阿形
誤字脱字、意味不明な表現ありますがご了承ください。
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ク「今回は『魔王』についておおまかな説明したいと思うさね」
仙「はい?魔王?」
ク「うぃ、魔王さね。ウランが自分の事を魔王魔王って叫んでるけど、じゃあ魔王っていったい何なんだー! って思う人のための説明さね…作者も含めてね……」
仙「ふむ…」
ク「えっと~…本来は仏教用語で、六道輪廻世界観において欲界の第六天にあたる他化自在天にあり、仏道修行を妨げる『第六天魔王波旬』の事を指す……さね?」
仙「やけに難しい単語が並んでまったく意味がわからないのだが?」
ク「私もわからないさね。てか魔王なんて説明できないからWikipediaから引用させてもらったさね」
仙「おいおい、大丈夫なのか?」
ク「ぶっちゃけいろんな意味で重篤さね。私ももう説明できないさね。だから気になったら自分で調べろさね!」
仙(うわ~、なんかやけになってる……)
ク「作者にそんな知識は無いんだょ…」
花の盛りが過ぎた4月下旬の休日の午後、少女はある事務所におしかけていた。
「……とりあえずは片付けたんじゃが?」
「う~ん、これも違う……あぁもう!!!一体どこにいるっていうのよぉ~!!!」
そう叫んでいる少女はピンクの髪で黒のゴスロリを着ており、身長は低いのだが、それに反比例するかのように、袋に包まれた大きな細長いモノを背負っている。
「いっ…一体お前らは何者なんだ!?」
顏をボコボコに腫らせ、拘束されながらそう話すのはここの事務所を統轄していた禿頭で中年な男性だ。
「あらぁ貴方四季を知らない訳じゃないでしょう?舐めてるの?」
男は四季という単語を聞いた瞬間、顏を真っ青にさせ、カチカチと歯を震わせる。
「ふぅ……ヘルよ。ここは私の管轄なんじゃが~……こやつの処分は私がしてもいいのかぇ?」
「ふん、お好きにどうぞ。もとより獲物が違うんだもん」
「それを聞いて不安と安心が混濁しておる……あまり現を抜かすなよ?」
「野良の妖怪退治も私の管轄のはずよ?」
「そうかい……おい、こやつを連れて行け」
女性がそう言うと、顔に変な札をつけ、黒の生地をベースとして金の刺繍が施されたチャイナ服を着た男性二人が中年の男性の腕をつかみ連れていった。
「あ~あ、一体どこにいるのかしら……」
「そういやジークが何やらコソコソしておったぞ?大方魔族の奴らが動いたんじゃろ。下手すりゃ先越されるぞ?あやつが言うには主の狙っている小娘の方は妖力が尽きかけてる時に土蜘蛛に襲われたそうじゃから~……」
「えっ!?」
少女は事務所の窓を蹴飛ばし外へ飛び出て行った。
「…ここ8階じゃぞ………」
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「こいっ!!!」
純白と言ってもいいほど肌は白く、艶のある金髪、ところどころメッシュのように黒髪が混じった巫女姿の狛犬、阿形は日本刀を上段に構え、髪を逆立てる。
クリルは小太刀を十字に構えたまま阿形に突進する。
阿形は上段に構えた日本刀を、懐深くにまで踏み込んできたクリルの脳天めがけて振り下ろす。
「シィィィィィ!!!」
クリルは日本刀の一撃を右の小太刀で受け止め、もう左の小太刀で阿形の腹部めがけて横一文字に斬りつける。
「動きが単調すぎるぞ、アイアンメイデン!!!」
「あぅっ!?」
阿形は小太刀で斬られる直前にクリルに前蹴りを放った。
それは腹に命中して、小太刀の一撃は空を切り、『く』の字の体勢になったままクリルは吹き飛ばされる。
「クリルっ!!」
仙人はクリルのもとへ駆け寄ろうとするがウランが、
「止まれ仙人。今近づいたら発狂モード全開のクリルに殺されるぞ。離れないと巻き添えくらうぞ?」
「……」
「私が何さね~、ウラン~?そのお粗末な翼を噛み千切ってやろうさね?」
「おう!?聞かれちゃった!?」
こめかみに血管を浮かべ、ピクピクと目尻を震わせながら微笑んでいるクリルは手首を回転させ、小太刀をグルグル回しながらゆっくりと起き上がる。
クリルは片手で短パンについた土埃を払いつつ、小太刀を阿形に向ける。
「ったく、何で狛犬が私の事を知ってるさね?」
そう言うとクリルは目の前に魔方陣を展開させると、そこから大量の小太刀を出現させ、阿形に投げつける。
阿形は小太刀の弾幕を日本刀で弾いたり、ステップで交わしながら、一瞬の隙を突き、一気に間合いを詰め、クリルに斬りかかる。
クリルは咄嗟に小太刀を目の前でクロスさせ、×の形を作り阿形の攻撃を受け止める。
ゴッキイィィィ!!!!!と金属と金属がぶつかる鈍い音が反響し、火花が飛び散る。
クリルはそのまま壁際の方まで追いやられるが、クリルはまだ余裕の表情を見せていた。
阿形は、顔をクリルの鼻がくっ付きそうなほど近づき、
「そりゃ知ってるさ。なんせ四季の幹部が突然失踪、再び姿を現したらと思ったら妖怪になってやってきたんだ。結構有名だぞ?まぁその後すぐに、あんたの埋め合わせをするように化け物が四季に入っちまったから魔族の奴らはなかなか行動が起こせないんだけどね~」
阿形がそう言うと、クリルはほんの少し、目を開き、
「質問変えるけど何で四季の事情まで知ってるさね?」
クリルは阿形の顔面に思いっきり頭突きを叩きこみ、小太刀を握ったまま容赦なく顔面を殴り飛ばす。
阿形はよろめいた体勢から無理やり回転を加え、日本刀でクリルを斬りつける。
クリルは首筋を斬られたが、そんなに深くはなく、阿形の顔面に逆回し蹴りを喰らわす。
さすがにこれは踏ん張ることができず、阿形は吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。
「……………っくくくく」
鼻血を手で拭いながら阿形は口端を歪ませる。
「!?」
クリルはその反応に一瞬たじろぐがすぐに小太刀を構える。
たいして阿形は口端を歪ませたまま日本刀を鞘に納める。
「あんた、何で四季の事情を知ってるかって言ってたね?残念だけど妖力が尽きかけた今のあんたに教えるわけにはいかないね」
クリルはその返答にギリリと奥歯を噛みしめ、牙をむき出しにしながら阿形を睨む。
「……仙人、その小太刀貸してさね。この狛犬をたたっ斬るさね」
「お、おう……」
仙人は自分の小太刀をクリルに投げ渡す。
小太刀をキャッチしたクリルは、左腰に小太刀を携えて右手で軽く柄を握る。
「その様でたたっ斬るだと?……舐めるなよ」
阿形は柄に手をあて、地面を蹴りあげクリルに向かって一直線に突っ込む。
「ふぅぅぅ…」
クリルは軽く息を吹き、瞳を閉じる。
決着は一瞬だった。
「……」
仙人にはその一瞬が見ることができなかった。
確認できたのは互いが刀身をすでに抜いており、居合を終えた後だった。
「…最後まで…妖力が…持たなかったことが敗因だったな」
阿形は膝を地面につき、しゃがみ込む。
阿形の巫女服は横一文字に斬られ、赤く染まっていた。
「コプッ!?」
口からドロリと赤黒い液体がこぼれ、クリルは地面に膝から崩れ落ちていく。
仙人はクリルの腹部からドロリと腸がはみ出るのをはっきりと見た。
「さあて、次は……あんたらの…番だ」
阿形はゆっくりと立ち上がり、日本刀を構える。
「く、クリル…」
仙人は奥歯を噛みしめ、拳を強く握る。
「阿形ぉぉぉぉぉぉ!!」
仙人は咆哮を上げながら、近くに散乱していた小太刀を拾い、阿形に向かって突っ込んでいく。
「おい!止まれ仙人っ!仙人!!チィィィィィ!!」
ウランは9mmパラベラム弾を使用する短機関銃、H&K MP5を取り出し、阿形に向けて放つ。
「くっ!!」
阿形は仙人の首に日本刀を薙ぐ寸前に弾丸が脚にあたり、狙いがそれてしまう。
その結果、阿形の斬撃は仙人の首を斬りつけたものの浅く、斬られた仙人はそのまま阿形めがけて小太刀を振り下ろした。
「っ!?」
阿形は仙人からの袈裟斬りを正面から諸にくらう。
「…チィッ……」
阿形は鮮血を吹きだしながら仰向けに倒れた。
「……」
仙人は震える手を押さえ、クリルのもとに駆け寄った。
「おいっ…クリル……」
仙人はクリルを抱き寄せるが、反応がない。
目にはもはや生気が感じられず、腹部からは腸が飛び出ている。普通に考えてクリルは……
「………」
最悪の結末が頭を何度もよぎるが仙人は、クリルの首元に軽く手をあてる。
「…脈が……ない……」
まだどこかで期待していたかもしれない。
しかし、現実にはクリルは死んでしまっている。
仙人は叫ぶこともできず、ただその場に蹲るばかりであった。
ウランは葉巻を取り出し、それをゆっくりと吸い出す。
少しの間、沈黙が流れていた。
だが不意に、
「脈が無くなった事がそんなにショックか、少年?ならば血を捧げれば良い」
「ッ!?」
仙人はハッと我にかえり、クリルの手に握られていた小太刀を拾い上げ、人影に向かって構える。
仙人が鞘から小太刀を抜くと、複数の魔方陣が周りに出現し、仙人を包んでいく。
ウランは銃を素早くリロードし、葉巻の煙を思い切り吐き出す。
「ジークか……」
ウランはひとり言のようにつぶやくと、そのまま銃をおろした。
「ジーク…?」
「少年とこうして話すのは初めてか……四季所属、如月のジークだ」
「四季……」
「はぁ~、んでお前が何のようだ?」
「それは貴様も知っているであろう。始末するべき対象を始末しに来た…至極単純な事だ」
ウランは葉巻の煙を吸いながら、クリルを指さす。
「見ての通り、お前の対象のクリルは死んだぞ?ここにいる理由はないはずだが」
それを聞いて、ジークは薄い笑みを浮かべ、
「あぁ、対象は死んだ。貴様の言った通り、私はもうここにいる理由は無い……だが……」
ジークはスーツのポケットから呪符を取り出し、それを空中にばら撒く。
「貴様らに一つ忠告をしてやる……今も貴様らを捜索している底なしの馬鹿が一人、この町を徘徊している。そいつの名はヴァウムガルト・ヘル。無季だ……」
「?」
「無季だと!?おいおい、なんでそんな化け物を投入しやがった!?」
ウランは葉巻をペッと吐き捨て、吠える。
「貴様らが今までどれだけの同胞を撃退したと思ってるんだ?それと今はいざこざがあって危険分子をこれ以上野放しにはできないそうだ」
「いざこざ?」
ウランが聞き返すがジークは無視し、ポケットから包帯を取り出し仙人に投げる。
「ふん、まぁそういうことだ。分かったならさっさとアイアンメイデンを復帰させろ!」
ジークはそういうと消えていった。
仙人はジークがいなくなる事を確認すると、クリルの死体の前まで歩いていき、そこで膝をついてしゃがみ、クリルの目をスゥと閉じてやる。
だが、
「っ!?」
「何勝手に殺してるさね…そのナニ噛み千切ってやろうさね?」
死んだはずの者からの突然の反応、というより暴言。
仙人ビクッとたじろぐが、クリルは仙人の首をガシッと腕で挟み、顔を寄せる。瞳孔は完全に開き、口から血が流れたまま、そして腹部からは腸が飛び出たままで。
「おっ、俺は夢を見ているのか!?」
「あり得ない事が起こると、すぐに現実逃避するのは仙人の悪い癖さね。これが夢だと思うさね?」
クリルは更に顔を近づけ、仙人の頬をつねる。
「イダダダダダダ!!おぃ!やめろ!!」
仙人は頬を伸ばしながら離れようとするが、クリルは離さずさらに顔を近づけ、仙人の首元の傷口に舌をあてた。
「っ!?」
仙人はクリルが何をしたいのかさっぱり分からず、動きをとめる。
「……」
クリルは無言のまま、滑るような舌使いで仙人の首筋から流れている血液を舌でゆっくりと丁寧に絡めとっていく。
「何をしているんだ……クリル?」
「ん…?あぁ……別に…牙…は…突き立てる…つもりは…無いさね…」
仙人の問いかけにクリルは意味不明の返答をして、ギュッと仙人に抱きつき血液を絡めとっていく。
しばらくするとクリルは仙人を解放し、スッと立ち上がって服についている埃をパンパンと手で払う。
「お前…大丈夫なのか…?」
仙人はクリルの腹部を指さす。
「うゅ?あぁ、もう大丈夫さね」
クリルは小太刀を一本手に取り、自分の周りに魔方陣を展開させる。
そして小太刀を一振りすると、周りに妙に生ぬるい風が吹き始め、天気は快晴にも関わらず辺りに霧が立ち込め、神社を覆い尽くした。
「血液はその人の命の媒体……それを糧とする者が採りこめば、こんな芸当もできるさね」
クリルは腸が飛び出た腹部を撫でるように摩ると、傷がみるみる塞がっていき、まるで何もなかったかのように元通りになった。
「…俺は夢を見ているのか…?」
仙人は口をあんぐりと開けて呆気にとられていた。
「夢かどうか、もっかい確認してみるさね?」
クリルはそう言いながら、地面に落ちていた包帯を拾い上げ、それを仙人の首に巻きつける。
「ん?あぁ、ありがとう」
仙人はとりあえずお礼を言っておく。
クリルはそれを聞き流し、黙々と包帯を巻いていたが、ウランが横から、
「クリル、話を聞いていたか?」
「無季の化け物が投入されたって話さね?」
「あぁ」
ウランは仙人の頭の上にチョコンと乗っかる。
「まぁいづれ来るだろうと思っていたけど少々気が早くないさね?」
「それだけあっちが切羽詰まってるって事か……」
仙人は目だけを上に動かし、
「なぁ、ウラン。無季って一体何なんだ?」
するとウランからではなく、クリルが、
「四季の中での階級みたいなもんさね。」
「階級?」
「うぃ……まぁおっかない人が私達をぶっ殺しにくるから早くここから、とんずらしようって事さね」
「お…おう」
何か有耶無耶な感じになってしまったが、ここにいてはマズイ事になるという事だけは分かったような気がしたので仙人はここから早く立ち去る事にした。
「阿形は……逃げたさね…」
クリルは血溜まりがある場所を見つめ、そうつぶやく。
「分かってて逃がしたんだろうが…違うか?」
「ふん、無駄に妖力は消費したくないさね」
「そりゃ結構」
仙人達は霧が晴れかけた、神さびた神社を後にした。
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仙人達が立ち去るのを、神社の屋根の上から遠目で見ていた少女がいた。
ピンクの髪をして、黒のゴスロリを着ている。背は低いのだが、それと反比例するかのように背中に袋に包まれた大きなモノを背負っている。
「…この禍々しい妖力の感覚は……ふふふ、どうやら見つけたみたいね」
少女はクスクスと笑いながら、夕暮れに溶けるように姿を消した。