き戻された。


「マップをもう一度確認しろ」


くい、と形のよい顎を動かす。オレはしまったばかりのスマホを取り出し、マップのアイコンをタップした。すいすいと地図を動かす。


「あっれー?」


さっきあったはずの赤い丸がなくなっている。


「移動したのか」

「ぼけっとしているから、大方逃げられたのだろう」


ミルフィは呆れ果てた様子で、息をついた。


「逃げられた、ってそんな悠長な」

「だからさっさとしろ、と言っているだろう」


ミルフィとの言い合いが面倒くさくなってきたオレは、陸上のクラウチング・スタートの体勢をとるため、ぐぐっと身を屈めた。意識を足の裏に集中させる。


「よっ」


足の裏に込めたエネルギーを思い切り蹴りとばす。地上で走るときと同じように。オレの体はぐんと加速した。地上と違うのは、足を交互に動かさなくても惰性である程度の距離までは移動できるところだ。速度がやや落ちてきたところで、目の前に手頃な電柱を見つけた。


「はっ」


もう片方の足で電柱の上に止まり、もう一度足の裏に意識を集中させ、蹴り飛ばした。空中よりも何か支えになるものがあった方が、遙かに速度が増す。例え、それが電柱であっても。何度かその動作を繰り返し、オレは当初の目的地であったコンビニの上空にたどり着いた。

オレとほぼ同着。ミルフィも同じ場所にいた。まあ、コイツはオレのように何度も電柱を蹴るような真似はしないが。


「さっきはこの辺にいたんだよな。まだ遠いところには行ってないはず」


周りを見渡す。幸いなことに高い建物が少ないため、見通しは限りなくよい。


「地図上の表示はどうなっている」


オレはスマホの画面をミルフィに見せた。ミルフィが近寄ってきて、画面を覗き込む。


「・・・待てよ」


オレは地図をピンチアウトした。画面が拡大され、密集した家が五、六軒映る程度の広さになった。


「なんだこれ!?」


赤い丸は消えていなかった。縮小された地図では見えないほど小さな丸になって散らばっていたのだ。画面を拡大したことにより、その小さな丸も視認できるようになったのだが。


「1、2、3・・・おいおい、いくつあるんだよ」

「まともに数えてる場合か!」


ミルフィが後ろを振り返る。そこには。

手のひら大の小さな白い球が浮いていた。その数が徐々に増えていく。


「あれもエビルなんだよな」


オレはミルフィに聞いた。こんなタイプは見たことがない・・・ってか、リストに載っていないのだから、未確認エビルであることは間違いない。


「ふんふん、この匂いは・・・」


ミルフィが鼻をならす。匂いでかぎ分けるって、犬みたいだな。


「分かった!こいつらは『エビル・マシュマロ』だ!」


大声でエビルの名を告げる。その声に気づいたのか、小さな球がオレたちの周りに集まってきた。


「ええーオレ、マシュマロ嫌いなんだよ・・・」

「贅沢言ってる場合か、早く倒さないと大変なことになるぞ」

「大変ってなんだ・・・」


もったいぶらずに教えろよ、と言おうとするオレの言葉を遮って、ひゅん、とマシュマロがオレの頬を掠めた。


「うっは!」


反射的に頬を触る。じんじんと熱を持っている。これ、まともに当たったら相当痛いんじゃね?

その特効が契機となったのか、残りのマシュマロがオレたちめがけて飛んできた。


「ちょ、ちょ、ちょっと待てやこらああああ!」


視界に入る範囲内から飛んでくるマシュマロは、右に左に避けることができる。しかし。


「いってえ!」


すこーん、と小気味のいい音がして。どうやら後ろから飛んできたらしいマシュマロが、オレの頭にクリーンヒットした。


「てかマシュマロって柔らかいんじゃなかったのか!こんな固いの売り物になんねえだろ!?」

「まあ敵もさるものだな。品種改良しているらしい」


怒鳴り散らすオレを冷静に諫めるミルフィ。コイツ、敵なのか味方なのか、分からなくなってきた。


「もう怒ったぞ」


丸腰だったオレは、一連の動作でスマホを操り、獲物を捕りだした。一振りの長剣、『サル・シフォン』だ。

いつものように正面上段に構えそのまま体を90度回転させ、顔だけをエビルに向ける。まるで、バッターボックスに立った打者のように。


「こいやあ!」


オレは吠えた。

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