【3-7】10年ぶりの再会
「カイル……」
私は、目の前の男を見つめた。
赤い髪。緑の瞳。あの頃の面影が、確かに残っている。
でも、あの小さな少年が——こんなに立派な騎士になっていたなんて。
「十年だ。十年も探してた」
カイルの声は、震えていた。
「お前が宮廷に行ったって聞いて、会いに行こうとしたんだ。でも、俺みたいな平民は、宮廷には入れなくて——」
「カイル……」
「そしたら、追放されたって噂を聞いた。それからずっと、お前がどこにいるか探してて——」
カイルが、私の両肩を掴んだ。
その手が、熱い。
「なんで……なんでここにいるんだ? どうやってここまで……」
「私は——」
言葉が、詰まった。
追放されて。行く場所がなくて。ギルバートに辺境を勧められて。流れ着くように、ここまで来て——
「……長い話になる」
私は、小さく笑った。
「でも、今は元気だよ。ここで、調香師として雇ってもらう予定なの」
「調香師……そうか、お前、調香が得意だったもんな」
カイルの顔が、ようやく緩んだ。
「覚えてる。子供の頃、お前が作ってくれた花の香り袋。俺、ずっと持ってたんだ」
「え……?」
「捨てられなくてな。お前を思い出すから」
カイルは、照れたように頭を掻いた。
「……って、こんなこと言って、気持ち悪いよな。十年も会ってなかったのに」
「ううん」
私は首を振った。
「嬉しい。覚えててくれて」
沈黙が落ちた。
夕暮れの訓練場。騎士たちの声が、遠くから聞こえる。
「リーネ」
カイルが、真剣な目で私を見た。
「俺は——あの時、お前を連れ出せなかった。伯爵家で虐められてるお前を、助けられなかった」
「カイル……」
「ずっと後悔してた。俺がもっと強ければ、お前を守れたのにって」
彼の声には、深い痛みが滲んでいた。
「でも、今は違う。俺は騎士になった。お前を守れるだけの力がある」
カイルは、私の手を取った。
「だから——もう二度と、お前を一人にしない」
その言葉が——胸に、熱く響いた。
「……ありがとう、カイル」
私は、彼の手を握り返した。
「でも、私はもう大丈夫。ここで——自分の力で、生きていくから」
カイルは、少し寂しそうに笑った。
「……相変わらず、強情だな」
「そうかな」
「ああ。昔から、お前はそうだった」
二人で、小さく笑い合った。
十年ぶりの再会。でも、不思議と——すぐに打ち解けられた。
まるで、昨日まで一緒にいたかのように。
◇◇◇
その様子を——訓練場の隅から、一人の男が見ていた。
ヴァルター・ローゼンハイン。
彼は、リーネとカイルが手を取り合う姿を、黙って見つめていた。
その銀灰色の瞳には——どこか、複雑な光が宿っていた。
「……幼なじみ、か」
小さく呟いて、ヴァルターは踵を返した。
胸の奥で——何かがざわついていた。
それが何なのか、彼自身にもわからなかった。




