【SIDE】幼なじみの後悔〜カイル視点〜
十年だ。
十年間、俺はあいつを探し続けていた。
リーネ・フローレンス。
伯爵家の庶子。虐げられていた、小さな女の子。
俺が唯一、守りたいと思った人間。
◇◇◇
子供の頃、俺は伯爵家の使用人の息子だった。
屋敷で働きながら、リーネのことをいつも見ていた。
彼女は——いつも一人だった。
正妻に疎まれ、異母姉に蔑まれ、使用人たちにも冷たくされていた。
それでも彼女は——泣かなかった。
小さな部屋で、一人で香りを調合していた。
「いい匂い」と俺が言うと、彼女は嬉しそうに笑った。
あの笑顔が——俺の宝物だった。
「大きくなったら、お前を連れ出してやる」
そう約束した。
でも——俺は、その約束を果たせなかった。
俺が十三の時、父が病で亡くなった。母も後を追うように倒れ、俺は伯爵家を出なければならなくなった。
リーネを置いて。
◇◇◇
それから俺は、必死に生きた。
強くなりたかった。リーネを迎えに行けるだけの力が欲しかった。
剣を学び、騎士になった。黒獅子騎士団に入り、隊長にまでなった。
ようやく——迎えに行ける。そう思った時、彼女は宮廷にいると聞いた。
でも、平民の俺は宮廷に入れない。
待っていた。いつか会える日を。
それなのに——追放されたと聞いた。
血の気が引いた。
俺は彼女を探した。王都中を。
でも、見つからなかった。
◇◇◇
それが——まさか、ここにいたなんて。
訓練場で彼女を見つけた時、俺は自分の目を疑った。
あの亜麻色の髪。琥珀色の瞳。
大人になった彼女は——美しかった。
そして——俺の胸は、十年前と同じように痛んだ。
「もう二度と、お前を一人にしない」
そう言った。本気だった。
でも——
団長が、彼女を見る目。
セオドアが、彼女に向ける笑顔。
レオンハルトが、彼女の前で見せる素顔。
俺だけじゃない。
みんなが——彼女に惹かれている。
「……くそ」
自室で、拳を握りしめた。
十年も待ったんだ。
今度こそ——俺が、彼女を幸せにする。
誰にも、渡さない。




