【SIDE】団長の視線 ヴァルター視点
俺は、自分でも自分がわからなくなっていた。
リーネ・フローレンス。
森で拾った、調香師の女。
追放された身で、行く当てもなく彷徨っていた——そんな女を、なぜ俺は雇ったのか。
使えるからだ。そう言い聞かせてきた。
彼女の調香は確かに優れている。騎士団にとって、必要な人材だ。
だが——それだけじゃない。
あの目だ。
「何もできません」と俯きながらも、諦めていなかったあの目。
俺は——あの目に、惹かれた。
認めたくないが、事実だ。
◇◇◇
彼女が騎士団に来てから、俺の生活は変わった。
仕事の後、彼女の工房の明かりを確認するようになった。
遅くまで灯りがついていると——気になって、見に行ってしまう。
あの夜、夜食を届けたのも——そうだ。
彼女が食事を摂っていないと聞いて、居ても立ってもいられなかった。
「見回りの途中だ」と言い訳したが、見え透いた嘘だ。
俺は——彼女のことが、気になっている。
◇◇◇
今日、彼女がセオドアと親しそうに話しているのを見た。
セオドアが彼女専用の香りを頼んで、彼女がそれを渡していた。
二人は笑い合っていた。親しげに。
その光景を見た時——胸の奥が、ざわついた。
不快な感情。これは、何だ。
セオドアは俺の弟だ。彼女と親しくなるのは、当然のことだ。
なのに——
「……くそ」
執務室で一人、呟いた。
俺は——彼女に、何を求めているのか。
わからない。
ただ——
彼女が作った香り袋を、胸元から取り出す。
森の香りと、少しの甘さ。
鼻先に香りを近づける。
彼女の気配が——そこにあるような気がした。
「……リーネ」
その名を呼んでみる。
誰もいない執務室に、その響きが溶けていった。




