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追放された宮廷調香師は、辺境騎士団で花開く  作者: 水無月ヨルコ
第4章:試される調香師

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【4-1】騎士たちの依頼


 魔獣避けの香りを作り始めて、三日が経った。


 朝から晩まで工房に籠もり、調合を繰り返す日々。少しずつ、理想の配合に近づいている手応えがあった。


 その日の午後——


 コンコン、と工房の扉が叩かれた。


「はい、どうぞ」


 扉を開けると——そこに、見知らぬ騎士が立っていた。


 大柄な男性。筋骨隆々とした体格。顔には戦傷がいくつもある。


「あ、あの……何か……」


「お前が調香師か」


 男は、私を見下ろした。


「頼みがある」


「頼み……?」


「筋肉痛に効く香りを作ってくれ」


 筋肉痛——


 予想外の依頼に、私は目を瞬いた。


「昨日の訓練で身体中が痛くてな。何か良い香りはないか」


「え、ええと……」


 戸惑いながらも、頭の中で調合を考える。


 筋肉痛なら——血行を促進する香りがいい。ローズマリー、ユーカリ、それからペパーミント……


「少々お待ちください」


 私は工房に戻り、手早く香油を調合した。


 十分ほどで、小さな瓶に入った香油が完成する。


「これを、痛い場所に塗ってください。血行が良くなって、痛みが和らぐはずです」


 騎士は、疑わしそうに瓶を受け取った。


「……本当に効くのか?」


「効かなかったら、また来てください。別の配合を試します」


 自分でも驚くほど、自信を持って答えていた。


 騎士は——少し驚いた顔をして、それから笑った。


「気に入った。ありがとうな、調香師」


 そう言って、彼は去っていった。



     ◇◇◇



 それが始まりだった。


 噂を聞きつけた騎士たちが、次々と工房を訪ねてくるようになったのだ。


「眠れない夜のための香りを作ってくれ」


「傷の治りを早くする香りはあるか?」


「故郷の花の匂いがする香り袋が欲しい」


 様々な依頼が舞い込んでくる。


 私は、一つ一つ丁寧に対応した。相手の話を聞き、症状や要望を確認し、最適な香りを調合する。


 忙しかった。でも——楽しかった。


 自分の調香が、誰かの役に立っている。


 その実感が、何よりも嬉しかった。


「リーネさん、大人気ですね」


 夕方、セオドアが工房を訪ねてきた。


「聞きましたよ。騎士たちの間で、リーネさんの香りが評判だって」


「そ、そうなんですか……?」


「ええ。みんな、『あの調香師は本物だ』って言ってます」


 本物——


 その言葉が、胸に沁みた。


「これくらいの調香なんて誰でもできます……」


「そんなことありませんよ」


 セオドアは、きっぱりと言った。


「リーネさんの調香は、特別です。僕にはわかります」


 彼の碧眼が、真っ直ぐに私を見つめている。


「だから——自信を持ってください」


 私は——言葉が出なかった。


 こんなに真剣に、私を認めてくれる人がいる。


 それが——どれほど救いになるか。


「……ありがとうございます、セオドアさん」


 私は、小さく頭を下げた。


 セオドアは——太陽のように笑った。


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