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第02話 三年目の春

 市内でも有名な馬鹿男子高校にギリギリで入学した俺は、当然クラス内に留まらず、全校でトップクラスの馬鹿生徒だった。

 学ランの第一ボタンは、入学して2週間で2年の先輩にタイマンを吹っかけられた時に取れた。喧嘩は好きじゃない。でも、喧嘩を売られて買わない消費者(オトコ)でもない。


もちろん、その先輩はぶちのめした。そのせいで、 その日の放課後に体育館の裏に呼ばれ、顔の形が変わるかと思うくらいボコボコにされた。13対1じゃあ無理もない。


 髪がボサボサなのは、セットする暇があるなら寝ていたい年頃だからで、


カバンにぶら下げてる人形は、幼稚園から俺のヒーロー『イノセントマン』だ。


話すと、長くなるんで追々話す。上靴は常に足のかかとを折り曲げて履いてるせいか、常に靴下のかかとが汚れていてる。


そして、18年間彼女なしで童貞だ…


 俺の朝は、いつも一人だ。それは、8時30分に鳴る始業のチャイムを、学校の校門の前で聞くことが多いからだ。要するに遅刻魔だ。

 今朝もチャイムを校門の前で聞き、コンクリートの廊下を歩き、教室の後ろのドアをこそっと開いた。出欠を取る担任教師が出席番号21番の橋本哲也(ハシモト テツヤ)の名を呼び、橋本が「はいっ。」と呟く足元を4足歩行で通過していると、


早河陣ハヤカワ ジン!」


「はい、先生!今日も天気いいっすね。」


 機嫌をとろうとしたが無理だった。


「はい、そのままお前の定位置の廊下に立っとけ!」


 その言葉と同時に、担任は持っていた出席簿で俺の頭を叩いた。


「はっはっはぁ。」


 ここでいつも笑いが起きる。

担任は、この学校で一番怖いと言われている『野田清道ノダ キヨミチ』この人は数々の伝説を残した。


身なりは…いや、人相は、ブルーの2本線のフルジャージに、オッサンスリッパ&靴下、ウェットオールバックとまでいえば顔は自ずと想像できるでしょう。


地獄棒ジゴクボウ』と自ら名付けた竹の中に、鉄の棒を埋め込ませたおぞましい武器を好んで持ち歩く。『歩く凶器』と言われ全生徒から恐れられていた。


俺も幾度となく彼の餌食になった。一番ひどかったのは、雑巾が所定の場所に掛けられていなかっただけで、その時の風紀委員だった俺が『地獄棒ジゴクボウ』で3発もケツバットを食らった。そのときは、ケツがなくなったと思った。


 二時間目の終わり、ようやく開放された俺に近づく2人組がいた。


「これはこれは、遅刻の常習犯の陣君(ジン クン)じゃないですかぁ。」

 

 最初にしゃべりかけてきたのは『タチバナ』だ。彼は、スラ~っと高い身長で、この学校始まって以来の秀才と言われ、人望も厚い。黒縁眼鏡にはこだわりがあるらしく、同じような眼鏡を一週間分持つくらいの徹底振りだ。


「今日の昼飯、何食う?」

 

 呑気にしゃべる巨体こと『モッサ』は、120キロの体重以外は特に紹介することも無い。


 昼休み、何を食うか迷って購買部の前を通ると、黒い集団が群がっていた。これもいつものことだ。野球部の先輩のパシリで、人気ナンバーワンの焼きそばパンを死に物狂いで買いに来た坊主頭の一年生。目が血走ってる。

無理もない、買い損ねたりしたらどやされるに決まっている。そんな中、見覚えのある後姿を目にした。


モッサだ…


120キロの巨体を思う存分振り回しているモッサは、まだ入学したてで体のできてない一年を、何の遠慮もなくふっ飛ばし、5、6個焼きそばパンを買い占めた。


これが世に言う、人情の欠片もないやつだ。何度かモッサと目が合った様に思えたが、その血走った目はヒグマか猪にしか見えなかった。


 結局、購買部を諦めた俺は、屋上で寝転んで空腹をしのいでいた。春の風の匂いと日差しが心地よくてしばらく一人で沈黙を楽しんだ。


 ―――もう、高校生活最後の春になってた。


「どうした、若者。」


と、黒縁眼鏡のタチバナが横に座り込んできた。


「何か、おもろいことねぇかな~。」


 その言葉に対して、「青春ドラマみたいな台詞やの~。」とタチバナらしい言葉が帰ってきた。空に向けていた目をタチバナに向けて見ると、タチバナも俺のほうを見た。ちょっと見つめ合ってお互い気持ち悪くなって笑ってしまった。


「見つめんな~や。」


「オーレ?お前が見つめるけぇやろうが!」


 オーレ???何それ…。一瞬気持ち悪いと思ったが、出合った頃からタチバナは、自分の事を呼ぶのに「オーレ」と言っていた。昔はいっしょにいた友達みんな大爆笑だったが、笑いがひと段落したくらいに間違えて言ったのかわざと言ったのかを確かめると、いつもタチバナは自信満々に「わざとだ。」と言い放った。


興味なかったんであまり覚えてないが、タチバナが猛烈にファンだと言う何とかバンドのボーカルの真似をしたと言っていた事を思い出したので、今は笑うのを止めた。


「俺等ってさぁ、いつから仲良くなったっけ?」


 そんな、何気ない発言にタチバナは真面目に話し出した…



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