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五月雨 クリル

クリルは一気に駆け出した。

りんは間合いをとるために少し後ろへ下がった、そしてその周りを召喚した僵尸きょうしが列を成しクリルに襲いかかる。


「邪魔さね!失せろ!」

クリルは魔方陣まほうじんから大量の小太刀こだちを取り出し、それを僵尸きょうしに投げつけた。小太刀こだちは次々と僵尸きょうしに突き刺さり僵尸は破れた呪符に変わっていった。

しかし召喚された僵尸の数は多く、一度に蹴散らせる程ではなかった。


「まったく、きりがないさね」

そう言いながらクリルは後ろからおそいかかってきた僵尸に逆回し蹴りを放つ。それは僵尸の頭に命中し、頭は首からちぎれ、後ろに吹き飛んで行く。


「ほーうすごい蹴りじゃの。そんな華奢きゃしゃな体つきでどこからそんな力がでてくるのか…」

りんはまた新たな呪符から僵尸きょうしを召喚させた。


「ふん、そんな紙切れじゃ私は倒せないさね」

クリルは次々と襲いかかってくる僵尸を小太刀で斬っていく。


(とは言いつつも、持久戦でこちらに分はないさね…なら!)

クリルは魔方陣から小太刀こだちを取り出し、僵尸に投げつける。そして間合いを詰めるため、一気に駆け出した。





 その頃、仙人は工場の奥まで逃げ込んでいた。仙人の隣にはウランというフクロウに似た魔王がふわふわ浮いている。


「はぁ、はぁ、一体どういうことなんだ。妖力だとか、呪符だとか、まったく意味わかんねぇよ!」

仙人は辺りを見渡しながらそうつぶやいた。


「意味わかんねぇのはてめえの行動だ!なんで奥なんかに逃げてんだよ!!」

ウランはそう仙人に怒鳴りつけた。


「しかたないだろ、工場の入り口にはあの札使い女がいたんだから、そこを通ることなんかできる訳ないだろ。というか一番意味わかんねぇのはやっぱお前だ!」


「この期に及んでまだそんなこと言ってんのかよ…いい加減慣れろよ…」

ウランは億劫おっくうそうに答えた。

ところが不意にウランが突然叫ぶ。


「おい小僧!来たぞ!」


「来たって何が…って!!」

振り向いた先には呪符が2枚飛んできた。10m程の間合いに入ると呪符から僵尸が2体召喚された。


「やばっ!」

仙人はすぐに走って逃げたが、逃げた先は行き止まりだった。


「おいおい万事休すとはまさにこのことか!」

仙人はすぐさま引き返そうとしたがそこは行き止まりになっていた。


「っく!」

仙人せんとの目の前には僵尸が2体迫っていた。

仙人は近くにあった鉄パイプを拾い上げ構える。


「おい小僧、知ってるか?僵尸ってのは死体がよみがえった者、いわばゾンビのような存在だ。そいつらは死後硬直の影響だかなんだか知らんがとにかく硬い…刃を弾き返すほどにな~」


「そんな事、今伝えてどうすんだよ…ますます勝てる見込みないじゃん」


「まぁそんな顔するな、対処法くらい教えてやる」

ウランは妙に冷静に答えた。


「勝てる方法があるのか!」

仙人は鉄パイプを握りしめる。


「俺が教えるのはあくまで弱点だけだ。後はお前次第だな」

ウランは僵尸を指差し


「あれは見たとおり召喚型の妖怪だ。あの手のもんは術者が指揮をとらないかぎり召喚された妖怪の本来の力は発揮されない。現に動きが鈍い。クリルとの戦いで手いっぱいなんだろ。だがそれだけではお前は勝てることはできない、ここでとる方法は2つ」

ウランは振り返り、


「一つは僵尸の顔面にくっついている呪符をはがすか。もう一つは術者を倒せばすべて解決。そこの僵尸もろとも消滅する。万々歳だ」

(いや後者の方、明らかに無理だろ!てかもうそれ対処法じゃなくね!?)


「僵尸が勝手に消滅する方法は?」

仙人は冗談交じりにそう答えたが

「術者を倒すしかねぇなー」

と即答されてしまった。

結局手に持っている鉄パイプで、そこの僵尸の呪符をはがすほか方法が無いらしい。


「うぅ、はがすだけでも勝てる気がしねえよ」

しかし覚悟を決め、仙人は僵尸に突っ込んでいった。


「うらぁぁぁぁ!」

仙人はまず、僵尸の足元を思い切りたたきつけた。無論、無理に顔に張り付いている呪符をはがそうとすると、確実にやられてしまうからだ。

仙人は足の骨が折れるのではないかと思う程、思い切りたたきつけたが、僵尸はまるで効いていない。


「硬っ!」

鉄パイプはへし曲がり、使い物にならなくなった。しかし僵尸は1体が倒れ、もう1体は倒れた僵尸につまずいて転んだ。


「おい小僧!そこで手押えてもだえているひまはないぞ!」

(あっちはまだ戦っているか・・・僵尸の動きは鈍いがこの小僧ぐりんぴーすがいつまでも戦ってられるとは考えられん。はやくしろクリル!)


仙人は呪符をはがそうと僵尸に詰め寄る。

しかし、僵尸はすぐに態勢たいせいを立て直し、手を伸ばしかけた仙人に襲いかかる。

無論仙人はその手をすぐ引っ込め、僵尸から逃げだした。

「おいウラン、なんとかできないのか?お前魔王だろ?」


「都合のいい時だけ頼んじゃねぇよ!俺単体では何もできないの!」


「本当に使えない魔王だな!それともあれか?やっぱお前は魔王じゃないとか?」


「こんな時にこれだけの余裕かますとは…お前の肝の太さだけは認めてやるよ」

ウランはぶつぶつと、何かを唱え始める。するとウランの目の前にクリルが出現させていたものよりも、かなり小さな魔方陣まほうじんが現れた。


「おい仙人!今の俺じゃ妖力が足りん!俺の脚を握れ!」

仙人は言われるがままにウランの足を思い切り握った。


「よしこのまま握ってろ!」

ウランは追ってくる僵尸に体を向け翼を羽ばたかせた。

すると魔方陣から青白い刃が無数に飛んでいき、僵尸に命中させた。

僵尸は後ろに吹き飛んでいった。


「すげぇ…」

仙人はあっけにとられ見ていたが、ウランは


「走れ仙人!あれは足止めにすぎん!逃げるぞ!」


「え!?あれ足止め!?倒したんじゃないの?」


「鉄パイプで殴られて平気な奴にあんなの効くわけねえだろ!」


「ええぇ……」

案の定、僵尸はすぐに起き上がり、追いかけてきた。

僵尸はぴょんぴょん跳ねながらこちらに近づいてくる。


「だああああ!ちょっと見なおしたと思ったら、やっぱ使えない魔王だったぁぁぁぁ!」


「うるせぇ!足止めしただけでもありがたく思えっつうの!」

仙人は再び工場の中をぐるぐると走りまわる。


「はぁはぁ、あいつらに疲れというものは存在しないのか?」


「まぁ召喚されたものだからな・・・たぶん無い」

そんなことを話している内にも僵尸はどんどん仙人を追い詰めていく。

仙人は全力で走っていたが運悪く転んでしまった。

僵尸は転んだ仙人めがけて、襲いかかってくる。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

仙人はそう叫びながらも、たまたま落ちていた鉄パイプを拾い上げ最後の悪あがきをする。

仙人は飛びあがって襲いかかる僵尸めがけ、鉄パイプを思い切り突き刺した。それは僵尸の口の中に入りそのまま頭を貫いた。

そしてそのまま破れた呪符へと変わった。


「やるな仙人」

ウランは笑っていたが仙人はそれどころではない。もう一方の僵尸がいたからだ。

仙人はもう一方の僵尸に足払いをかけ転ばせる。

再び仙人は逃げようと走り出そうとしたが、突然転んでいる僵尸の姿は呪符へと変わった。


「え!?」


「なっ!?」

どうやらウランにも消えたことは予想外だったらしい。


「これは…倒したのか?」


「んな訳あるかぁ!それに呪符自体は破れていない」

ウランは呪符を拾い上げ、それをビリビリと破る。


「おそらくクリルが術者のあの女を倒したんだろ」


ウランがそう言いながら振り向くと、すでに仙人走って逃げている。


「野郎…聞いてなかったな」

ウランは仙人の後を追っていった。



 仙人とウランは工場の入り口まで走って行った。

入り口付近まで走っていくと、そこには燐が立っていた。

燐は体中に小太刀が突き刺さっっており、今にも倒れそうな状態だ。

燐は仙人を見て。


「おや、主ら生きとったのか。なかなかしぶとい奴じゃの……」

燐は仙人を見つけはしたが、特に何をするでもなく、ただ立っている。立っていることしかできなかった。

(一体何本小太刀刺さってんだよ。たぶん僵尸が呪符に変わったのはこれが原因か・・・)

相手が満身創痍まんしんそういな状態でも仙人はかなりビビりまくっていた。だが、そう悟られないよう平静を装いつつ


「今のあんたに言われたくねえよ」


「ふふ、それもそうじゃ…な……」

燐はそう言いながら仰向けに倒れた。


「もう…動けん……」

燐は仙人を睨みながら


「負けた者は死あるのみ…さっさと止めを刺して立ち去るがええ」


「言われなくとも立ち去らせてもらう。もとはと言えばお前がこんな騒動に巻き込んだんだからな」

仙人は入口に向かって歩き出す。しかし燐は


「そうじゃ主よ、このまま逃げるのも構わんが、そこに倒れている小娘くらい連れて行ってやってらどうじゃ?たぶんまだ生きとる」


(そうだ!クリルは!?)

仙人は木材が散乱している辺りに目をやる。

そこにはクリルが倒れていた。

仙人はクリルの元まで走り、クリルを抱きかかえる。

燐の言うように死んでなく、ただ気絶してるようだった。


「連れていくなら早くした方が良い…」

仙人はクリルを背負い、燐の横を通り過ぎていく。

燐は不思議そうな顔をして


「主よ、止めは刺さなくてよいのか?」


「今はこの子を抱えているからそんな暇はない」

仙人はクリルを背負いながら走り去っていった。

燐は仰向けに倒れたまま


「放っておいたらこのまま死ぬと思ったのかや?………ふっ」


燐は静かに目を閉じ、そのまま動かなくなった。


仙人はクリルを背負いながら


「本当に何者なんだ。この子は……」

そうつぶやいた。

一緒にいたウランの姿はいつの間にか消えていた。

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