契約
誤字脱字、意味不明な表現ありますがご了承ください。
それと、一ヶ月に最低1回は投稿するつもりです。
「そのかわり・・・やっぱり貴方を食べさせてさね!」
クリルは仙人の胸に飛び込み、首元を軽く舐め、牙を突き立てた。
仙人の体は驚きと恐怖で一気に硬直した。
仙人は
「クックリルさん!?一体何を仰っているのですか!?」
「貴方が生きたいなら私に食べられろって言ってるさね。」
クリルは牙を首元に突き付けたまま答える。
このままでは返答を待たずに食べられてしまいそうなので、仙人は必死に打開策を考える。クリルはそんな事お構いなしに首から耳まで舐めながら伝い、耳元で囁くように、
「何も別に貴方が死ぬまで食べたりしないさね。それじゃぁボディーガードはできないからね。ただちょっと妖力を貰う為に少しかじる程度さね。」
そう言いながら、今度は耳を唇で軽く咥える。
いくら死なないからといって、体の一部が無くなるのは何としてでも阻止したいのだが・・・。
仙人はそれを阻止するためにあることの確認をする。
「そ、そういえばさ、クリル。さっき人を食べなくても妖力の補給はほかにいくらでもあるって言ってたよな?言ったよね!?」
「う~?まぁいくらでもあるさね。でもそれだと、こまめに妖力の補給をしないとすぐに無くなっちゃうさね。」
仙人はクリルに耳を噛み千切られないように距離を置こうと試みる、しかしクリルは仙人を逃がさないよう、腕でしっかりと押さえこみ、拘束する。
仙人は腕を引き離すことを諦め、拘束されたまま、ある提案を出す。
「そういう事ならさ、人を食べない方法で補給してくれないか?俺が入手できるものなら、なんとか調達するからさ。それだと、俺は耳なし芳一にならずに済むし、お前も文句ないだろ?」
クリルは少し考えてから
「でもそれだと、毎日貰いたいさね。」
と、満面の笑みでこたえる。
所持金の少ない仙人にとっては、結構ハードな条件だが、耳を噛み千切られるよりはマシかと譲歩し、必要なモノを聞いてみる。
「じゃぁ、その必要なモノってなんだ?それって俺でも手に入るのか?」
「妖力ってのは普通の食事からでも、回復するさね。でもそれは微々(びび)たるものなんだよ・・・う~んもっと効率良く、なおかつ仙人の体が傷つかずに済む方法は~・・・!」
仙人は(普通の食事じゃ駄目なの?)的な事を思ったのだが、クリルの反応を見る限り、満足しなさそうなので口に出さないことにする。
しばらくすると、クリルは一瞬目を見開き、
「そうだ!この方法があったさね。しかもこれは仙人の体が傷つかずに済むんだよ。体はね・・・」
傷がつかずとも今のセリフでは、確実に何かされると感じた仙人は
「おいおい、一体何するんだ!?」
「妖力もらって、なおかつ仙人の体が傷つかないやり方をするさね。」
そう言ってクリルは、魔方陣を出現させ、中から小太刀を一本取り出し、それを仙人の心臓に刺した。
「うっ!」
心臓を突き刺された仙人は小さな悲鳴をあげる。
クリルは仙人の頭を撫でながら
「どう?お花畑見えるさね?」
「みっ見えるか・・・」
クリルは小太刀をさらに深く刺し込み、遂に貫いた。だが不思議な事に痛みも、流血もない。
「刺されているのに痛みが全然ない・・・。」
「だろうね~」
クリルは髪をくるくるいじりながら
「言ったでしょう。『直接』貴方は傷つけない。これは妖力を取り出すのと同時に、私以外からはもう妖力を取り出せないようにするための手術と契約みたいなもんさね。」
クリルは小太刀を抜き出し、耳元で
「貴方言ったよね?『直接』食べないやり方なら入手できる範囲のものならくれるって。だから間接的に食べるさね。」
仙人は心臓をさすりながら
「お前、間接的って!思いっきり小太刀突き刺してんじゃねえか!」
「別に体そのものに損傷はないから問題はないさね。間接的さね。」
クリルはそう言いながら、仙人を突き刺した小太刀の刀身を口に入れる。刀身は、クリルの口に入ると氷のように溶けていった。
「これから毎日貴方から、妖力もらうさね。」
クリルは笑顔で恐ろしげな発言を放った。
「・・・という事は、俺は毎日心臓をその小太刀でぶっ刺される事になるのか・・・?。」
「痛くないから大丈夫さね。」
「精神的にきついわ!」
仙人は半分、涙目になりながら訴えた。
「貴方の感傷的精神なんて知ったことじゃないさね。契約外さね。心臓に小太刀刺されるのと殺されるのと、どっちが良いさね?」
「それは・・・殺されるのは勘弁だな。」
「でしょう?なら黙って毎日刺されろさね。」
「・・・」
黙りこんでる仙人にクリルは
「別に心臓刺したって、死ぬわけじゃないさね。」
と念を押す。
「それくらい分かってるよ。現に刺されたんだから。」
仙人はそういって心臓をさする。
すると突然後ろで何やらバサバサと変な音が聞こえてくる。
「う~・・・クリル貴様ぁ!」
クリルに締め付けられ、部屋の隅に吹き飛ばされていたウランが、うめき声をあげながら雑誌の山から這い出てきていたのだ。
「あっ、ウラン起きたさね・・・?」
クリルは軽く苦笑いしながら目を背け、髪をくるくるいじりだす。
「お前!起きたって、てめえが俺を眠らされたんじゃねえっぶふぉああああ!!!!」
ウランは悲鳴をあげながら、突然開かれたドアに盛大に吹き飛ばされた。その後の反応が無い限り、おそらくまた安らかな眠りについたようだ。
「う~ん?何か変な音がしたような・・・気のせいね♪」
現れたのは仙人の母親、鬼灯時雨だ。
「あら、目が覚めたのね?丁度いいわ、二人とも下の階にいらっしゃい♪」
時雨はそう言うと、下の階に戻って行った。この時、仙人は時雨の手に、フォークが何本か握られているのを見た、
「ハハ・・・最悪のシナリオとしては、心臓を小太刀で突き刺されて、フォークで眉間を突き刺されることが考えられるか・・・。」
「仙人、何言ってるさね?」
クリルはきょとんとした表情で首をかしげる。
(そういえば、クリルは気絶してたっけ・・・)
「飯だから降りてこいって事だよ。」
「そういえば良い匂いがするさね。」
クリルはお腹を軽く押さえる。
「ウランは寝かせた方が良いよな・・・正常な判断なら・・・」
「起こして、ギャーギャー騒がれたいさね?」
「いや、それは勘弁願いたい。」
「まったく同感さね。」
二人は下の階に降りて行った。
1階は時雨が神治を制裁した割にはそんな荒れた形式は無かった。
厨房にいた、神治自身も眉間に絆創膏を貼っている程度で、そこまで重症そうに見えない。
仙人は神治に歩み寄り
「親父・・・生きてたのね。」
「あそこの美少女に料理を振舞うまで、くたばる訳にはいかないだろ。」
神治は、妙に鼻息荒くパスタを炒めていた。
「はいはい。」
仙人は適当にあしらい、テーブルに腰を下ろす。
(・・・ったく、よくあんな性格で母さんは結婚したな・・・)
仙人が時雨の方を振り向くと、何やら端のテーブルでクリルと談笑をしている。
仙人はコップに水を注ぎ、それを一口飲んだ。
しばらくすると、神治がスパゲッティを作って持ってきてくれた。
神治は皿をそれぞれのテーブルに置き、厨房に戻ろうとする。途中、神治は足をとめ、
「そういえば、お前が連れてきたあの子の名前はなんていうんだ?」
と聞いてきた。仙人はフォークでスパゲッティを巻きながら
「あいつの名前は五月雨 クリル、まぁいろいろとあって、連れてきたって訳だ。」
「そうか・・・いろいろか。」
神治はあまり深く追求せずに厨房に戻って行ったが、顔はすごくニヤニヤしていて何だかものすごく腹が立つ。
そんな時、時雨とクリルはというと
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「あぅ!?身長低いだけで、警察に職務質問されたさね?」
「そうなのよ、神治さんと二人っきりで楽しく飲んでた時によ~。せっかくの楽しいひと時が台無しよまったく・・・こんな事なら昔からもっと牛乳を飲んでおけばよかったと思ったわ・・・クリルちゃんも若いうちに牛乳飲んどいた方が良いわよ♪」
「あぅ・・・牛乳飲むさね・・・」
クリルは軽く体を震わせながらスパゲッティを口に運ぶ。
(いったい何の会話をしてるんだ・・・)
身長が低い者同士にしか分からない悩みや苦労があるのだろう。仙人はそう判断し、二人の会話に参加しない事にした。
だがそんな空気の読めない、哀れな子羊が一匹、厨房からフライパンを拭きながらのこのこやって来る。
「身長を無理に伸ばす必要はないさ、クリルちゃん。小さい子は小さい子なりの魅力がある。いや!その小さい事こそ最大の魅力なのだ!二人ともその幼女体型は本当に魅力的だ。」
「「幼女体型♪?」」
時雨とクリルはその言葉を口にすると同時に、神治に向かってフォークを投げつける。
投げつけたフォークは弾丸のような速さで、神治に一直線に向かっていった。
とっさに神治は持っていたフライパンを盾にし、身を守る。
クリルの放ったフォークは弾き反され、天井にフォークが突き刺さる。ところが時雨の放ったフォークは厚さ4.5mmのステンレス製のフライパンを貫き、神治の眼球すれすれで、止まる。
時雨は裾からステーキナイフを取り出し、それを構えながら
「誰が幼女体型ですって、神治さん?今度はその目を確実に射抜きますよ♪」
「すみません私の目がどうかしておりました。」
そう、と時雨はステーキナイフをしまい、神治に歩み寄った。
「そういう事ならチャンスをあげる♪いい返事を期待してるわ♪」
「何を要求するのでございましょうか・・・?」
「う~ん?それは簡単よ、この喫茶店の仕事も二人だとなかなか大変じゃない。だからクリルちゃんを住み込みで雇おうって話よ♪」
「「・・・はい?」」
神治だけでなく、仙人もその要求に耳を疑った。
「いや、住み込みって、クリルちゃんも住んでいるところが、」
時雨はいい終わる前に首元にフォークを突きつけ、
「ここからだととっても、遠いのよ♪だから住み込みで。ねっ?貴方もこんなかわいい従業員欲しいでしょ♪」
神治は少し考えクリルに確認をとる
「クリルちゃんはそれで構わないのかい?たまに母さんは一人で突っ走っちゃう事があるけど・・・?」
「フォーク投げた後でこんな事言うのもあれだけど、できれば宜しくお願いしますさね。」
時雨は神治の耳元で何かを囁いていた。神治はそれから首を縦に振り、
「分かった、じゃあクリルちゃん。今日から住み込みでここに働いてもらう。と言ってもやること少ないんだけどね。」
クリルはペコリと頭を下げて、
「宜しくお願いしますさね」
と一言。
「そういう事だ仙人、新しい従業員さんだ。」
「こんな幼女を従業員にして良いのかよ・・・」
クリルは仙人のもとへ歩み寄り耳元で
「これだと、貴方のボディガードもやり易くなるさね。貴方は命狙われてるということを忘れちゃ駄目だよ?」
仙人は顔を青くし
「宜しくお願いします。クリルさん・・・」
クリルはニコッと微笑み
「こちらこそ宜しくお願いしますさね。」
仙人は命を狙われているという事を再確認し、コップに注いだ水を飲み干した。