第01話 ソウガじいちゃん
夢は武道館ライブ!ド音痴の少年ジンと神の声を持つ少年ハジメ。
そして、夢を諦めた少女、学園始まって以来の秀才児、120キロの肥満児。イタズラな運命はそれぞれの物語を引き合わせる…
※作品の舞台が山口県のため、台詞に一部読みづらい文章が含まれています。ご了承ください。
茜空の下を、黒のランドセルを背負った三つの影が、ひとつの場所を目掛けて走っていた。
「カシャカシャ」と音がするのは、今日の授業だった算数、理科、社会の教科書とノートが中で踊っているからだ。
季節は、秋から冬に変わろうというのに、三人は薄手のシャツと半ズボン姿だった。
市役所の手前にかかる橋沿いにある建物は、8階建てのビルと10階建てのビルに挟まれた場所に凛と建っていた。
38年前に建てられた建物は、全身をコンクリートで覆われ、甲子園を思わせるような植物の蔓が生い茂っている。両サイドには西洋風の出窓があり、二階のちょうど真ん中あたりには、次に台風が来ると飛んで行ってしまいそうな看板が立て掛けてある。
そこには『KING』とだけ書かれてある。
「カラン、カラン」と古臭い鈴が鳴り、高学年であろう三人の小学生は建物の中に「カシャカシャ」と音をたてながら入って行った。
一階は一面フローリングで、観葉植物の溜まり場になっていた。扉を入って左手にはバーカウンターがあり、世界各国から集めた酒が、所狭しと棚に飾られていた。右手には低いステージがあり、その両側にはアンプと数々の機材が置いてある。
三人はその中央にある螺旋階段を軽快に上り、いくつもの絵画が飾られた廊下を走り、一番奥にある部屋に繋がるドアの前で立ち止まった。
そして、ゆっくりとドアノブを回して部屋の中に入る。
中に入った三人に最初に飛び込んできたのは、入れたてのコーヒーの匂いと、グラグラと揺れる椅子に座る白髪の老人の後姿だった。
「ソウガじいちゃん。」
三人組の一人で、ハリボテのような髪型の少年が、空気の読めない大きな声で叫んだ。
その老人は、入れたてのコーヒーを飲む寸前で止め、カップをテーブルの上に置いた。「コンッ」とカップの音がすると同時に、その老人はしゃべり出す。
「坊主三人が来たって事は、もう4時過ぎかいな…。」
そう言うと、老人は壁に掛けてある時計を見ながら、三人組がいる扉の近くにある四人掛けの黒のソファーに腰掛けた。
動き出した老人を確認した三人は、その老人より先に向かい側に置いてある黒のソファーに、ランドセルも置かずに座り込んだ。
「じいちゃん、早く昨日の続き話してぇや。」
坊っちゃん刈りの少年は、老人が座って葉巻に火をつける作業を見て待ちきれずにしゃべりだした。
「まぁ、そんなに焦るないや。え~と、昨日はどこまで話したかいの~。」
「じいちゃんの中学校時代までは聞いたよ~。明日は高校生時代から話すとか言いよったよ。」
ハリボテ頭の少年が、「しっかりしてよ」と言わんばかりの口調で老人に話した。
老人も、ようやく思い出したのか「お~、そうやったの~。」と言いながら、葉巻の煙を口に含み吐き出しながらしゃべり始めた…