表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された宮廷調香師は、辺境騎士団で花開く  作者: 水無月ヨルコ
第4章:試される調香師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/26

【4-5】団長専用の・・・


 実技試験に合格してから、数日が経った。


 ある日の午後、団長から呼び出しを受けた。


 執務室に行くと——団長は、いつものように机に向かっていた。


「来たか」


「はい。何かご用でしょうか」


「一つ、頼みがある」


 団長は、立ち上がった。


「俺専用の香り袋を作れ」


 専用の——


 セオドアと同じ依頼だ。でも、団長の口から聞くと——なぜか、緊張する。


「わ、わかりました。どんな香りがお好みですか?」


「任せる」


「え?」


「お前が判断しろ。俺に似合うと思う香りを作れ」


 私に——任せる?


 あの団長が?


「あの……何かヒントをいただけると——」


「いらん。お前の調香師としての判断に任せる」


 団長は、それ以上何も言わなかった。


 私は——困惑しながらも、頷いた。


「……わかりました。少しお時間をいただきます」



     ◇◇◇



 それから、私は団長のことを観察した。


 訓練場での姿。執務室での姿。食堂での姿。


 無愛想で、言葉少なで、近寄りがたい人。でも——


 部下思いなのは、誰もが認めている。


 夜遅くまで書類と向き合っている姿を、何度も見かけた。


 訓練では誰よりも厳しく、でも怪我をした騎士には誰よりも早く駆けつける。


 そして——私に、夜食を届けてくれた人。


「……わかった」


 数日後、私は一つの香りを調合した。


 深い森の香りをベースに、ほんの少しの甘さを加えた。


 強さと、隠された優しさ。


 それが——私が感じた、ヴァルター団長という人だった。



     ◇◇◇



「できました」


 執務室で、香り袋を差し出す。


 団長は、それを受け取った。


「……」


 香りを嗅ぐ。


 沈黙が、数秒続いた。


「……悪くない」


 たった一言。


 でも、団長の口からその言葉が出るなら——それは最高の褒め言葉だ。


「森の香りをベースに、少しだけ甘さを加えました。団長は——」


 言いかけて、口を閉じた。


 「強そうに見えて、本当は優しい人だから」——そんなこと、面と向かって言えない。


「何だ」


「い、いえ……気に入っていただけたなら、嬉しいです」


 団長は——香り袋を、鎧の内側にしまった。


 心臓の近くに。


「っ……」


 その仕草に、なぜか胸が熱くなった。


「あの、そこにしまうんですか……?」


「邪魔にならない場所だ」


 素っ気ない答え。


 でも——心臓の近くに、私が作った香り袋を。


 それが、どういう意味なのか——考えないようにした。


「こ、これからも良い香りを作りますね。何かあったらおっしゃってください」


「ああ」


 団長は頷いた。


 そして——


「……ありがとう」


 小さな声で、そう言った。


 私は——顔が熱くなるのを感じながら、執務室を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ