【3-3】天才剣士の洗礼
セオドアが去った後、私は一人で工房を見て回っていた。
棚に並んだ薬草を確認し、調合台の状態をチェックする。どれも上質な設備だ。これなら、どんな調香でも——
「——ふん」
突然、背後から声がした。
振り返ると——入り口に、一人の少年が立っていた。
銀色の髪に、紫の瞳。中性的な美貌。華奢な体つきだけれど、その佇まいには隙がない。
「あなたが、新しい調香師?」
少年は、私を頭のてっぺんからつま先まで眺め回した。その目は——冷たかった。
「は、はい……リーネ・フローレンスです」
「フローレンス? 聞いたことがある。王都の伯爵家だったか」
少年は鼻を鳴らした。
「でも、庶子だろう。しかも追放された」
——っ。
その言葉が、胸を抉った。
知っているのか。私のことを。
「噂は聞いているよ。宮廷を追われた調香師だって。何をやらかしたんだ?」
「私は……何も……」
「何も? 冤罪だとでも言うのか?」
少年は嘲るように笑った。
「まあ、どうでもいい。どうせすぐに逃げ出すだろうからな」
「逃げ……?」
「ここは辺境だ。王都とは違う。ぬるま湯に浸かっていた貴族のお嬢様が、やっていけるとは思えない」
私は——唇を噛んだ。
確かに、私は庶子だ。追放された身だ。
でも——
「……逃げません」
気づいたら、声が出ていた。
少年が、僅かに目を細めた。
「私は——ここで役に立ちたいんです」
震える声だった。でも、心からの言葉だった。
「だから、逃げません。絶対に」
沈黙が落ちた。
少年は、しばらく私を見つめていた。
その目に——「試している」ような色があった。
「……ふん」
少年は踵を返した。
「僕はレオンハルト・ミルティア。この騎士団の剣士だ」
去り際に、彼は振り返った。
「覚えておけ。僕は、実力のない者は認めない。——お前が本当に使えるかどうか、見させてもらう」
そう言い残して、レオンハルトは去っていった。
一人残された私は——震える手を胸に当てた。
怖かった。
でも——負けたくないと思った。
あの少年に、「やっぱり使えない」と言われたくない。
私は——ここで、自分の価値を証明する。
必ず。




