今更芽生えた小さな疑問
誤字脱字、意味不明な表現ありますがご了承ください。
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ク「今回も私が長々と前書きを埋めようかな~……なんて思ってたけど、作者の都合によりお休みさね……Why?」
仙「この時期は一年で一番忙しい時で、時間が無いんだとさ~」
ク「どのくらい忙しいかというと?」
仙「微妙」
ク「微妙に忙しいというと?」
仙「そこそこ」
ク「……」
仙「……?」
ク「そのどちらともつかない答え方はご法度さね」
仙「それが日本人というものさ」
ク「YESかNOで答えろさね!」
花の盛りが過ぎた四月下旬の夜。少女はある港に来ていた。
少女は黒のゴスロリを着てピンクの髪の色をしており、背は低いのだが、背中にはそれと反比例するように袋に包まれた大きなモノを背負っている。
無季のヴァウムガルト・ヘルだ。
ヘルは口に棒付きのキャンディを銜えたまま港にある工場の中に入っていった。
中には数十人の作業服を着た人らが、貨物を積んだり、運搬していた。
ヘルはその中で一人椅子に座っている女性に近づく。
革のフカフカした割と高級そうな椅子に座っていた女性は、ヘルに気付き、椅子から立ち上がると腕を組みながら話しかける。
「あら?ヘルじゃないの。珍しいかなこんな時間に来るなんて…それで何の用かな?」
ヘルに話かける女性は細身で髪はクリルよりも白に近い銀髪。緑の軍服を着ており、肩にはどこの国のものか分からない階級章、喉元には鉄十字を佩用している。
物々しい服装の割には顔つきは10代後半程に見え、どことなく幼い感じだ。
「別に何時に来てもいいじゃないの~……ちょっと武器を借りにきたのよ。それと鉄の処女…いえ、五月雨 クリルって子についても教えてもらいにね。知ってるんでしょ?五月闇のヴァルプルギス・ドーラさん」
ヘルはわざとらしく頬をプクーと膨らませる。
「今は水無月かな……」
ヘルの問いかけに軍服を着た女性、ヴァルプルギス・ドーラは首を左右に振りながらゆっくりと椅子に座り、ヘルにも椅子に座るよう促した。
「???」
ヘルはとりあえず革製のフカフカした椅子に座る。
「…随分懐かしい名前が出てきて驚いたかな…元皐月所属、五月雨のクリル。本名はクリル・ツェペシュ。20年前にこの組織を去った四季随一の化け物かな」
その言葉にヘルは眉をピクンと動かし、
「四季随一の化け物が皐月所属?おかしいわね、普通、貴方がそこまで言うような化け物ならどう考えても無季に所属するはずじゃ無い?しかも何でまた皐月の下の五月雨に…ジーク並の偏屈野郎ね……」
「う~ん、たしかにそんな感じだったけど、他にも結構癖が強かったというか、何というか、その~……致命的な欠点があったかな」
「欠点?……それを詳しく教えて頂戴」
ヘルはドーラに身を乗り出し、尋ねる。
「なんでそんな昔の人物の話を聞きたがるか知らないけど別に構わないかな……だれかお茶とお菓子を持ってきて欲しいかな~」
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「フワァ~…」
大きな欠伸とともに小さく背伸びをするのは、鬼灯 仙人。少し翠がかった髪で瞳の色が左右で微妙に違うのを除けば、どこにでもいる普通の高校生だ。
そんな普通な高校生だったのだが、銀髪眼帯少女と自称魔王なフクロウを、従業員とそのペットという形で家に居候させた結果、何やら変な組織に自分まで命を狙われる羽目になってしまった訳だが、なんやかんだでいつも通り学校にも通っている。
「じゃあここの問題は仙人……ん?仙人?……おい返事しろゴラァァ!!!」
「っ!?はいぃ!!!」
頬杖をついて窓の外を眺めていた仙人は勢いよく椅子を吹き飛ばし、気をつけの姿勢で立ち上がる。
「てめえ、私の授業をちゃんと聞いてなかったな…はぁ~。ぶち殺すぞ?」
と、とても教師の言う事とは思えないセリフを言うのは英語教師、久々津女 彩香。全身深紅のスーツに身を包み、気だるそうな表情でチョークを力なく下ろす。
「次同じ事があったら容赦なくぶっ飛ばす。座れ」
「ハイ……」
シュンとて音をなるべくたてないよう静かに座る仙人。
「お前朝からずっとその調子だよな。一体どうしたってんだい?」
ショボーンとうな垂れる仙人に話しかけるのは、このクラスの学級院長の佐久間 藍だ。藍は禁煙用パイポを銜えながら、椅子の足を2本浮かせ、後ろへ反り返る。
(そりゃ昨日あんな事があれば授業に集中もできないわな…)
仙人は昨日の事を思い出しながら、また頬杖をつきながらウトウトしだす。
しばらくすると藍は何かを思い出したかのように、突然ニヤニヤした表情になり仙人に話しかける。
「そういやさ仙人、靖人から聞いたよ~。あんたまだ年端もいかない女の子を家に連れてきたんだって?それで親の反対を押し切って無理やり従業員という形で同居させた…ふふ~んやるね」
「ブフォッ!?おいちょっとまて!お前は何か大事な部分をはき違えている!まるで俺が無理やりそうさせたような感じになってないか!?」
何やらこの学級委員長は物凄く盛大な勘違いをしていたようなので、仙人は必死にそれを否定する。
「あれ?違うの?」
「ちがっ……」
そこまで言いかけたが最後、彩香先生からのチョークの一撃を喰らい、そのまま机に突っ伏し気を失ってしまった。
「あわわわ!!」
藍は手をわなわなさせて正面の黒板に、もとい先生の方へ目をやった。そこには、新たなチョークを握り、構えている先生が……。
「お前も眠るか?」
「ひっ!!!」
昨夜
「他人の血を吸うことで、自分の傷が回復する妖怪……俺には少なからず心当たりがあるぞ……」
仙人は自分の部屋で一人パソコンを使って、あるものを調べていた。
「お、あった。吸血鬼、ヴァンパイア…」
仙人はいろいろある中から一つのサイトを見つけ、クリックする。
「えっと~…吸血鬼は、一度死んだ人間がなんらかの理由により不死者として蘇ったもの………一度死んだ者?」
仙人は更に調べていく。
「えっと~、吸血鬼は初めて訪問した家では、その家人に招かれなければ侵入できない又、犬歯が牙のように大きく血を吸う時は瞳が赤く光るか……あれ?何やら当てはまる個所がいくつか…」
仙人は頭を軽く掻きながら、クリルと吸血鬼とが一致する項目をあてはめる。
「たしか、初めて訪問した家では、その家人に招かれなければ侵入できない…か……招くどころか自分が勝手に背負ってきた挙句、居候状態だよなこれ?それに思いっきり牙もある。あんなに長い犬歯は普通無い………という事はあいつは吸血鬼なのか…?」
仙人は指を唇にあて、深く考える。
「でも直射日光に弱いっていうなら普通は日中の行動は控えるよな……それに服の露出も多いし、紫外線を避けるには向かない……血を吸うときに瞳が赤くなるか…あいつ眼帯つけてるから確認のしようがねぇ…」
血を吸われたには吸われたが、あの時眼帯をつけている方向に顏を寄せられたので確認できなかった。
仙人はパソコンを閉じ、ベッドに腰かけ横になる。
「う~ん……やっぱ簡単に確認するには聖水、にんにくの類かな~、ん?ミネラルウォーターって聖水なのか?」
天井の電気を見つめながらそんな事を考える仙人、すると突然仙人の目の前が真っ暗になる。
「ミネラルウォーターが何さね仙人?」
仙人の目の前にニュッと現れたのは件のクリルだ。濡れた銀髪の上にタオルをのせ、薄いピンクのパジャマを着ていた。
「ぬぉわお!?くっクリル!?お前いつからここに居た!?」
「ついさっきさね。仙人もお風呂行くといいさね~あったかいんだょ~」
クリルはタオルを仙人にポンと投げ渡し、濡れても尚直らない揉みあげの癖毛をクルクル指でいじりだす。
「あぁ風呂か……ん?風呂?おいクリル、お前もしかして風呂に入ったのか?」
(水は吸血鬼が苦手とするもの…だとすれば風呂も駄目なはず…)
仙人はそう推測してクリルに問いだしたのだが、とうのクリルは肩をピクピクと動かし、遂には無防備な状態の仙人の腹(鳩尾)に拳を叩きこんだ。
「ゴフッ!?」
仙人はビクンと手足が無意識に跳ね上がる。
「その言い方は、まるで私は普段からお風呂に入ってないみたいな言い方さね。私はお風呂だけはしっかりと入るさね!!」
クリルは仙人に跨り小太刀を出現させ、それを仙人の心臓に突き刺す。
「そういや、そうか……」
仙人は心臓に小太刀を突き刺されたままクリルがシャワーを浴びているところをうっかり目撃した時の事を思い出し、一人納得する。
「う~ん…」
「うゅ?」
仙人は、自分に跨っているクリルをどかし、机からあるモノをクリルに手渡す。
「何さね、これ…?ロザリオ?」
「あぁ昔親父から貰ったもんだ……それ触ってなんとも無いか?」
「なんとも無いって、なんとも無いさね。…で、それが何さね?」
クリルは仙人に不審そうな目つきで見ながら、十字架のネックレスをいじる。
「あぁいや、なんでも無い…プレゼントだ。プレゼント」
「仙人が私にプレゼントさね?一体どういう風の吹きまわしさね?」
クリルはますます不審そうな顏をして、仙人に詰め寄りそのまま押し倒した。
「怪しい…何か隠してるさね……言え!」
ジリジリと詰め寄るクリルに仙人は嫌な汗をびっしょりと流しながら、
「いや、特に隠してないさ…まぁあれだ、阿形が襲ってきたときに助けてくれたお礼だ。そんな疾しい事は無いさ…ハハハ」
「ふ~ん、まぁ貰えるものは貰っとくさね。ありがと~」
クリルは仙人を解放し、十字架のネックレスを手で握り締めたままニコニコしながらクリルの部屋で戻って行った。
「……ぶはぁ~」
仙人はクリルが出て行ったのを確認すると、大きな溜め息をつき、ベッドに大の字になり安堵する。
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「結局分からずじまいか…」
「私も分からずじまいだよ!チクショウ!」
本日の最後の授業、英語が終わってすぐに行われたショートホームルームで仙人と藍は双方ともに机に突っ伏し、担任(久々津女 彩香)の先生の話を聞いているようで聞き流していた。
藍は机に頬をつけ、口の端に銜えている禁煙用パイポを上下に動かしている。
眉間には、青く変色しつつある丸い斑点がある。
書きかけの英語のノートを軽く睨みつけながら、カチカチとシャーペンの芯を出してはそれを元に戻している。
「久々津女の野郎、あれは人間じゃねえ、普通チョークで人を失神させられるか?」
「フォークでフライパンを貫く化け物もいる」
「うわぁ…」
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「ふ~ん、ジークがクリルに負けたからそのクリルと戦ってみたいと……ヘルもなかなか物好きかな?少しは影武者を見習ったらどうかな?」
フカフカの革の椅子に腰を降ろし、緑茶を啜りながら、ドーラは首を横に振る。
「それは勘弁……私は一日中動いてないと気が済まない性質なのよ~。あんな一日中ゴロゴロした生活送ってたら頭が馬鹿になっちゃう……最後に確認するけど妖力が尽きない限り実力は相当なものと?」
「う~んそれは一概には言えないかな、なんせ私はそれの管轄じゃないし、もう昔の話だから……」
ドーラはこれ以上何も言えなくなり、言葉を詰まらせる。
ヘルは砂糖が大量に入ったココアを飲み干すと、椅子から立ち上がり、袋に包まれた大きなモノを担ぐ。
「了解、これ以上聞く事はないわ。ありがとね」
ヘルはこの場から立ち去ろうとしたがドーラが、
「ねぇ、私からも確認したいんだけど貴方が注文したモスバーグM500とミニミ軽機関銃……2個小隊分でいいのかな?」
「ええ、頼んだわ。用意できたら、夕凪 燐に渡しといてね」
「……了解かな」
ドーラは手渡された紙を見つめながら、苦笑いを浮かべていた。
「ふふふ、出来損ないの吸血鬼、半妖を召し上がる前の前哨戦……にゃは♪」
ヘルはクスクス笑いながら、港の工場から出て行った。