【4-5】団長専用の・・・
実技試験に合格してから、数日が経った。
ある日の午後、団長から呼び出しを受けた。
執務室に行くと——団長は、いつものように机に向かっていた。
「来たか」
「はい。何かご用でしょうか」
「一つ、頼みがある」
団長は、立ち上がった。
「俺専用の香り袋を作れ」
専用の——
セオドアと同じ依頼だ。でも、団長の口から聞くと——なぜか、緊張する。
「わ、わかりました。どんな香りがお好みですか?」
「任せる」
「え?」
「お前が判断しろ。俺に似合うと思う香りを作れ」
私に——任せる?
あの団長が?
「あの……何かヒントをいただけると——」
「いらん。お前の調香師としての判断に任せる」
団長は、それ以上何も言わなかった。
私は——困惑しながらも、頷いた。
「……わかりました。少しお時間をいただきます」
◇◇◇
それから、私は団長のことを観察した。
訓練場での姿。執務室での姿。食堂での姿。
無愛想で、言葉少なで、近寄りがたい人。でも——
部下思いなのは、誰もが認めている。
夜遅くまで書類と向き合っている姿を、何度も見かけた。
訓練では誰よりも厳しく、でも怪我をした騎士には誰よりも早く駆けつける。
そして——私に、夜食を届けてくれた人。
「……わかった」
数日後、私は一つの香りを調合した。
深い森の香りをベースに、ほんの少しの甘さを加えた。
強さと、隠された優しさ。
それが——私が感じた、ヴァルター団長という人だった。
◇◇◇
「できました」
執務室で、香り袋を差し出す。
団長は、それを受け取った。
「……」
香りを嗅ぐ。
沈黙が、数秒続いた。
「……悪くない」
たった一言。
でも、団長の口からその言葉が出るなら——それは最高の褒め言葉だ。
「森の香りをベースに、少しだけ甘さを加えました。団長は——」
言いかけて、口を閉じた。
「強そうに見えて、本当は優しい人だから」——そんなこと、面と向かって言えない。
「何だ」
「い、いえ……気に入っていただけたなら、嬉しいです」
団長は——香り袋を、鎧の内側にしまった。
心臓の近くに。
「っ……」
その仕草に、なぜか胸が熱くなった。
「あの、そこにしまうんですか……?」
「邪魔にならない場所だ」
素っ気ない答え。
でも——心臓の近くに、私が作った香り袋を。
それが、どういう意味なのか——考えないようにした。
「こ、これからも良い香りを作りますね。何かあったらおっしゃってください」
「ああ」
団長は頷いた。
そして——
「……ありがとう」
小さな声で、そう言った。
私は——顔が熱くなるのを感じながら、執務室を後にした。




