【4-4】実技試験
一週間の期限が、ついに来た。
魔獣避けの香り——完成したものを持って、私は団長の執務室に向かった。
扉をノックする。心臓が早鐘を打っている。
「入れ」
低い声に促され、部屋に入った。
ヴァルター団長が、机の前に座っている。相変わらず無愛想な顔だ。
「……期限だな」
「はい。これが——魔獣避けの香りです」
私は、調合した香油の瓶を差し出した。
団長は瓶を受け取り、蓋を開けた。
香りが、部屋に広がる。
森の香りをベースに、魔獣が嫌う特殊な薬草を加えた。さらに、持続性を高めるための魔素を込めてある。
団長は——しばらく、黙って香りを嗅いでいた。
「……」
沈黙が、永遠のように長く感じられた。
「合格だ」
「え……?」
「聞こえなかったか。合格だと言った」
団長の目が、私を見つめていた。
その瞳に——かすかな光が宿っていた。
「これは——上級の魔獣避けだ。俺が予想していたより、遥かに出来がいい」
「ほ、本当ですか……?」
「嘘は言わない」
団長は、瓶の蓋を閉めた。
「お前の調香は、使える。——いや、それ以上だ」
その言葉が、じんわりと胸に沁みた。
「お前は、正式に黒獅子騎士団の調香師だ。これからも、騎士団のために働いてもらう」
「は、はい……!」
私は——涙が溢れそうになった。
認められた。私の調香が、認められた。
私は——ここで、必要とされている。
「……泣くな」
団長の声が、僅かに柔らかくなった。
「え……?」
「泣きそうな顔をしている」
言われて、慌てて目を拭う。
見上げると——団長が、何かを差し出していた。
ハンカチだった。
「使え」
「あ……ありがとうございます……」
受け取ったハンカチは——意外にも、柔らかかった。
無愛想な団長のイメージとは、全然違う。
「……あの、団長」
「何だ」
「なぜ——私を雇ってくれたんですか。最初に会った時から、ずっと気になっていました」
団長は——少し、黙った。
「お前の目だ」
「目……?」
「最初に会った時、お前は『何もできない』と言った。だが、その目は諦めていなかった」
団長の銀灰色の瞳が、真っ直ぐに私を見つめる。
「諦めていない目をした奴は、伸びる。——俺は、そういう奴が好きだ」
好きだ——
その言葉に、心臓が跳ねた。
いや、きっと言葉の意味が違う。人材として、という意味だ。
でも——
「……ありがとうございます」
私は、深々と頭を下げた。
「これからも、精一杯頑張ります」
顔を上げると——団長は、もう視線を逸らしていた。
その耳が——ほんの少しだけ、赤くなっているような気がした。
気のせい、かもしれないけれど。




