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コーリング・エンジェル  作者: 小膳
1/11

コーリング・エンジェル(導入1-1)

ぐっすりと眠り込んでいるところに。枕元に置いてあるスマホが着信音を奏で始めた。荘厳なオーケストラの調べがオレを深い沼から引きずり上げる。薄く目を開ける。部屋の中は真っ暗だ。まだ朝になっていないようだ。見上げた天井では、着信中を表すライトが映し出され、きらきらと星をちりばめたようにささやかな天体ショーが展開されている。

着信音は鳴り続けている。クラシックに縁のないオレには、この着信音が何という曲なのか、さっぱり見当がつかなかった。後で、ワーグナーという作曲家の「ワルキューレ騎行曲」だと教わった。隣の部屋に聞こえないよう配慮して、音量は最小にしてある。そんなわずかな音量でも気づいて起きるのには訳がある。

スマホを手にとって時間を確認する。ディスプレイの光がまぶしい。オレは顔をしかめながら凝視する。午前2時。布団に入ってから2時間程しか経っていない。布団に潜り込みたくなる気持ちをこらえ、オレは寝返りを打った。


「ったく、勘弁してくれよ」


オレは軽く毒づいた。とにかく着信音を止めなければ。ぶつぶつ言いながらも画面をフリックし--この操作に慣れるまでに多少時間がかかった--スマホの画面を開く。ディスプレイの中央では白い翼が点滅していた。オレは息をつき、その翼をタップする。

こんな時間に電話をかけてくる相手は一人しかいない。そして、この電話にかけてくる相手も一人しかいない。


「もしもし?」


うつ伏せになった状態のまま、画面に向かって話しかける。白い翼がぱっと散り、中央に現れたのは金髪碧眼の美少女だった。白い肌が、ディスプレイを通してよりいっそう眩しく感じられる。加えて部屋が真っ暗なままだから、そのコントラストはなお激しい。


「おお、10秒以内に出たな。感心感心」


とても可愛らしい声で、憎まれ口をたたく。顔しか映されていないというのに、画面の向こうでは腕を組んで偉そうに頷いているのが、手に取るように分かる。


「出ねーとどんどん着信音が大きくなるんだろ。そりゃ出るわ」


真夜中でなければ、大声で怒鳴りつけているところだ。慣れないスマホをいじりつづけ、ようやく音量を小さくする方法は見つけたのに、徐々に大きくなる音量を解除する方法はまだ見つけていない。残念ながら。


「喜べ。出動のチャンスだ」


オレの嫌みを物ともせず、美少女は話を続けた。


「こんな深夜じゃなけりゃ、もっと嬉しいんですがねえ」


普段は寝起きのいいオレも、レム睡眠まっただ中で起こされたので、少々機嫌が悪い。嫌みの一つや二つ、言いたくなってしまう。


「ほほー。それは悪いことをしたな。では今回の話は無かったことに・・・」

「ああーすみませんでしたあ!」


俺は布団を跳ね上げ、上半身をおこした。スマホに向かって土下座せんばかりの勢いで、頭を下げる。コイツの機嫌を損ねてしまっては元も子もない。


「分かればよろしい」


美少女はにやりと笑った。くっそ、完全にこっちの足下見てやがる・・・!


「さっさとしろ」

「はいはーい、分かりましたあ」

「はい、は一回でよろしい」

「・・・はい」


体内で沸き上がる怒りをこらえ、オレは画面下にあるアイコンをタップする。ディスプレイから美少女の姿が消えて。

先ほどの天体ショーとは比べものにならないほど部屋の中が眩しく光り、その光が消えた後に現れたのは。

ついさっきまで画面の中にいた美少女だった。画面から抜け出した、と表現したほうが正しいかもしれない。

美少女は立って並ぶとオレの肩ほどまでしか身長がない。金髪はゆたかにうねり、腰のあたりまである。華奢な体を深い緑のワンピースに包み、肩と胸は西洋ファンタジーゲームに出てきそうな白銀の甲冑で覆っている。背中からは白い大きな翼が生えており、床から10cmほど浮いたところで静止した。


「操作にも随分慣れたようだな」

「お陰様で」

「結構なことだ」


着信から彼女を呼び出すまでの時間が大幅に短縮されたことを受け、美少女は満足げに頷いた。オレが想像したとおり、腕を組んでいる。


「んで、今日はどこに沸いてるんだ?」


聞きながらオレはスマホを操作し、地図のアイコンをタップした。画面が展開して、オレが住んでいる町の地図が表示された。ちょうどオレの住所のところに、青い丸と白い翼のマークが表示されている。


「こっちだ」


美少女はすすっと地図をフリックする。地図が動いて、オレの家の--正確にはアパートだが--南東の方角に赤い丸が点滅しているのが確認できた。


「あのコンビニの辺りか」

「そのようだな」


赤い丸をタップする。噴き出しが表示されたが、その中身は『?』マークだった。


「初遭遇のエビルなんだな」

「ああ。事前情報が無いからな。準備を怠るなよ」

「それをサポートするのがナビゲーション・エンジェルさんの役目じゃないんですかね?」


今度は嫌味をスルーせず、ぎろりとオレを睨みつける。おー怖っ。


「さっさと準備を・・・」

「分かりましたって」


オレは地図をいったん閉じ、他のアイコンをタップする。画面が展開してリストが表示される。『ビギナーズ・ウェア』と表示されたアイコンをタップ。アイコンがグレーアウトして、オレの体の周りがふわっと光る。

パジャマ代わりに着ているスウェットが消え、紺色に金の縁取りのジャケット、白のシャツ、同じく紺色に金のラインが入ったズボンを、身に着けた状態になった。


「そろそろ新しい服がほしいな」

「なら、こつこつ『スウィーツ』を貯めることだ」


お前の見た目なんぞに興味はない、といった趣向で美少女が言った。やや呆れたような顔をしている。


「見た目は大事だぞー。モチベーションアップになるからなー」

「お前ごときが服装を変えたところで、急に強くなる訳でもなかろう」

「ぐっ」


痛いところを突かれて思わず口ごもる。確かに強くなりたいのであれば、見た目よりも装備に気を配った方が確実だ。

そう。普通の『ゲーム』であれば。


「準備は完了、ということでいいな」

「ちょ、ちょっと待てよ」


オレは慌ててリストを閉じ、別のアイコンをタップする。剣のアイコンがあるのを確認して、スマホを胸のポケットに入れた。


「OK。何でもこいやあ!」


深夜なので比較的小さな声で気合いを入れる。


「凶悪なエビルだと腕が鳴るな」

「・・・できるだけ控えめにお願いします」


何度も出動しているが、未知に対する不安は払拭しきれるものではない。オレは何度か深呼吸して気持ちを落ち着けた。

オレの一連の動作を準備完了の合図と受け取ったのか、美少女はまたにやりと笑った。


「仕方のないやつだ。せいぜい祈っておくことだな。では行くぞ--『コーリング・エンジェル』!」

久しぶりの投稿です。久しぶりすぎて、サイトの使い方を忘れていたり・・・orz マイペースに更新していく予定です。どうぞよろしくお願いします^^

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