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第07話 BlueCandy

今日も昨日と変わらず朝日が昇った。


別に昇らなくていのに…


朝日が眩しすぎて目眩がしそう。


私はおもむろに写真たてに飾られている写真に目をやった。そこには、嬉しそう

にマイクを持って、フリフリの服を着て唄う幼い私の姿があった。


歌手になる事が夢だった。


有名になって、パパとママに私を捨てた事を後悔させたかった。


うそ…


ホントは私はここにいるって見せてあげたかった。



今の事務所に入ったのは私が14歳の時。施設の園長先生が応募してくれたオーデ

ィションに受かり、地方の電力会社のCMに出してもらったのがきっかけだった。

この世界で生きていくと決めていた私は、恋もせず、高校にも行かなかった。自

分でもびっくりするくらい必死になって働いた。


でも、現実はそんなに甘くはなかった。

ストリップバーや、デパートの屋上でヒーローショウのついでに唄った…。プロ

デューサーに唄いたければ来いと、 ホテルに連れていかれた事もあった。あの日

の事は思い出したくもない。

どれも、「売れるためにした事。」「唄うためにした事。」と自分に言い聞かせて生きてきた。


周りで信じられる人なんていないから、唄だけを信じて夢に生きてきた。


あの日までは…


その日は、以前から気になっていた喉のしこりの検査のために病院に来ていた。


坂口(サカグチ)さん、坂口(サカグチ)美空(ミソラ)さん、どうぞ。」


 そう言って、 看護師さんが部屋へ案内してくれた。

中には険しい顔をしたお医者さん。



重々しい空気の中、何だかいろいろ話してきたけど、頭の悪い私に理解出来たの

は2つ。


ひとつは甲状腺がんであること。

もうひとつは、手術をすれば腫瘍は取り除けるが、水を飲んだ時むせたり、声がかすんだりする。最悪の場合、声が出なくなる可能性があると言う事。


どちらにせよ、今のようには唄えないって事…


1000人に1人はなる病気で死にいたる事はほとんどないと言うが、私から唄を奪う

なら人生を失ったのと同じ事。


まだ18で、これからって時なのに…


手術は成功して、声が出なくなるという最悪の結末は免れた。でも、声がかすれ

、前のようには唄えない体になってしまった。


もちろん、仕事もなくなり。事務所からは、「アイドル路線で行くか、ヌードかな~。」

なんて、皮肉を言われてる。


そして、今日の朝ってわけ。


こんな絶望の淵に立ってるってのに、お腹は言うこと聞いてくれない。さすがに

2日何も口にしなかったら当然かぁ。


しかたなく、駅前にある「センテツ」と言ういつも行くスーパーに足を運んだ。

牛乳とロールケーキをかごに入れ、レジに持っていく。

すると、やっぱりあの人がいた。

髪はボサボサで、店員とは思えないほどの無愛想な態度。毎週土曜日の午前中には必ずいる。

初めは、「嫌な人」としか思わなかった。


でも、何度も見かけると、不思議と興味がわいてきた。


まず、身なりからして私とタメくらい。近くの高校生ってとこかな。

右手でレジ打ちしながら、左手でゴルフボールを2つ持って、手のひらで転がしている。一番、意味が

わかんないのは、私が買ったものと一緒に必ずあめ玉をくれる。

しかも、いつも青色。


なぜ??


気持ち悪いから一度も口にした事はない。

今日もお決まりの様に青色のあめ玉をかごの中に入れるもんだから、つい。


「あの…。これ何のつもりですか?」


 思っている事が声に出てしまった。すると彼は、


「店の商品じゃないけぇ、心配せんでええよ。」


「いや、そう言う意味じゃなくて、何でいつもくれるんですか?」


 すると、彼は左手の動作を止めた。


「悲しそうな顔をしちょう女の子には優しくしろって、じいちゃんが言いよったけぇ。」


 堂々と的はずれな発言をする彼にムカッときた私は、


「迷惑なんで、もうやめて下さい。」


それにはさすがに彼も驚いたらしく「ごめん」と一礼しながら素直に言った。そ

の素直さに、怒りもどっかに行ってしまった。


私がムカついたのは、あめ玉をかごに入れられる事じゃない。

見ず知らずの人に「悲しそうな顔」だという事を見透かされたから。

私は、胸の内を誰にだって見せなかった。

見られるのが怖くてわからないように平然を装ってきた。

なのに、彼はだいぶ前から私の胸の内を知っていたって事なの?


そんなことを考えていると恥ずかしさが込み上げて来て、逃げるように出ていっ

てしまった。


何百メートルか走ると息が苦しくなって、その場で咳込んでしまった。

私の体はだいぶ弱ってた。

すると、後ろに人影があるのに気付いた。


彼だ…


私の後を追っかけてきたみたい。


「な、何っ?なんか用?」


「いや、牛乳とロールケーキ忘れちょったけ。」


 彼は、わざわざ私が忘れたのを届けてくれた。

その瞬間、胸を誰かにつねられた気がした。 あまりの突然の事に、両手で胸を押

さえるのがやっとだった。


「なら、俺バイト中やけぇ戻るわ!」


――――――。


「ね、ねぇ。」


 一度背を向けた彼は、私の言葉で振り返った。


「あ、ありがとう。」


「おぉ!ええよ、ええよ。」


「なんで青色なん?」


「え?」


「あめ玉の色、なんで青色なん?」


「あぁ、俺のラッキーカラー。俺の好きな『イノセントマン』のメイン色でもあるけど…。」


「あ、そう。よくわからんけど…。私、美空(ミソラ)。あんたは?」


「俺は早河陣(ハヤカワジン)。」


その後、何回か言葉をかわしたけど覚えてない。

全然タイブじゃないはずなのに、何か変な気持ちになった。



その日以来、「センテツ」に行くときはメイクをして少し大人っぽい服を来てい

くようになった。


私のお気に入りのアイテムの中に懐中時計がある。コレを首から下げてアクセサリーにしている。見た目はもちろん気に入っているけど、一番の目的は夢を忘れないため。

この懐中時計の針は、私の大好きな「ボラボラ島」の時刻に合わせてある。いつか、あの島に行ってみたい。コレを見るたびに夢を思い出させてくれるの。


でも、病気の事とか、仕事の事でいっぱいになっていて、いつの間にかただのアクセサリーになっていたのに、(ジン)君と話をするようになってから、不思議とその夢を思い出させるようになった。



 今日は、土曜じゃないけど、近くの公園でいろんな話をした。


私と同じ「歌手になる」と言う夢があること。

相方の(ハジメ)君のこと。

特に、イノセントマンの話は面白かった。


「小さい頃テレビでやりよったヒーローものの番組でさぁ。ヒーローになりたいダメ男が、元祖イノセントマンに『次のイノセントマンは君だ。』っつって、勝手に交代させられる所から物語が始まるんよ。」


 ジン君の言葉は、ひとつひとつが前向きで、聞いている私まで元気にしてくれた。



でも、素直じゃない私は、そんなジン君といる時も笑顔になれなかった。


 思えば、私は幼いころから「笑わない子供」だった。施設で育って、少ないながら唄の仕事をして、病気になって、唄えなくなって…

いつだって、一人だった。だから、誰にも期待しないし頼りにしない。そう決めて生きてきた。

周りの大人たちは、自分の利益のために私にやさしくしてるだけだった。


だから、こんなにやさしくされるのは初めてだった。


完全に信用したわけじゃないけど、ジン君とならいつか心から笑えそうな気がする。


そう思えたから、はじめて彼にもらった「青い袋に入ったあめ玉」を口にしてみることにした。



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