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第04話 空腹の喫茶店

空腹のまま授業も終わり、モッサとタチバナと俺は消防署の裏のあぜ道を抜けて、住宅 街の中にある、「マスターズカフェ」と看板の立った店へ足を運んだ。


「カラン、カラン」と店内に鈴の音がこだますると、奥の方からスキンヘッドでサングラス、袖から龍の入れ墨が見え隠れするTシャツを着たガッシリとした中年男が出てきた。


一応、白いエプロンをしているので初めて来る客でも店員だとわかるだろう。

 店内は一面フローリングで、観葉植物がうっとうしくない程度に飾られていた。そんなに広くないが何故かここに来ると癒される。


中年男は、俺たちだと分かった瞬間に肩の力を抜いてしゃべりだした。


「お帰りなさいませご主人様ってか。」


「今のところ、マスターは世界一その台詞が似合わんね。」


 マスターの発言に冷静にタチバナが答えた。


「うっせぇ、未成年。」と、毒を吐きながらいつものでいいのかと聞いてきたので、代表して俺が「うん。」とだけ言うと一番奥の窓際の席に腰掛けた。

 そして、タチバナはカバンから厚い本を取り出して、お決まりの読書を始めた。

 

 マスターとは俺が小さい頃からの仲で、父親を知らない俺にとっては血の繋がらない父親みたいな存在だった。よく(レイ)と喧嘩して家出した時とかは家に泊めてくれていた。


 (レイ)とマスターの奥さんは小学校時代からの親友だった。でも、どう言う訳か6年位前にマスターは奥さんと離婚して今は一人で店をやってる。(レイ)もそれ以来、気まずいらしく店には顔を出さない。


 マスターは、オレンジジュースの入った業務用の紙パックを3つのコップに注ぎ、顔に似合わず手作りしているショートケーキ1個と、ジュースをおぼんに乗せ、俺たちのいる窓際のいつもの席にヤンキー歩きで来た。


「あぁ、腹減った~!俺朝から何も食ってないんよ~。」


荒々しくテーブルの上にジュースの入ったコップを置くマスターは、わざとらしくしゃべる俺に反応して答えた。


「出世払いのくせに文句言うなっ!」


「うっせぇ、俺が大物になったら…」


「店ごと買っちゃる!やろ??1億万回聞いたわ!」


 俺の名台詞までスキンヘッドに取られた。

悔しがる俺をよそ目に、満面の笑みでモッサは目の前のショートケーキを完食するのに精一杯だった。


「あぁ、相変わらずモッサは旨そうに食うの~!」


 財布の中身と相談の結果。よだれを垂らしながらテーブルに顎をのせて、モッサを見てそう発言するしかなかった。


「そういえばさぁ、モッサ!どうなん、コンビニの女の子!声かけてみた??」


 ケーキを食べるのを中断したモッサは、顔を一度見てすぐに恥ずかしそうに目をそらし、小さく「いいや、まだ。」と言った。


「おい、何年片思いしちょるんか!」


「毎日来て、立ち読みするだけのお客やけぇ嫌がられちょるやろうね!」


 聖書並みの分厚い本を読んでいたはずのタチバナが、急に会話に入ってきてまた、読書に戻った。


「話、聞いちょったんや…。確かにタチバナの言うことは正しいな…」


「ちょっとぉ、応援する気あるん?」


 不安そうにモッサが口にする。


「ある、あるっちゃ!応援するっつったのも俺からやし…」


 とは言ったものの、モッサの性格からするとジロジロその子を見てるから、なおさら気持ち悪がられてるはず…。

そんなことを考えだすと、余計に不安になってくる。


「当たって砕けろじゃねぇか?」


 グラスを磨いていたマスターがしゃべりだした。


「おぉ!マスターいい所に入ってきた!」


 と、俺が囃し立てる。


「今となっちゃあ失敗談になっちまうけど、前の奥さんに告白するときなんて彼女の働いてる職場に2年間も通いつめてバシッと言ってやったぞ!!」


「脅迫やん!んで、どうやったん?」


 と、俺。


「フラられた…。」


「駄目じゃん!!!」


 と、モッサ。


「でも、23回目にOKが出たっちゃ!!」


「やっぱ、脅迫やん!!」


 マスターの意見は当てにならなかったので却下。ため息をつくモッサを励まそうと恋愛経験のない俺は必死に考えるがやっぱり出なかった。


「ちょっと原始的やけど、ラブレターはどうかぁ?」


「さっすがタチバナ!それで行こう!!」


 と、タチバナの気の利いた発言に救われた俺は声を高らかにしゃべった。


 手紙(ソレ)は、試行錯誤しながらも1時間ほどで書き上げた。3年も思いを募らせばそんなもんなんだろうか…。


「できたやん!早速、渡しに行こうぜ!」


 と、俺。


「でも、彼女。仕事終わるの9時やもん…。」


 と、モッサ。


「あと、3時間はあるな…。」


 腕時計を見ながらマスターが言う。


「ああ、駄目だよモッサ君。マスターズカフェは閉店が8時までなの…。」


 と、俺。


「嫌味にしか聞こえんな。しゃーないな。9時まで営業延長!」


「ああ、ありがとうございます!マスター!!!」


 モッサは、男気のあるその発言に大喜びでマスターに近づき、手を握り締めた。言うまでもなく、マスターは嫌そうだ。


 時間を潰すのが大の苦手な俺は、空腹に襲われながらいろいろくだらない話をした。

それに乗っかって、難問ブックを読んでいたタチバナが、おもむろにしゃべりだす。


「そう言えば、モッサって何でモッサなん?名前は「中村(ナカムラ) (カナメ)」やろ?一文字もかぶってないやん!!!」


 言われてみればそうだ。

モッサは口数が少ないせいかあまり自分の事を話したがらない。 


タチバナと俺は、興味津々な瞳でモッサを見ていると、さっきまで放置していたショートケーキを食べ終えて、フォークを皿の上に置きながら重たい口を開いた。





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