水無月の軍服少女
今月から相当忙しくなる時期なのでしばらく前書きは書かないことにします。
四季。それは妖力という特殊な力を持つ『人間』達が秘密裏に妖怪を駆逐し、治安を維持する組織だ。
しかし現在はその方針は一転、妖怪ではなく、妖力をもちつつもその力を発揮できない人間を駆逐して妖怪を弱体化させようとする者。妖力を表の世界の軍事力に使おうと企む者などが現れ、派閥争いが深刻化している状況だ。
そんな中、そのどちらでもなくおおよそ昔の方針に則りつつも、自分の流儀を貫き通す一人の少女がいた。
妖力を持とうが持たまいが、明確な敵意がないかぎり手出しはしない。必要でなければ例え妖怪であっても殺さないというちょっと変わった思考の少女……水無月のヴァルプルギス・ドーラだ。
ほとんど白に近い銀髪、緑色の軍服を着用しており、肩にはどこの国のものか分からない階級章。喉元には鉄十字を佩用している。
ドーラはある港の工場で、初老の男性と話をしていた。
「…ですからドーラ様には早急に艦隊を率いてホルムズ海峡に向かって欲しいのです」
初老の男性は黒のスーツを着ており、長身ではあるが、かなり細身の男性。
金正日の傍にいた影武者だ。
「…何度も言うけど断るかな。ホルムズ海峡に機雷の撒布なんて……貴方達はアメリカやイランと戦争でもする気かな?」
「はい、その通りでございます」
「なっ!?」
目を見開き、驚くドーラをよそに影武者は淡々と告げる。
「いえ、厳密には貴方様にはアメリカとイランとを衝突させるきっかけを作っていただきたいのです。現在我々の出航可能艦隊は水無月を除き皆出航しておりますゆえ、そのことを考えますと、」
「ふざけるなっ!!!!!」
影武者がまだ話し終える前にドンッ!とテーブルを強く叩きつける音とともに、椅子から勢いよく立ち上がってドーラは叫んだ。
「貴方は自分の言っていることを理解しているのかな!?私たちは『ただの人間』じゃない!本来あってはならない異物……そんなのが表の世界で跋扈したらそれこそ世界は混乱する」
ドーラは拳を強く握り、キリキリと奥歯を噛みしめる。
一方、
「だから何?世界が混乱するくらいで何をそんなに恐れているの?混乱したならまた正常に戻してやればいい。簡単な事じゃない……政治形態は変わるだろうけど」
いつの間にか影武者は、初老で長身の男性から、男性用の黒のタキシードを着て、青い髪に紫のメッシュをした少女に変わっていた。
耳に髑髏のピアスをして、目元に妙なペイントが施されている。まるでピエロのようだ。
「まぁいいわ。今日のところは帰ってあげる…しっかりと考えておきなさい?水無月のヴァルプルギス・ドーラさん」
影武者はそういうと、工場から出て行った。
しばらくその場に立ち尽くしていたドーラはやがて、すぐ近くに設置されていた冷蔵庫の中から、酒の入ったビンを一本取り出し、グラスに注ぐ。
グラスに入った酒を一気に飲み干すと、また新たに酒を注ぐ…と、そこへ
「真っ昼間から飲酒とは随分と荒れているな、お前らしくない…そんなにあの道化の言うことが不服か?」
工場の入り口からある男が声をかけながら、ドーラに近づいてくる。
男はドーラとは違う白の軍服と腕章を着て白手袋をしており、軍刀を帯刀している。
髪は栗毛色でオールバック。すこし強面な顔つきの男性だ。
「不服?それはそうかな。こんな馬鹿げた事を承認なんてできる訳がない……」
「馬鹿げたことねぇ…という事は、お前はあの玄武には従わないと…?」
「そうなるかな…かといって今の方針を貫いているあのチョビ髭に従うつもりもサラサラないかな……」
ドーラはしばらく指を口にあて、考え事をすると男に、
「そもそもなんであの将軍は日本やあいつの国からあんな離れた海峡にこだわるのかな?」
「時期が良いからだろ」
男はドーラの座っている席からテーブルを隔てた席に座る。
「イランとアメリカがドンパチやって困る国はごまんといる…だがなドーラ。あいつにそんな事関係あると思うか?」
「?」
「あいつは公の場では死んだ事になっている。だがご覧のとおりあいつは妖力を操る新たな軍隊を作成中だ…おそらく試したいんだろうよ…無敵の軍隊てやつを」
「成程成程…でもなぜあそこで事を起こす気かな?戦場なんてどこにでも存在しているのに、あんな遠くに…?」
「そこまで俺が知るかよ、むしろ知っている方がおかしい」
男は立ち上がると、微妙に抵抗されつつもドーラの手元にある酒ビンを取り上げ、それを冷蔵庫にしまう。
「私はわからないかな…」
そう言ってドーラはしばらく考えたかと思うと、急に椅子から立ち上がりジャケットを羽織る。
「ん?」
突然の行動に男はドーラに目を向ける。
ドーラは男に笑みを浮かべながら、
「分からない時は自分の足で情報を集めてくるかな。啓蔵!念のため水無月の全権限を貴方に任せたかな」
「出かけるたびに俺に責任押し付けんなよ…」
「上司の不始末は部下がちゃんと尻拭いするものかな」
「普通逆だろ!真っ平御免だな」
「これは命令かな…あと私の部隊に召集をしとくかな…」
「一応上官らしい指示もできるんだな。分かった、すぐに取り掛かる。だからさっさと帰ってこい!」
「了解かな兄貴!」
ドーラはそう言って男に敬礼をすると、工場からでていった。
男はドーラが出て行ったのを確認すると、ポケットからスマートフォンを取り出し画面をタッチすると、それを耳にあて、誰かに連絡を取る。
「俺だ。あのドーラが重い腰を上げた…ただちに船を動かす準備をしておいてくれ。あぁそうだ全艦隊だ。後それと……念のため結界を張れる人間をこちらにまわしてくれ…破滅を招く狂気の列車砲が出るかもしれん」
男は電話を切ると、冷蔵庫からドーラの私物の、酒ビンを取り出し、目の前においてあったくグラスに注いでそれを飲んだ。
「あぁ怖い怖い」