【3-4】軍医との出会い
午後、私は医療棟を訪ねた。
調香師として、医療との連携は欠かせない。軍医に挨拶をしておかなければ。
医療棟は、城塞の東側にある白い建物だった。清潔な雰囲気が漂っている。
「失礼します」
扉を開けると——薬草の匂いが鼻をくすぐった。
見慣れた匂い。調香師として、何度も嗅いできた匂い。
「あら、お客さんですか?」
奥から、穏やかな声がした。
振り返ると——そこに、淡い緑色の髪をした青年が立っていた。
金色の瞳。柔らかな微笑み。白衣を纏った、どこか浮世離れした雰囲気の人。
「あなたが、新しい調香師さんですね。話は聞いていますよ」
「は、はい……リーネ・フローレンスです」
「僕はフィン・ノーチェ。この騎士団の軍医です」
フィンは、にっこりと笑った。
「調香師さんが来ると聞いて、楽しみにしていたんです。僕の治療と、相性が良さそうだから」
「相性……?」
「ええ。僕の治癒魔法と、あなたの香魔法。組み合わせれば、より効果的な治療ができると思うんです」
フィンは、棚から一つの薬瓶を取り出した。
「たとえば、この傷薬。効果はあるんですが、匂いが強くて患者さんが嫌がるんです。もし、香りを改善できれば——」
「あ、それなら——」
思わず、言葉が出ていた。
「ラベンダーとカモミールを加えれば、匂いを和らげられます。しかも、両方とも鎮静効果があるから、痛みの軽減にも——」
言いかけて、慌てて口を閉じた。
また、余計なことを言ってしまった。
でも、フィンは——目を輝かせていた。
「素晴らしい! さすが調香師さんですね」
「え……?」
「やっぱり、専門家は違います。ぜひ、一緒に研究しましょう」
フィンは、私の手を取った。
その手は——温かかった。
「リーネさん。あなたの力は、ここで必ず役に立ちます。僕が保証しますよ」
役に立つ——
また、その言葉だ。
「……ありがとうございます」
私は、小さく頭を下げた。
「よろしくお願いします、フィンさん」
「こちらこそ。——あ、そうだ」
フィンはふと思い出したように言った。
「今度、薬草園を案内しますよ。城塞の裏に、小さな園があるんです。リーネさんなら、きっと気に入ると思います」
薬草園——
その言葉に、心が躍った。
「ぜひ、お願いします」
私は——この場所で、少しずつ居場所を見つけ始めていた。




